どこからか、「ウオーッ……。」という恐ろしいうなり声が、ひびいてきました。
人間ではありません。
動物の声です。
猛獣のうなり声です。
みんなはギョッとして、声のするほうを見ました。
懐中電灯を、そのほうにむけました。
右手にべつのほら穴の口がひらいています。
そこが枝道になっていたのです。
あのうなり声は、どうやら、その枝道の奥からひびいてきたようです。
「あっ!」
まっさきに立っていた警官が、思わず声をたてました。
なにを見たのでしょう? その枝道の穴の中に、なにかいるのでしょうか。
ピカッと光りました。
金色のものです。
そして、それが、だんだん大きくなってきます。
なにものかが、穴の中から、こちらへ出てくるのです。
「ワハハハハ……。おい、用心しろ。番人が出てきたぞっ。いまに、きさまたち、くわれてしまうぞ。」
西洋悪魔は、そんなおどかしをいって、おもしろそうに笑っています。
「あっ、トラだっ!」
小林君が、それに気づいて叫びました。
みんなは、たじたじとあとじさりをしました。
穴の中から、ヌーッとあらわれたのは、一ぴきの大きなトラでした。しかも、そいつは金色に光っているのです。
黄金のトラです。
「ガア……ウオーッ……。」
黄金の巨大なトラは、穴の外へ全身をあらわして、まっかな口をガッと開くと、また一声うなりました。
「ほら、あのおまわりさんをやっつけろ。あっちがわにいるのは、みんな、おれの敵だ。わかったか。」
西洋悪魔は、大声でトラをけしかけました。
トラはそれにしたがって、ヌーッとこちらをむきました。
二つの目が、らんらんとかがやいています。
「ウオーッ……。」
するどい牙をむきだして、もう一度うなりました。
そして、のそり、のそりと、こちらへ近づいてきます。
警官たちも、小林君も、逃げごしになっていました。
ところが、ポケット小僧だけは、へいきです。
にやにや笑いながら、もとの場所につっ立っているではありませんか。
「おい、ポケット小僧、あぶないよ。はやく逃げろ!」
小林君が、心配して声をかけますと、小僧は、こちらをふりむいて、いみありげに、また、にやりと笑いました。
いったい、これはどうしたわけでしょう?
ところが、そのとき、みょうなことが起こりました。
こちらに近づいていたトラが、ふっと立ちどまったのです。
そして、ゆっくりと、まわれ右をしました。
西洋悪魔のほうに、むきなおったのです。
「おい、なにをしている。こっちじゃない。そこのおまわりを、やっつけるんだ。」
西洋悪魔はびっくりして、トラをどなりつけました。
しかしトラは、ゆうゆうと西洋悪魔のほうへ近づいていきます。
そして、一メートルほどに近よったかと思うと、「ウオーッ……。」とひと声、パッとおどりあがって、いきなり、西洋悪魔にとびかかったではありませんか。
「ギャーッ……。」
西洋悪魔が、恐ろしい叫び声をたててたおれました。
トラは、その上にのしかかって、いまにも、相手ののどへくいつきそうにしています。
「ワハハハハ……。」
どこからか、西洋悪魔のとはちがった、ほがらかな笑い声がひびいてきました。
みんながびっくりして、そのほうをながめます。
トラの出てきたあのほら穴から、だれかの姿があらわれました。
「あっ、明智先生っ!」
小林君が、うれしいおどろきの叫び声をたてました。
それは名探偵明智小五郎でした。
いつのまに、こんなところへきていたのでしょう。
いつもの黒い背広をきた、すらっとした姿が、そこに立ちはだかっていました。
「ワハハハハ……、赤堀さん、もういいから、皮をぬぎたまえ。」
明智探偵が、わけのわからないことをいいました。
赤堀さんとは、いったいだれでしょう。
どこにいるのでしょう。
すると、へんなことが起こりました。
西洋悪魔の上にのしかかっていたトラが、あと足で立ちあがって、なにかもがもがやっていたかと思うと、おなかが、たてにスーッとさけて、中から、人間のしらが頭が、ニュッと出てきたではありませんか。
ああ、これはいったい、どうしたというのでしょう。
さいごの切り札
黄金のトラは、ほんとうのトラではなかったのです。
トラの毛皮の中に、人間がはいっていたのです。
あのうなり声は、毛皮の中に、なにかそんな音を出す笛が、しかけてあったのでしょう。
口がひらくのも、ちょうつがいになっていて、中の人間が、口でそれを動かしていたのにちがいありません。
すっかり毛皮をぬいでしまったのは、しらがの老人でした。
どこかに、見おぼえがあります。
ああ、そうだっ! 赤堀鉄州老人です。
小林君が少女にばけて、おばけやしきにのりこみ、よろいびつにかくれていると、外から釘をうちつけてしまった、あのよっぱらいじいさんです。
じいさんは、明智探偵の弟子になりたいといっていましたが、いつの間にか、こっそり弟子入りをして、明智探偵の手だすけをするようになっていたのでしょう。
赤堀じいさんは、たおれている西洋悪魔をにらみつけて、どなりはじめました。
「こら、きさま、よもや、おれの顔を、わすれやしまい。きさまは、この赤堀鉄州の名前をかたって、木の宮運送店にルミちゃん人形を、甲野さんのところへ届けさせただろう。西洋悪魔に姿をかえているが、きさまは、あの人形じいさんにきまっている。わしを焼き殺そうとした、あの人形悪魔だっ。わしは、そのうらみをはらそうと思って、明智先生に弟子入りした。そして、ここにいるポケット小僧の手びきで、明智先生といっしょに、ここへしのびこんできた。きさまの計略は、ポケット小僧が、みんなさぐり出していたんだ。だから、きさまの手下がこのトラの毛皮をきて、ここへあらわれるということもちゃんとわかっていた。そこで、明智先生が先手をうって、この毛皮の中にはいっていたきさまの手下をひっとらえ、しばりあげて穴の奥にころがし、かわりに、わしが毛皮にはいって、ここへあらわれたのだ。
ワハハハハ……、ざまを見ろ。
わしは、とうとううらみをはらしたぞ。
ああ、わしはせいせいした。
こんな気持のいいことはない。
ワハハハハ……、やい人形悪魔め、おもいしったかっ。
」
赤堀老人はそういって、たおれている西洋悪魔を、思いきり、けりとばすのでした。
これで、ポケット小僧が、へいきな顔をしていたわけがわかりました。
明智探偵や赤堀老人を、ここへ案内したのは、ポケット小僧だったのです。
「ちくしょうめ!」
西洋悪魔は、むくむくと起きあがり、恐ろしい顔で、ポケット小僧につかみかかろうとしました。
それを見ると、明智探偵がつかつかと前に出て、西洋悪魔をつきとばしました。
「おい、じたばたしないで、もう、かんねんするがいい。
きみの秘密は、なにもかも、みんなわかってしまったのだ。
」
西洋悪魔は、ほら穴の壁に背中をくっつけて、明智をにらみかえしながら、
「なに、おれの秘密だと。
ワハハハハ……、きさまに、それがみんなわかってたまるものか。
おれのほうには、奥の手があるんだぞっ。
」
「その奥の手も、わかっている。
もう運のつきだと思うがいい。
」
明智はしずかに、いってきかせるのでした。
コメント