その部屋には入口のドアのほかには出入り口がひとつもありません。窓すらなかったのです。
それなのに、あの巨大なゾウがまるで煙のように消えてしまったのです。
ああ、かわいそうなノロちゃんは、いったいどうなってしまったのでしょうか。
(悪魔のなぞ)
「ウフフフ……、どうだね。この魔法の種がわかるかね。
さすがの小林君にも、これだけはわかるまいて。
ウフフフ……。
老黒人は、人をばかにしたように、うすきみ悪く笑うのでした。
小林、井上の二少年は、親友のノロちゃんが消えてしまっては、たいへんですから、部屋の中をグルグルまわって、どこかに秘密の出入り口はないかと、夢中になってさがしました。
しかし、四方の壁も、てんじょうも、床も、かたいコンクリートで、どこにも、あやしいところはないのです。
ああ、これはなんという、恐ろしい魔法でしょう。
あの巨大なゾウが、厚いコンクリートの壁を、幽霊のように通りぬけて、どこかへいってしまったのです。
さすがの小林少年も、この、とほうもないなぞは、どうしても、とくことができませんでした。
人間の知恵では、考えられない悪魔のなぞです。
「ウフフフ……、こまっているね。
きみは、さっき、インド奇術のなぞを、すらすらと、といたくせに、このなぞは、とけないのかね。
ウフフフ……、それも、むりはないね。
これは、魔法の、とっておきの大魔術だからね。
きみの先生の明智小五郎にだって、わかりっこないよ。
さあ、もうあきらめて、そとに出たらどうだ。
いつまで、この部屋にいたって、ノロちゃんは、帰ってきやしないよ。」
この老黒人は、魔法博士が変装しているにちがいありません。
かれは、じぶんの魔術を、得意そうに自慢しているのです。
「ノロちゃんをどこへかくしたのです。
かえしてください。
ノロちゃんを、かえしてください。」
井上少年が、老黒人のだぶだぶの着物をつかんで、一生けんめいに、たのみました。
「ウフフフ……、そんなに、心配になるのかね。
よし、それじゃノロ君を、天国から取りもどしてやろう。
だが、それには、一度この部屋を出なくてはいけない。
そして、あの扉を、ぴったりと、しめきっておかないと、ノロ君は、もどってこないのだよ。」
魔法博士の老黒人は、そういって、じぶんが先に立って、外の廊下へ出ていきます。
二少年も、しかたがないので、そのあとからついて出ました。
老黒人は、みんなが出てしまうと、あの大きなかんのん開きの扉を、ぴったりしめてしまいました。
「さあ、しばらく待っているのだ。
わしが心の中でじゅもんをとなえると、あのゾウが、この部屋へ帰ってくる。
天国から、おりてくるのだ。」
そういって、老黒人は、目をつむり、両手を前にあわせて、なにか術を使うような、かっこうをしました。
そうして、長いあいだ、じっとしていました。
五分間ほども、目をつむったまま、身うごきもしなかったのです。
すると、部屋の厚い扉の中から、ゴーッと、あの巨大なラッパのような、うなり声が、聞こえてきました。
ゾウです。
ゾウが、いま帰りましたと、あいずをしているのです。
それを聞くと、老黒人は、目をぱっちりひらいて、ニヤニヤと笑いました。
じゅもんのききめがあらわれたのを、よろこんでいるのでしょう。
そして、つかつかと、扉の前にすすんで、両手でそれをひらきました。
すると、ああ、どうでしょう。
部屋の中には、あの巨ゾウが、のっそりと立っていたではありませんか。
背中の怪黒人とノロちゃんも、もとのままです。
小林、井上の二少年は、「あっ。」と叫んで、いきなり、そのそばへかけよりました。
そのとき、背중에のっていた怪黒人は、ゾウの耳のうしろを、ペタペタとたたきながら、
「さあ、わしたちを、おろすのだよ。」
と、命令しました。
ゾウは人間のことばがわかるらしく、いきなり長い鼻を、スーッと、じぶんの頭の上にあげて、ノロちゃんのからだに、巻きつけたかとおもうと、しずかに下へおろしました。
つぎには、怪黒人も、同じようにして、おろしたのです。
ノロちゃんは、下におろされると、いきなり小林少年にだきつきました。
こわくてしかたがないのを、いままで、じっとがまんしていたからです。
もう、あえないかと思っていた小林君たちの顔を見たので、すっかりうれしくなったからです。
「きみ、いったい、どこへいってたの? ゾウはこの部屋から、どうして、ぬけだしたの?」
小林君は、まず、それをたずねました。
するとノロちゃんは、へんな顔をして、
「えっ? ぬけだしたって? ぼくたち、ずっと、この部屋にいたよ。
ゾウはすこしも、動かなかったよ。」
と答えました。
「なにをいってるんだ。
この部屋は、いままで、からっぽだったじゃないか。
きみはゾウといっしょに、どこかへ、消えてしまっていたんだよ。」
「へえ? おかしいな。
そういえば、なんだか、スーッと、からだが、浮くような気持がしたけれども、この部屋からは、一度も、出なかったよ。」
まさか、ノロちゃんが、うそをいうはずはありません。これはいいったい、どうしたことでしょう。
ノロちゃんは、部屋を出なかったといいます。
しかし、部屋がからっぽになっていたことも、たしかなのです。
「ウフフ、小林君、そこじゃよ。
魔法の種は、そこにあるのじゃよ。
わかるまい。
いくら名探偵でも、この秘密だけは、わかるはずがないのだ。」
魔法博士の老黒人は、あざけるようにいうのです。
小林君は、一生けんめいに考えました。
しかし、いくら考えても、わかりません。
いったい、そんなふしぎなことが、どうしてできるのか、まるで、けんとうもつかないのです。
小さいノロちゃんひとりなら、どうにでもなるでしょうが、あの巨大なゾウが消えたのです。
消えたかとおもうと、またあらわれたのです。
そんなことが、できるはずがないではありませんか。
読者諸君、この秘密が、わかりますか? やっぱり一つの奇術なのです。
種があるのです。
びっくりするような種があるのです。
しかし、このなぞは、さすがの小林少年にも、とけなかったので、そのまま、秘密として残りました。
やがて、その秘密のとけるときがくるのです。
そのときには、おもいもよらぬ大騒動がおこります。
そして、その騒動といっしょに、ゾウの消えうせたふしぎななぞが、とけるのです。
B・Dバッジ
さて、お話かわって、小林君たちが、魔法博士のとりこになってから、五日ほどたった、ある日のことです。
少年探偵団員の川瀬と山村の二少年が、世田谷区のある町を歩いていました。
ふたりとも小学校の六年生ですが、今日は日曜日なので、世田谷のお友だちをたずねた帰り道なのです。
もう午後四時ごろでした。
両側には、大きなやしきがつづいていて、あまり人の通らない、さびしいところです。
ふたりが話しながら歩いていますと、道のまんなかに、ピカピカ光る、まるいものが落ちているのに、気づきました。
「なんだろう。
お金かしら。」
山村少年が、そこへ近よって、拾いあげてみました。
「あらっ、きみ、たいへんだよ。
これ、お金じゃなくて、B・Dバッジだよ。
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