初級翻訳・牛女 第2話

小川 未明

人々はその後もたびたび真夜中に、牛女が寂しそうに町を歩いている姿を見かけました。
「きっと牛女は、子供が故郷から出て行ってしまったのを知らないんだ。だから、この町の中を歩いて子供を探しているに違いないよ」と、人々は言いました。
雪が完全に消えると、町の中に牛女の足跡も残らなくなりました。
木々はみんな銀色の芽を吹き、夜も少し明るくて心地よい季節となりました。
ある夜、ある人が牛女が町の暗い路地裏に立って、さめざめと泣いているのを見たと言います。
しかしその後、誰一人として牛女の姿を見た者はいませんでした。
牛女はどうしたのか、もうこの町にはいなかったのです。
その年以来、冬になっても、二度と山に牛女の黒い姿が現れることはありませんでした。
牛女の子供は、南のほうの雪の降らない国へ行って、そこで一生懸命に働きました。
そして、かなりの金持ちになりました。
そうすると、自分の生まれた国が懐かしくなりました。
国へ帰っても、母親もいなければ兄弟もいませんが、子供のころに自分を育ててくれた親切な人たちがいました。
彼は、その人たちや村のことを思い出しました。
その人たちに対して、お礼を言わなければならないと思いました。
子供は、たくさんの土産物とお金を持って、はるばる故郷へ帰ってきました。
そして、村の人々に心を込めてお礼を言いました。
村の人たちは、牛女の子供が出世したことを喜び、お祝いしました。
牛女の子供は、「自分も何か事業をしなければ」と考えました。
そこで村に広い土地を買って、たくさんのりんごの木を植えました。
大きくて立派なりんごの実を実らせて、それをあちこちの国へ売ろうと考えたのです。
彼は多くの人を雇って、木に肥料をやったり、冬になると雪で枝が折れないように囲いをしたりと、丁寧に手をかけました。
そうしているうちに木はだんだんと大きく伸びて、ある年の春には、広い畑一面に、まるで雪が降ったかのように真っ白なりんごの花が咲き誇りました。
太陽は一日中、花の上を明るく照らし、ミツバチは朝から日が暮れるまで、花の間をブンブンとうなり続けていました。
初夏のころには、青くて小さな実が鈴なりになりました。
そして、その実がだんだん大きくなりかけた時、一気に虫がついてしまい、畑全体にりんごの実が落ちてしまったのでした。次の年も、またその次の年も、同じようにりんごの実は落ちてしまいました。
それはなんだか、深い理由がありそうなことでした。
村で一番ものわかりの良いおじいさんが、牛女の子供に向かってこう尋ねました。
「何かのたたりかもしれないよ。おまえさん、何か心当たりはないかね?」
牛女の子供は、そのときは何も思い当たりませんでした。
しかし、一人になって静かに考えていたとき、自分は町を飛び出して遠い国へ行ったとき、母親の魂に何も報告しなかったことを思い出しました。
また、故郷へ帰ってきてからも、母親のお墓にお参りしただけで、まだちゃんと法事も営んでいなかったことに気づきました。
あれほど母親は自分をかわいがってくれて、死んでからもあのように自分の身を守ってくれたのに、自分はあまりにも冷淡だったのだと反省しました。
きっと、これは母の怒りに違いないと思ったので、子供は心を込めて母親の魂を弔うことにしました。お坊さんを呼び、村の人々を招いて、真心を込めて母親の法事を営んだのです。
明くる年の春、またりんごの花が、雪のように真っ白に咲きました。
そして夏には、青々と実がなりました。
毎年この時期になると悪い虫がついてしまうので、今年こそは無事に実らせたいと強く願いました。
すると、その年の夏の夕暮れ時のことです。
どこからともなくたくさんのコウモリが飛んできて、毎晩のようにりんご畑の上を飛び回り、悪い虫をみんな食べてくれたのです。
その中に、一匹の大きなコウモリがいました。
その大きなコウモリは、まるで女王のように他のコウモリたちを率いているように見えました。
月が丸く東の空から昇る夜も、黒い雲が出て外が真っ暗な夜も、コウモリたちは休まずりんご畑の上を飛び回りました。
その年は、りんごに虫がつかずによく実り、予想よりもずっと多くの収穫がありました。
村の人々は互いにこう話し合いました。
「牛女がコウモリになってやってきて、子供の暮らしを守っているんだね」
村人たちは、その優しく深い母親の愛情を思い、しみじみと感動しました。
また次の年も、その次の年も、夏になると一匹の大きなコウモリがたくさんの仲間を率いてやってきて、毎晩のようにりんご畑の上を飛び回りました。
おかげで、りんごには悪い虫がつかず、立派に実りました。
こうして四、五年が過ぎる頃には、牛女の子供は、この地方で一番幸せな農家になったということです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました