特に、髪の毛が真っ白で、牙も抜けてしまったおばあちゃん鬼は、いつも孫の子守をしながら、人間の恐ろしさをお話して聞かせていたものです。
――
「お前たちも悪さばかりしていると、人間の島へ連れていかれてしまうよ。
人間の島へ送られた鬼は、昔の酒呑童子のように、きっと殺されてしまうんだからね。
え、人間ってどんなものかって? 人間っていうのは、角も生えていないし、生白い顔や手足をしていて、なんとも言えないくらい気味が悪い生き物だよ。
それだけじゃなくて、人間の女ときたら、その生白い顔や手足に、真っ白なおしろいをベタベタと塗りたくっているんだ。
それだけで済めばまだいいんだけどね。
男も女も同じように、うそをつくし、欲張りだし、やきもちは焼くし、うぬぼれは強いし、仲間同士で殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、本当に手のつけようがない毛の生えた獣なんだよ……」
四
桃太郎は、そんな罪のない鬼たちに、島ができて以来の恐怖をもたらしました。
鬼たちは金棒を握るのも忘れて、「人間が来たぞ!」と叫びながら、高く伸びたヤシの木の間をあちこちへ逃げ惑いました。
「進め! 進め! 鬼という鬼は、見つけ次第、一匹残らず殺してしまえ!」
桃太郎は桃の絵が描かれた旗を片手に、日の丸の扇子をパタパタと振りながら、犬と猿とキジの三匹に命令しました。
犬と猿とキジは、決して仲良しのチームではなかったかもしれません。
でも、お腹をすかせた動物ほど、勇敢で強い兵士になれるものはいません。
彼らは嵐のように、逃げ回る鬼たちを追いかけました。
犬は一噛みで鬼の若者を殺し、キジも鋭いクチバシで鬼の子供を突き殺しました。
猿は――猿は私たち人間と親戚同士なだけあって、鬼の娘を絞め殺す前に、ひどいことをして楽しみました。
……
ありとあらゆる悪いことが行われたあと、ついに鬼のリーダーは、生き残った数人の鬼たちとともに、桃太郎の前にひざまずいて降参しました。
桃太郎の得意そうな様子といったら、言うまでもありません。
鬼ヶ島はもう昨日までの、極楽鳥が鳴く楽園ではありませんでした。
ヤシの林のあちこちに、鬼たちの死骸が転がっています。
桃太郎は相変わらず旗を片手に、三匹の家来を引き連れたまま、地面に平伏した鬼のリーダーに、偉そうにこう言い渡しました。
「よし、特別に情けをかけて、お前たちの命だけは助けてやろう。
その代わり、鬼ヶ島の宝物は一つ残らず差し出すのだぞ。」
「はい、献上いたします。」
「それから、お前の子供を人質として差し出すのだ。」
「それも承知いたしました。」
鬼のリーダーはもう一度、額を地面にこすりつけたあと、おそるおそる桃太郎に質問しました。
「わたくしたちは、あなた様に何か無礼なことをしたから征伐されたのだと思っております。
でも実は、わたしをはじめ、この島の鬼たちが、あなた様にどんな失礼をしたのか、どうしても思い当たらないのです。
どうか、その無礼の内容を教えてはいただけないでしょうか?」
桃太郎は悠々と頷きました。
「日本一の桃太郎であるこの私が、犬・猿・キジという忠実な家来を連れているから、征伐に来たのだ。」
「では、その三匹を家来にしたのは、どういう理由からでしょうか?」
「それは最初から鬼ヶ島を征伐したいと思っていたから、きびだんごをやって仲間にしたのだ。
――どうだ? これでもまだわからないと言うなら、お前たちも全員皆殺しにしてやるぞ。」
鬼のリーダーは驚いたように三メートルほど後ろへ飛び下がると、ますます深く、丁寧に頭を下げました。
五
日本一の桃太郎は、犬・猿・キジの三匹と、人質にした鬼の子供に宝物を積んだ車を引かせながら、威張って故郷へ凱旋しました。
――これだけは、もう日本中の子供がとっくに知っているお話です。けれど、桃太郎がその後、一生幸せに暮らしたというわけではありませんでした。
鬼の子供は一人前になると、見張り役のキジを噛み殺したうえ、すぐに鬼ヶ島へと逃げ帰ってしまいました。
それだけではありません。鬼ヶ島で生き残った鬼たちは、時々海を渡ってやってきては、桃太郎の屋敷に火をつけたり、寝ている桃太郎の首を狙おうとしたりしたのです。
どうやら、あの時殺された猿は、人違いだったらしいという噂まで流れていました。
桃太郎は、次から次へと降りかかる不幸に、ため息をつかずにはいられませんでした。
「まったく、鬼というやつらの執念深さには困ったものだ。」
「せっかく命を助けてやったご主人様の大恩を忘れるなんて、とんでもない奴らでございます。」
犬も、桃太郎の渋い顔を見ると、悔しそうにいつも唸ったものです。
その間も、寂しい鬼ヶ島の磯では、美しい南国の月明かりを浴びながら、五、六人の鬼の若者が、鬼ヶ島の独立を計画するために、ヤシの実に爆弾を仕込んでいました。
優しい鬼の娘たちに恋をすることさえ忘れてしまったのか、彼らは黙々と、けれど嬉しそうに、茶碗ほどもある大きな目を赤く光らせていたのです。
……
六
人間の知らない山の奥で、雲や霧を突き抜けてそびえる桃の木には、今日も昔と変わらず、たくさんの実がたわわに実っています。
もちろん、桃太郎を宿していたあの実だけは、とうの昔に谷川を流れてどこかへ行ってしまいました。
けれど、未来の天才たちは、今もまだそれらの実の中で、誰であるかも知れずに眠り続けています。
あの大きな八咫鴉(やたがらす)は、今度はいつ、この木の梢(こずえ)にもう一度姿を見せてくれるのでしょうか。ああ、未来の天才たちは、まだそれらの実の中で、誰であるかも知れずに眠り続けているのです。
……
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