1
ある日の午後、のどかな時間が流れていました。
東京の松波小学校の校庭では、子どもたちが元気に遊んでいました。休み時間なので、一年生から六年生まで、みんなでかけっこをしたり、キャッチボールをしたり、器械体操をしたりと、思い思いに過ごしていたのです。
「あっ、ヘリコプターだ!」
だれかが叫びました。
「ほんとだ、ヘリコプターだ!」
みんな口々に叫びながら、空を見上げました。よく晴れた真っ青な空に、ヘリコプターが小さく浮かんでいます。高く飛んでいるので、乗っている人の姿までは見えません。
「あっ、ビラだよ。ビラをまいたぞ!」
また、大きな叫び声がわき上がりました。おお、ごらんなさい。ヘリコプターから、さあっと粉のようなものが吹き出したかと思うと、それがキラキラと輝きながら、ゆっくりと落ちてくるのです。落ちてくるにつれて、粉のようなものは少しずつ大きくなり、空一面に広がっていきました。
「きれいだねえ。金色に光っているよ」
本当に、その一つひとつが金色に光り輝いていました。ただの紙のビラではありません。なんだか不思議なものです。
「あらっ、あれ、おめんだわ。金色のおめんだ!」
女の子が叫びました。そうです。それはおもちゃ屋さんで売っているような、セルロイドのお面のような形をしていました。何百という金色のお面が、空から降ってくるのです。チカチカ、キラキラと、その美しいことといったらありません。子どもたちは、これほど美しい景色を見たことがありませんでした。
しばらくすると、そのたくさんのお面が校庭のあちこちに落ちてきました。みんなは「わあっ」と声を上げてその方へ駆け出し、われ先にと金色のお面を拾い集めました。
その日の放課後、同じ方向へ帰る子ども七人が、一かたまりになって歩いていました。みんな、拾った金色のお面をかぶっています。あのとき、お面は百以上も校庭に落ちたのですから、みんながお面を持っていても不思議ではありません。
それは、セルロイドを金色に塗ったお面でした。金色にピカピカ光った顔が、ニヤリと笑っているのです。唇の両端がキュッと上へ上がった、三日月形の口をしていました。
「きみたち、そのお面がなんだか知っているかね?」
突然、うしろで声がしました。振り返ると、背広を着た大人の男性が、やはり金色のお面をかぶって立っていました。
「あっ、杉山先生だ!」
だれかが言いました。担任の先生ではないのでよくわかりませんが、なんとなく杉山先生に似ています。
「このお面がなんだか、知っているかね?」
杉山先生らしい人は、もう一度たずねました。
「知りません。どうしてこんなものをまいたんでしょう?」
五年生の石村たかしくんが言いました。
「『黄金仮面』だよ」
「えっ、黄金仮面って……」
「きみたちは知らないかね。金色をした顔の、『黄金仮面』という大泥棒だよ」
「あっ、あの黄金仮面! でも、なぜこんなお面をばらまくのでしょう?」
「それは、黄金仮面がこの辺りに現れるぞ、という前ぶれだよ。あいつは、そんなことをするのが大好きだからね」
杉山先生らしい人はそう言うと、おかしそうに笑いました。
「この中に、石村たかしくんはいるかね?」
「はい、います。ぼくです」
「それから、きみの妹のミチ子ちゃんは?」
「ええ、いるわ。あたし、ミチ子よ」
ミチ子ちゃんは、二年生の可愛らしい女の子でした。
「そのふたりに、ちょっと用事があるんだよ。さあ、こっちへおいで」
杉山先生らしい人は、ふたりの手をとって横町へ曲がりました。そこは昔からあるお宮で、深い森に囲まれ、昼間でも薄暗い場所です。たかしくんとミチ子ちゃんは、なんだか気味が悪くなってきました。
大きな木が立ち並ぶ薄暗い場所まで来ると、突然、杉山先生の姿が見えなくなってしまいました。ふたりの手を離して、大きな木の向こう側へ行ったかと思うと、そのまま消えてしまったのです。
きょうだいはあちこちと探し回りましたが、どこにも先生の姿はありません。仕方がないから帰ろうとすると、「えへへへへ……」という気味の悪い笑い声が聞こえ、大きな木の幹の後ろから、体じゅう金色に輝く怪物が姿を現しました。
あっ、黄金仮面です。杉山先生がいつの間にか黄金仮面の姿に変わって、ふたりの前に現れたのです。
2
石村たかしくんと、妹で二年生のミチ子ちゃんは、杉山先生だと思っていた人に、古いお宮の森の中へ連れ込まれました。ところがその人は、恐ろしい黄金仮面だったのです。
黄金仮面こそ、人々から恐れられていた怪人二十面相なのです。
「わっははは。どうだ、俺が何者かわかっただろうな。いや、何も怖がることはない。君たちに乱暴なことはしない。ただ、君たちのお父さんが持っている、立派な絵が欲しいのだ。明日の夜、頂戴にあがるとお父さんによく言っておくのだよ。わかったね」
そう言ったかと思うと、二十面相は、ぱっと森の中から駆け出していきました。そして少し経つと、遠くから自動車の走り出す音が聞こえてきました。きっと、お宮の外に自動車を待たせておいたのでしょう。
たかしくんとミチ子ちゃんは、急いで家に帰り、お父さんにこのことを話しました。石村くんのお父さんは絵が好きで、立派な絵をたくさん集めていました。二十面相は、それを盗みに来るというのです。
石村さんはすぐに、名探偵の明智先生に電話をかけました。けれども明智探偵は留守で、少年名探偵の小林くんがやって来ることになりました。小林くんは、少年探偵団の団長です。団員六人と、それから警視庁の中村警部に話をして、刑事六人を連れ、あくる日の昼ごろ、石村さんの家にやって来ました。
六人の刑事と、六人の少年たちは、手分けをして部屋の入り口や周りの庭で見張り番をしました。昼間は何事もなく、夜になりました。小林くんは、部屋の入り口の廊下の椅子にかけて頑張っています。部屋の外の暗い庭には、刑事たちが窓と塀の間を行ったり来たりしていました。みんな、手に丸い棒のようなものを持って、急ぎ足で歩いています。
次の日の朝になると、石村さんが小林くんのところへやって来ました。
「あっ、石村さん、何事もありませんでした。部屋を調べてください。二十面相は、僕たちを恐れて、とうとう盗み出せなかったのです」
小林くんがそう言ったので、石村さんは部屋の中を調べましたが、絵は一つもなくなっていません。そこで小林くんたちは帰っていきました。
みんなが帰ってしまったあとで、石村さんのところへおかしな電話がかかってきました。
「君は石村さんかね。ははは、とうとう騙されたね」
「えっ、なんだって。君はいったいだれだ」
石村さんはびっくりして聞き返しました。
「はっははは、わかりませんか。こんな電話をかけるのは、あいつに決まっているじゃありませんか」
「えっ、あいつだって。それじゃ、君は二十面相だな」
「そうだよ、お気の毒様。君の大切にしている絵は、みんな頂戴したよ」
「えっ、頂戴したって。わたしの部屋の絵は一つもなくなっていないよ。ははは」
「ははは、君の目もあてにならないね。あれはみんな偽物だよ。小林も偽物。少年団員や刑事も偽物。みんな、俺の子分だったのだ。
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