それまでに、おかあさんにおこづかいをもらっておくんだよ」
おじいさんは、地面においてあった残りの人形を白い箱にいれ、腰かけていた台を小さく折りたたんで、これも箱の中にしまいこみました。そして、箱についている太いひもを首にかけて、箱を胸の前に下げると、よっこらさと立ちあがりましたが、まだそこの地面に、さっきの人形が一つだけ「ジージー」と歩きまわっています。
「よしよし、おまえがわしの道案内をするんだね。
さあ、向こうへいくんだ」
おじいさんがまえかがみになって人形に命令すると、人形は言われたとおりに「ジージー」と向こうの方へ歩きだしました。
ゼンマイじかけで、こんなにいつまでも続くわけがありません。
かといって、無線そうじゅうでもなさそうですから、じつにふしぎです。
このおじいさんは、もしかするとほんとうの魔法つかいかもしれません。
二十センチの黄金怪人は、おじいさんの先頭に立って、「ジージー」といつまでも歩いていきます。
おじいさんはそのあとから、人形がころびはしないかと気が気でないような格好で、両手を人形の上へうんと伸ばし、腰を曲げてヨチヨチと歩いていくのです。
いったい、こんなに長く歩きつづける人形が百円だなんて、ウソみたいな値段です。
きっと、何かインチキにちがいない――
あれを買った子どもたちは、うちへ帰ってから遊んでみたら、人形はちっとも動かなかった、なんてことにならないでしょうか?それはともかく、小林君たち三少年は、あいてに気づかれないように、このふしぎなじいさんのあとを尾行しました。
百メートルいっても、二百メートルいっても、黄金怪人の人形は、まだ歩きつづけています。
じいさんが、ねこぜになって、両手で、それを追っかけていくのも同じです。
「ねえ、あんなに、歩きつづける機械じかけなんて、ありっこないよ。
あのこびとは、ほんものの黄金怪かもしれないぜ。」
ノロちゃんが、顔を青くして、ささやきました。
考えてみますと、黄金怪人は、いくらでも、じぶんのからだを小さくできるのですから、じいさんの先にたって歩いている金色の人形は、じつは怪人そのひとなのかもしれません。
ノロちゃんがうたがうのも、もっともです。
「うん、ひょっとしたら、そうかもしれない。
そうだったら、いっそう、あいつのあとをつけるんだ。
見うしなわないように。
きみたち、いいかい。」
小林君が、ふたりを元気づけるように、ささやきました。
黒い穴
じいさんは、さびしい町から、さびしい町へと、どこまでも歩いていきます。
もう、一キロ以上も歩きました。
いくらさびしい町でも、たまには人が通ります。
じいさんは、向こうからくる人の姿を見ると、金色の人形に、おおいかぶさるようにして、それをかくしてしまうのです。
三少年は、じぶんたちも、気づかれやしないかと、ビクビクしながら、ずうっとうしろの方から尾行していましたが、じいさんは、ときどき、うしろをふりむくのに、なぜか少年たちに、すこしも気がつかないようです。
あとになって、じいさんは、知っていて知らぬふりをしていたことがわかりましたが、そのときは、さすがの小林君も、そこまではさっしがつきませんでした。
もう一キロ半も歩いたころです。
じいさんが、一つの町かどをヒョイとまがって、見えなくなりました。
そういうことは、いままでにも、たびたびあったのですが、こんどは、なんだか、ようすがへんでした。
三少年は、驚いてかけだしました。
そして、そのまがり角から、そっとのぞいてみますと、すぐ目の前に、赤いポストが立っていて、その向こうを、あのじいさんが歩いていくのが見えました。
しかし、じいさんだけではありません。
もうひとりのやつが、じいさんに手をひかれて歩いているのです。
少年たちは、それを見ると、ゾーッと、せなかに水をかけられたような気がしました。
そのもうひとりのやつは、小学校一年生ぐらいの大きさの黄金怪人だったのです。
あの二十センチのこびとが、角をまがったとたんに、たちまち、からだがあのびて、子どもの大きさになってしまったのです。
いよいよ、この老人はくせものです。
老人に手をひかれているやつは、ほんものの黄金怪人にちがいないのです。
町かどをまがってすこしいくと、草のぼうぼうとはえた原っぱにでました。
そのころは、まったく日がくれて、もうあたりはまっ暗です。
老人と子どもの黄金怪人とは、その暗い原っぱの草の中へぐんぐんはいっていきます。
草が高くのびているので、それにかくれて、ふたりの姿が見えなくなるほどです。
少年たちは、なんだか、こわくなってきました。
ぼうぼうと草のはえた中へ、姿をかくしていく子どもの黄金怪人、それはおばけのこわさでした。
ノロちゃんは、もうガタガタふるえています。
「ねえ、もう帰ろうよ。
ぼく、きみが悪くなってきた。」
しかし、ここで見のがしてしまっては、せっかく苦心して尾行してきたのが、なんにもならなくなります。
小林君は、こわい顔をして、ノロちゃんをにらみつけました。
「また、きみのおくびょうが、はじまった。
そんなことをいえば、よけいきみは帰さないよ。
さあ、いくんだ。
どこまでも尾行をつづけるんだ。」
小林君はそういって、音をたてないように注意しながら、くさむらの中へはいっていきました。
井上君も勇気のある少年ですから、こわくても、逃げる気にはなりません。
ノロちゃんの手をひっぱって、小林君のあとにつづきました。
「音をさせちゃいけないよ。」
小林君がうしろをむいて、ささやきました。
三人は、草の中にかがみこんで、はうようにして、ソロソロと進んでいきます。
二十メートルも歩いたでしょうか。
ふと向こうをみると、ちょっと草のなくなった地面があって、そこに防空壕の入口のようなまっ暗な穴が、ひらいていました。
広い東京には二十年まえの防空壕が、そのまま残っているところもないではありません。
「あのふたりは、この穴の中へ、はいっていったのだろうか。」
井上君が、ささやきました。
あたりをみまわしても、じいさんと黄金怪人の姿は、どこにもありません。
防空壕にはいったとしか考えられないのです。
すると、そのとき、まっ暗な穴の中に、チラッと白い光が見えました。だれかが、マッチをすったのでしょうか、それとも、懐中電灯をてらしているのでしょうか。
しかし、その光はチラッと見えたばかりで、すぐ消えてしまいました。
これで、穴の中に、何者かがいることがたしかになりました。
小林君はそこへはっていって、そっと中をのぞいてみましたが、まっ暗でなにもわかりません。
穴の中の遠くの方から、なにか人のうごめくような、かすかな音が聞こえてくるばかりです。
「はいってみよう。
ぼくは七つ道具を、ちゃんと持っているから、懐中電灯もあるよ。」
小林君が、もとの場所にはってきて、ふたりにささやきました。
すると、井上君が、ささやきかえすのです。
「ぼくたちも、七つ道具は持っているよ。
ノロちゃんも、ぼくも。」
「よし、それじゃ、いこう。」
そして、三人は、まっ暗な穴の中へはいっていきました。
足でさぐってみると中には、土でだんだんができています。
十だん以上もある深い穴です。
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