初級翻訳・大金塊 第13話

大金塊

いちばん大きないびきをかいていたのは、昼間、小林君を牢に閉じ込めて、外から変な顔をして見せてからかったあの男でした。
口をとんがらかして、息をするたびにふうふうとほおをふくらませています。
小林君はそれを見て、思わず吹き出しそうになりました。
でも、眠っている手下の男なんかを見ていてもしかたがありません。
目指すのは悪者のボスの部屋です。
ぐずぐずしている場合ではないと、ドアを閉めようとしたとき、ふと見ると入り口近くの棚の上に、丸型の懐中電灯が置いてありました。

「おっ、いいものがあったぞ。これをしばらく借りていこう」

小林君はそっとその懐中電灯を取り、ドアを閉めました。
探偵の七つ道具の一つである万年筆型の懐中電灯は、ちゃんとポケットに用意してあったのですが、それよりも大きな懐中電灯が手に入れられれば、そのほうがずっと都合がよかったからです。

それからまた廊下を進んでいくと、二つの空き部屋を通り過ぎて、その向こうに、見覚えのあるボスの部屋がありました。
ここもドアにカギがかかっていなくて、すんなりと中に入ることができましたが、ここには電灯がついていなくて真っ暗です。
入り口にかがみこんで息を殺し、じっと様子をうかがってみましたが、広い部屋の中はひっそりとしていて、まるで誰もいないかのように何の物音もしません。
人がいれば、たとえ寝ていても寝息の音がするはずですが、それすら聞こえないところをみると、ここは誰もいないのかもしれません。
小林君は思い切ってパッと懐中電灯をつけ、大急ぎでグルッと部屋の中を照らしてみました。
やっぱり、部屋はからっぽです。
悪者のボスはいったいどこへ行ったのでしょう。
しかし考えてみると、この部屋にはベッドもないのですから、ここで寝るわけにはいきません。
きっとボスの寝室は、もっと別のところにあるのでしょう。
誰もいないとわかると、小林君は大胆になって懐中電灯を照らしながら部屋中を歩き回り、例の暗号文がしまってありそうな場所はないかとくまなく調べましたが、そんな場所はどこにもありません。
引き出しのないテーブルとイスのほかには、何もないのです。

ところが、そうして部屋の中をぐるぐると歩き回っているうちに、とつぜん、不思議なことが起こりました。
小林君はびっくりして、もう少しで「あっ!」と大きな声を立てるところでした。
そのとき小林君は、右手で懐中電灯を持ち、左手で壁をなでながら歩いていたのですが、その壁の一部分がゆらゆらと動き出し、あっと思う間にそこに大きな穴が開いてしまったのです。
小林君は勢い余ってその穴の中へよろけこみましたが、ぐっと踏みこたえてよく調べてみると、それはとなりの部屋へ通じる隠し戸だったのです。
壁と同じ色に塗ってあって、少しも見分けがつかないようになっているドアでした。
どこかにその秘密のドアを開ける仕掛けのボタンがあって、小林君の左手がそのボタンに触れてしまったのかもしれません。
思いがけず、秘密の入り口を発見してしまったのです。

しかし、もしその秘密の部屋に人がいたら大変です。小林君はドキドキしながら懐中電灯をさし向けてみましたが、さいわいそこには誰もいないことがわかりました。
そこは五メートル四方くらいの小さな部屋で、一方のすみに立派なベッドが置いてあるところからみると、ここがボスの寝室に違いありません。
でも、そのベッドの上はからっぽです。
やっぱり、ボスはどこかに出かけていて留守なのでしょうか。
でも、留守だとしたらちょうど好都合です。
そのあいだにこの部屋の中も調べることができるからです。
ここには大きな西洋だんすなどもあって、暗号文が隠してありそうな気がします。ベッドの反対側の壁ぎわには、立派な彫刻(ちょうこく)の飾られた西洋だんすが置いてありました。
小林君はまず、その引き出しをかたっぱしから調べました。
カギのかかっている引き出しは、おなじみの万能カギで苦もなく開け、なかのものを残らず調べましたが、暗号文らしいものはどこにも見当たりませんでした。
その大きなだんすの一番下は、高さ八十センチほどの、左右に開く両開きの扉(とびら)になっていたのですが、小林君は最後にその扉を開いて、中をのぞいてみました。
すると不思議なことに、その中には何も入っていないのです。
中は人間が一人、楽に入れるほど広いのですが、それがまったくのからっぽなのです。
「変だなあ。
ほかの引き出しにはどれも何か入っているのに、こんなに広い場所に何も入れてないなんて、おかしいぞ」
小林君は思わず首をかしげました。
さすがは名探偵の助手だけあって、少しでも変だと思えば、徹底的に調べないでは気がすまないのです。
そこで、その両開きの扉の中へと入りこみ、懐中電灯で奥のほうを照らして調べました。よく見ると、その奥の板がだんすにしっかりと固定されておらず、少しぐらぐらと動くような気がするのです。
「いよいよ怪しいぞ。
もしかしたら、ここからまた別のどこかへ秘密の通路が作られているのかもしれないぞ」
小林君は胸をドキドキさせながらさらにあたりをよく調べると、右側の板のすみに、小さなボタンのような出っ張りがあるのに気づきました。
「あっ、これかもしれない!
これをおせば、うしろの板が開くのかも!」
思いきってそのボタンをギュッと押してみました。
すると――ああ、やっぱりその通りでした!
うしろの板がスーッと下へ下がっていき、その向こうに広いすきまができたのです。
外から見たときはだんすのうしろはすぐ壁になっているはずなのに、その壁をくりぬいて、せまい通路が作られていたのです。
見ると、そのせまいすきまに、まるで鉄のはしごのようなものがまっすぐ立っています。
「おや、それじゃあこの通路は上へ上るようになっているんだな!
きっと地下室から、この上にある建物の中へ行けるようになっているんだ。
よし、このはしごを上ってみよう!」
小林君は、せまくて真っ暗なすきまへと身をすべりこませ、まっすぐに立つ鉄のはしごを上りはじめました。
用心のために懐中電灯は消してしまったので、まるで深い洞窟(どうくつ)の中にいるような気分です。
ああ、このはしごの上にはいったい何があるのでしょうか。
小林君はこのあと、思いがけない恐ろしい目にあってしまうのでしょうか……?

賊の正体

真っ暗でせまいもののはしごを十二、三段ほど上ると、頭が板のようなものにフワッと触れました。
そのまま行き止まりになっているのです。
「おや、変だなあ。
こんなところでいきなり行き止まりになるはずはないんだけど」
と思って手を伸ばしてさぐってみると、そこは上の部屋の入り口らしく、厚い板でふたがしてあることがわかりました。
小林君はぐっと力をこめて、その板を押し上げました。
すると、板には蝶番(ちょうつがい)がついているらしく、スーッと上へ開いていくのです。
あとでわかったことですが、それはちょうど道路にあるマンホールのふたぐらいの大きさの、丸い板でした。
つまり、上の部屋の床にそんな穴があいていて、板のふたがしてあったわけです。

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