初級翻訳・魔法人形 第25話

江戸川 乱歩

「地の底に、これだけのしかけをつくったのは、さすがに人形悪魔だ。
しかし、種をわってみれば、みんな子どもだましにすぎない。
あのジャングルは、ひじょうに広いように見えるが、あれはパノラマ館のしかけで、ほんとうの木は、わずかしかないのだ。
あとはみんな、壁にあぶら絵がかいてあるのだ。
光線のぐあいで、その絵とほんものとのさかいめが、わからないようにしてあるので、あんなに広く感じられるのだ。
きみのとくいの奇術にすぎない。
大ワシや大トカゲも、てんじょうから、目に見えないような細いじょうぶなひもで、つってあったのだ。
それを、あやつり人形のように動かして、さも、生きているように見せかけたのだ。
木のみきが怪物の顔に見えたのも、木そのものが、はりこの作りものだから、わけのないことだ。
声は、みんなテープレコーダーだよ。
ハハハハ……、種をあかせば、子どもだましじゃないか。
きみが人形じいさんになって、いろいろな人形や動物をつくり、世間をおどろかそうとしたのは、なんのためだ。
それは、金や宝石をぬすむためにもつかわれたが、もっとほかに、目的がある。
」
「フフン、それをきさまが、知っているのか。
」
 西洋悪魔は、にくにくしくいいはなちました。
「きみの目的は、世間をあっといわせたかったのだ。
世間の中でも、このぼくを、あっといわせたかったのだ。
なぜかというと、きみはぼくに、たびたび、ひどいめにあっている。
そのうらみが、はらしたかったのさ。
それほどぼくをうらんでいる男、また、世間をあっといわせてよろこぶ男は、ほかにはない。
え、きみ、きみのほんとうの名をいってやろうか。
」
 明智は、そこでことばをきって、にこにこと笑いました。
すると、西洋悪魔は、まるで神さまの前に出たほんとうの悪魔のように、両手で顔をかくして、逃げだそうとしました。
「待てっ、きみのほんとうの名は、怪人二十面相だっ!」
 ピシッと、むちでうつような名探偵の声でした。
西洋悪魔は、顔をおさえたまま、ギョッとしたようにたちすくみました。
しかし、すぐに気をとりなおして、顔から手をはなすと、血ばしった目をカッとひらいて、明智探偵をにらみつけるのでした。
「きさま、またしてもおれを、ひどいめにあわせやがったなっ。
よし、もうこうなれば、さいごの切り札だっ。
いまに見ろっ。
」
と叫ぶやいなや、パッと走りだしました。
ほら穴の奥にむかって、矢のようにかけ出したのです。
「それっ」というので、明智探偵も、中村警部も、ふたりの警官も、小林少年も、そのあとを追いました。
ところが、ポケット小僧だけは、みんなとはんたいの方角に走りだしたではありませんか。
ポケット小僧は、いつでも、いがいなことばかりやる少年です。
はんたいの方角というのは、つまり、ほら穴の入口のほうへもどっていくわけです。
いったい、なにをしにいくのでしょうか。
こちらでは、明智探偵たち五人が一生けんめいに追っかけましたが、西洋悪魔の二十面相は、もう死にものぐるいですから、その早いこと。
なかなか追っつけるものではありません。
二十面相は、ほら穴の奥の部屋のようなところへ、逃げこみました。
逃げこんだかと思うと、そこが、パッと明るくなりました。
二十面相は、燃えるたいまつをふりかざしているのです。そこにたいまつが用意してあって、いつのまにか、ライターで、それに火をつけたのです。
「ワハハハハ……、さあ、おれのさいごを見てくれ。
そのかわり、きさまたちも、みんな死んでしまうのだ。
この地下道も、ジャングルも、その上にたっている西洋館も、みんな、吹っとんでしまうのだ。
」
 二十面相は、気ちがいのようにわめきました。
たいまつの赤い火に照らされて、西洋悪魔の顔が、赤おにのように恐ろしく見えます。
たいまつを、ぐるぐるふりまわしているその下に、一つの大きなドラムカンがおいてあります。
あっ、たいへんです。
きっと、あのドラムカンは、火薬がいっぱいつまっているのでしょう。
二十面相は、その中へたいまつを投げこむつもりです。
そうすると、火薬が爆発して、なにもかも、こっぱみじんになってしまうでしょう。
「さあ、かくごしろ。
みんないっしょに死ぬんだぞっ。
」
 それを聞くと中村警部も警官たちも、まっさおになってしまいました。
とびかかって、たいまつをもぎとろうにも、そのひまはありません。
一歩ふみ出せばあいつはきっと、たいまつを投げこむでしょう。
それを思うと身うごきもできません。
「ワハハハハ……。
」
 なにがおかしいのか、明智探偵がいきなり笑いだしました。
中村警部たちは、びっくりしてその顔を見つめます。
明智は気でもちがったのではないかと、うたがったのです。
「ワハハハハ……、投げこんでみたまえ。
シュッと音がして、火が消えてしまうよ。
おい、二十面相、ぼくは、きみの秘密はすっかり知っているといったじゃないか。
むろん、その火薬の秘密も知っていたのだ。
だから、火薬に水を、たっぷりかけておいた。
見ろ! そのドラムカンの中は水びたしだ。
きみのさいごの切り札は、すっかりだめになってしまったのだ。
」
 それを聞くと、二十面相はギョッとしたように、たいまつの火で、ドラムカンの中をのぞきました。
明智のいったとおり、その中は水びたしです。
二十面相は、もう、ものをいう力もなく、へなへなと地面にうずくまってしまいました。
「それっ。
」というと、ふたりの警官が、とびついていきました。
たちまち手錠がはめられ、そのうえ用意の縄で、ぐるぐる巻きにしばられてしまいました。
そこへ、ポケット小僧をさきにたてて、おおぜいの少年がかけつけてきました。
その中にマユミさんもまじっています。
「あれが二十面相だよ。
明智先生は、とうとう、二十面相をつかまえてしまったんだよ。
」
「ワーッ、すてき。
明智先生ばんざーい!」
 いちばんおくびょうもののノロちゃんが、まっさきに叫び、みんなも、それにあわせて、高らかに、明智先生と少年探偵団のばんざいを、となえるのでした。

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