初級翻訳・まほうやしき 第2話

まほうやしき

すると、井上くんもにっこり笑って、ポケットから少年探偵団の記章であるB・Dバッジを一つ取り出しました。
それから、上着のポケットから手帳を出して、紙を一枚ちぎり、鉛筆で何か書いて、B・Dバッジをその中に包んで丸めました。
ノロちゃんはそれを受け取ると、また井上くんの肩に登って、丸めた紙玉を、力任せに窓の外へ放るのでした。
バッジは、放るときの重しになったのです。
明くる朝のことです。
ノロちゃんがふと目を覚まして、ベッドの上を見ますと、そこには井上くんもルミちゃんもいなくなって、二匹のライオンの子どもが、長々と寝そべっていました。
ノロちゃんは、「ぎゃっ」と叫んでベッドから飛び降りましたが、そのとき、自分の体を見て気絶しそうになりました。
自分の体にも、茶色の毛がいっぱい生えていたからです。三人の姿が、鏡から鏡へと反射し合って、何百、何千と重なって見えます。
井上くんも、ノロちゃんも、ルミちゃんも、これほど奇妙な気持ちになったことはありません。
何百、何千という自分が、上からも下からも、四方八方からうじゃうじゃと集まって、自分をじっとにらみつけているのです。
そのほかにも、いくつもの不思議で恐ろしいものを見せられましたが、その後、西洋悪魔に連れられて二階の廊下を歩いていると、突然、どこからか妙な笑い声が聞こえてきました。
西洋悪魔は、驚いたように立ち止まって、しばらく考えていましたが……。
ある部屋へそっと近づいて、そのドアを勢いよく開きました。
するとそこに、思いもよらぬ一人の少年が立っていたのです。
「あっ、貴様。少年探偵団長の小林だなっ」
西洋悪魔が、ぎょっとしたように叫びました。
「その通り、ぼくは小林だよ。井上くんとノロちゃんが、手帳の紙に手紙を書いて、B・Dバッジを重しにして窓から投げたのを、近所の子どもが拾って、ぼくへ届けてくれたんだ。それでぼくは、さっきからこの魔法屋敷に忍び込んでいたのさ。さすがの魔法博士も、油断をしたものだね」
「えっ、魔法博士だって?」
「そうさ。きみはそんな西洋悪魔に化けているけれど、ちゃんとわかっているよ。『黄金の虎』の事件で、ぼくたち少年探偵団に負けた、あの魔法博士だ。今度は、あの時の仕返しをしようとしたんだろう。だが、ぼくが来たからには、もう終わりだよ。ちょっと、その窓から下をのぞいてごらん」
そう言われて、西洋悪魔の魔法博士は、思わず窓の外をのぞいたかと思うと、「あっ」と言って立ちすくんでしまいました。
二十人近くの少年探偵団員たちが、魔法屋敷の塀の外をぐるっと取り囲んでいたからです。
「きみが井上くんたちを返さなければ、あの中の一人が、すぐ明智先生と警察へ知らせるのだよ」
「負けた。わしの負けだよ。きみの言う通り、少し仕返しをしてやろうと思ったのだが、きみにかかってはかなわない。B・Dバッジの通信とは、気がつかなかった。今度も兜を脱ぐよ」
魔法博士は、残念そうに苦笑いをするのでした。
その後、井上くんやノロちゃんの話を聞いて、小林少年は魔法屋敷の秘密を見事に解き明かしました。
「この家の入口に入ったとき、ちんどん屋の姿がぼうっと消えて、西洋悪魔が現れ、それが首ばかりになったのは、一枚ガラスのドアを鏡に使った奇術だよ。ちんどん屋は、きみの部下だったね。まず、ちんどん屋がガラスドアの向こうに立って姿を見せておいて、そこのでんとうを消すと真っ暗になって、ちんどん屋は見えなくなる。そのとき、天井に仕掛けた箱の中に西洋悪魔のきみが立っていて、その箱の電灯をつけると、ガラスドアのちょうど、ちんどん屋のいたあたりへ姿が映るのだよ。それから、首ばかりになったのは、電灯を動かして顔だけを照らすようにすれば、胸から下は暗くなってガラスに映らなくなるのさ。もう一つの、部屋がぐるぐる回ったのは、遊園地などにある『びっくり館』の仕掛けで、三人の立っている床はゆらゆら動くだけで、ひっくり返りはしないんだ。周りの壁や天井が箱のようにできていて、それがくるくる回るから、自分たちが天井に上がったように感じるのさ」
「うん、えらい。やっぱり小林団長の知恵は、たいしたもんだ。では、わしが負けた印に、あの三匹の子ライオンの毛皮は、きみたちのおもちゃにあげることにしようね」
こうして少年探偵団は、またしても大人の魔法博士を打ち負かしてしまったのでした。

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