もうだめだ
そのとき、地底の水の中では、井上君とポケット小僧が、おたがいのからだをだきあって、ブクブクと、しずみかけていました。
さっき死にものぐるいの声で、どなったので、もう、最後の力がつきてしまったのです。
手も足もしびれてしまって、もう水に浮いていることができません。
「井上さん、苦しい。
助けて」
ポケット小僧が、井上君にしがみついてきました。
「あっ、いけない。
しっかりするんだっ」
しがみつかれたので、井上君もしずみそうになりました。
このまま、ふたりが、だきあって、しずんでしまえば、もうおしまいです。
なんとしても、がんばらなければ……。
井上君は、いきなり、ポケット小僧のよこっつらを、ピシャッと、たたきつけました。
むろん元気づけるためです。
たたかれたポケット君は、ニヤニヤとわらいました。
もう気がとおくなりかけて、ゆめみごこなのです。
そして、またしても、井上君のからだに、しがみついてきました。
「あっ、いけない。
それじゃ、ぼくもしずんでしまうよ」
しかし、ポケット君には、もうなにも聞こえません。
井上君は、コンクリートの壁に手をあてて、がんばりました。
でも、つかれきっているので、ズルッ、ズルッと、手がすべって、からだが水の中へ、しずんでいきます。
口を水から出しているのが、やっとでした。
あっ、いけない。
口のすみから、ドッと水が、ながれこんできました。
ポケット小僧のおもみで、下へ下へと、引っぱられるからです。
「ああ、もう、だめだっ……」井上君は、水にむせながら、最後の悲鳴をあげました。
そして、だきあったふたりは、グングン水の底へ、しずんでいくのです。
なわばしご
パタンと音がして、へやの床板が二つにわれました。
小林少年のおしたボタンがはたらいて、おとし穴の口が開いたのです。
そこへ、はらばいになって、懐中電燈を、さしつけてみると、ふたりの少年が、いま、ゴボゴボとしずんでいくところでした。
いつも腰にまきつけているナイロンのなわばしごには、細いナイロンのひもに、三十センチおきに、足がかりの玉がついています。
それに足のゆびをかけて、おりたり、のぼったりするのです。
少年探偵団の七つ道具とはべつに、おもな団員が持っている、たいせつな道具です。
小林君は、そのなわばしごのはしを、ふたりのおまわりさんに、にぎっていてもらって、スルスルと、つたいおりていきました。
「井上君、ポケット君、助けにきたぞっ。
しっかりするんだっ」
しかし、返事はありません。
ふたりとも、気をうしなっているのです。
スーッと、水の底へしずんでいくのです。
小林君は、服のまま、水の中へとびこみました。
そして、まずポケット小僧のからだに、なわばしごのはしを、まきつけて、しっかりくくってから、合図をしました。
すると、上のおまわりさんが、力を合わせて、これを、引っぱりあげてくれるのです。
小林君はそのあいだ、水の中をおよいでいました。
そして、つぎには井上君を助け、最後に小林君は、なわばしごを、つたって、もとのへやにかえりました。
こうして、井上君とポケット小僧は、すくわれたのです。
みんなのかいほうをうけて、やがて正気にかえりました。
怪人のゆくえ
しかし、人形怪人のほうは、まだ見つかりません。
そとには、見はりのおまわりさんがいるのですから、逃げだすことはできません。
家の中にいるにちがいないのです。小林少年は、井上君が、すこし元気づくのを待って、たずねてみました。
「人形怪人が、どこにかくれているか、きみには、わからないかい?」
「地下道はさがしたの?」
「地下道って?」
「マンホールへ出る地下道だよ。
あすこはいりくんでいるから、いいかくれ場所だよ」
「よし、それじゃ、そこをさがそう」
小林少年が、そのことをつたえますと、中村警部が十人ほどのおまわりさんをつれて、地下道へ、ふみこんでいくことになりました。
あのきみのわるいじいさんのいたへやも、へびがウジャウジャいたへやも、みんなこの地下道の中です。
そのほかにも、小さいへやがいくつもあって、まるで迷路のようになっているのです。
おまわりさんたちは、てんでに、懐中電燈をてらして、その地下道へのりこんでいきました。
「あっ、あやしいやつがいたぞっ」
さきにたったおまわりさんが、さけびながら、ひとつの小べやへ、とびこんでいきました。
「それっ」というので、みんなが、そこへはいってみますと、あっ、だれもいません。
さっきのおまわりさんはどこへ行ったのでしょう。
迷路ですから、方々に出入口があるので、さがすのもたいへんです。
「わはははは……」
どこからか、人をばかにしたような、わらい声がひびいてきました。
しばられた怪人
怪人のすみかから、へいの外のマンホールへ続いている、ひみつの地下道へ、中村警部と十人のおまわりさんが、ふみこんでいきました。
宝石どろぼうの怪人が、地下道へかくれたらしいというので、それをとらえるためです。
おまわりさんたちは、手に手に懐中電燈をもっていましたけれども、曲がりくねった地下道ぜんたいを、てらすことはできません。
すみずみに、くらやみがあって、なにものが、かくれているかもしれないのです。
そのうちに、ひとりのおまわりさんが、「あっ、あやしいやつがいる」とさけんで、どこかへ、かけだしていきました。
みんなは、そのあとを追いましたが、小べやのいくつもある地下道ですから、どこへはいっていったのか、なかなか見つかりません。
あっちへいったり、こっちへいったり、まごまごしているうちに、時間がたっていきました。
「おうい、みんなきてくれ。
とうとう、つかまえたぞう」
とおくのほうから、さっきのおまわりさんのどなりごえが、きこえてきました。
「それっ」というので、みんなは、そのほうへ、かけだしました。
さきにたったおまわりさんが、そこへ懐中電燈をむけました。
まるい光のなかに、人形のようなぶきみな顔の男が、おまわりさんと、とっくみあっているすがたが、てらしだされました。
「あっ、あいつだっ。
みんな、かかれっ」
中村警部がどなりました。
すると、四、五人のおまわりさんが、かさなるようにして、怪人にとびつき、そこへ、くみふせてしまいました。
カチンという音がして、怪人の両手に手じょうが、かけられました。
「手じょうだけでは、あんしんできない。
細引きで、しばりあげるんだ」
警部のさしずにしたがって、しばろうとしましたが、怪人は、きちがいのように、手足をバタバタやって、なにかさけんでいます。
しかし、おまわりさんのほうは、おおぜいですから、とても、かなうものではありません。
やがて怪人は、手も足も、グルグルまきにしばられて、身うごきもできなくなってしまいました。
それでも、まだ、なにかわめいています。
「ちがう。
ちがうったら。
お面をとってくれ。
このお面をとってくれっ」
やっと、怪人のいっていることがきこえました。
「ちがう」とは、なにがちがうのでしょうか。
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