セーラは、ベッキーがそれをがつがつと食べるのを、うれしそうに見守っていました。セーラが心おきなく話しかけるので、ベッキーもいつしか恐怖を忘れ、思い切ってこんなことまで尋ねるようになりました。
「あの、そのお召し物は……それ、お嬢様の一番いいお着物なのですか?」
「まだこんなダンス用の服はいくらもあるけれど、私はこれが好きなのよ。あなたも好き?」
ベッキーは感嘆のあまり、しばらく言葉も出ない様子でしたが、やがてびくびくした声で言いました。
「私、いつか宮様を見たことがあるの。公園の外の人混みに混じって見ていると、いい着物を着た人たちが通る中に、一人桃色づくめの衣装をした、もう大人になった女の方があったの。それが宮様だったのよ。今しがた、あなたがテーブルに腰かけていらっしゃるのを見た時、私はその女の人を思い出したのよ。お嬢様はちょうど、その宮様そっくりなのだもの。」
セーラは一人ごとのように言いました。
「私、時々こんなことを考えたことがあるわ。私も宮様になりたいなって。宮様になったら、どんな気持ちかしら。きっともうじき、宮様になったつもりを始めるのでしょうね。」
ベッキーは目を皿のようにして、セーラに見とれていました。ですが、相変わらずセーラが何を言っているのかは判りませんでした。セーラはすぐに我に返って、ベッキーに問いかけました。
「ベッキー、あなたこの間、私のお話を聞いていたんでしょう?」
「聞いてました。」ベッキーは少しまたどぎまぎしました。「私、聞いたりしちゃいけないと思ったんだけど、でも、あのお話があんまり面白くって、私……聞くまいと思っても、聞かずにいられなかったの。」
「私も、あなたに聞いてもらいたかったのよ。誰だって、聞きたい人に話してあげたいものでしょう? あの話のつづき、聞きたくない?」
「私にも聞かせてくださるって? あのお嬢様方のように? 王子様のことや、白い人魚の子のことや、お星様の飾りをつけた髪のことや、みんな聞かせてくださるのですって?」
「でも、今日はもう時間がないから駄目じゃない? これからお掃除に来る時間を教えてくだされば、私その時お部屋にいて、少しずつお話してあげるわ。かなり長くて、綺麗なお話よ。それに私、繰り返して話すたびに、何かしら新しいことを付け加えるのよ。」
セーラの部屋を出たベッキーは、今までの可哀想なベッキーではなくなっていました。彼女のポケットには、余分にもらったお菓子が入っています。いかにも満腹そうです。そして暖かそうでした。彼女のお腹を満たし、身体を暖めてくれたのは、お菓子や火ばかりではありません。お菓子でも火でもなく、ベッキーを養い暖めてくれたものは、もちろんセーラでした。
ベッキーが出て行ったあと、セーラはテーブルの端に腰を下ろし、椅子の上に脚をのせ、脚に肘をついて、そこに顎をのせました。
「もし、私がほんとうの宮様だったら、私は人民に贈り物を撒き散らすことができるのにな。宮様のつもりになっただけでも、皆さんのためにしてあげられることはいろいろあるわ。たとえば、ベッキーをいい気持ちにしてやるということは、贈り物をするようなものだわ。私は、これから人をよろこばすことは、贈り物をするのと同じだというつもりになろう。そうすると、私は今、ベッキーに一つの贈り物をしたばかりだということになるのね。」
六 ダイヤモンド鉱山
セーラがベッキーと親しくなってからしばらくの後、心を躍らせるようなことが起こりました。セーラ自身が胸を躍らせたばかりでなく、学校中の生徒も胸を躍らせて、それから何週間もの間、寄ると触るとその話ばかりしていたというほどのことでした。
それは、クルウ大尉からセーラへ届いた手紙の中に書いてあったのでした。ある日、クルウ大尉の同窓生の一人がインドを訪ねてきて、現在採掘中のダイヤモンド鉱山が、順調に行けば非常な利益を上げることになるので、クルウ大尉もこの事業の仲間入りをしてはどうかと勧めたのだそうでした。
何かほかの事業でしたら、セーラ初め学校の中の少女たちは、どんなにお金が儲かるにしてもあまり気にとめずに済んだでしょうが、ダイヤモンドの鉱山だというので、『アラビアン・ナイト』を聞いた時のように耳をそばだてたのでした。セーラはそのことで夢中になりました。それで、アーミンガードやロッティに説明するため、地の底の迷園のような道を描いて見せたりしました。その地下道の中では、黒人たちがそこら中に光り輝く宝石を掘り出していました。
ラヴィニアはその話をせせら笑いながら、ジェッシイに言いました。
「私のお母さんは、四百円もするダイヤモンドを持っているのよ。でも、それだってそんなに大きな石じゃないわ。それなのに、ダイヤモンドの山を持っている人なんていたら、お金がありすぎて馬鹿げて見えるわ。」
「セーラさんは、馬鹿げたほどのお金持ちになるのかもしれないわね。」
「あの子は、お金があってもなくても、馬鹿げた子じゃないわよ。」
「あなた、セーラが嫌いらしいのね。」
「嫌いじゃないわ。でも、ダイヤモンドの鉱山があるなんて、私信じられないのよ。」
「山がないとしたら、ダイヤモンドはどこから採ってくるのでしょうね。」ジェッシイはくすくす笑いながら言いました。
「あなた、ガートルードがなんて言ったか知ってる?」
「知らないわ。セーラのことなら、もう聞かなくてもいいことよ。」
「ところが、やっぱりセーラのことなのよ。あの子、この頃『宮様のつもり』というのも始めたんですって。アーミンガードにも、プリンセスのつもりになれって言うのよ。でも、アーミンガードは宮様にしては太りすぎているから駄目だと言っているのよ。」
「あの子は、本当に太っちょね。そして、セーラは痩せっぽちときているわ。」
ジェッシイは吹き出しました。
「セーラは、そのつもりになるためには、顔や持物なんてどんなでもかまわないって言うのよ。何を考え、何をするかということが肝心なんだって。」
「きっとあの子は、自分が乞食であっても宮様になれると思っているんでしょうよ。これから、セーラを『殿下』と呼んでやりましょうか。」
暖炉の前でラヴィニアがまだしゃべっているところへ、ドアが開いてセーラがロッティと一緒に入ってきました。ロッティはまるで小犬のように、セーラの行くところへはどこへでもついていくのでした。
「ほら、セーラが来た。またあの嫌な子を連れて。」ラヴィニアは小声で言いました。「そんなに可愛いなら、自分の部屋の中に飼っておけばいいじゃないの。いまにまたきっと吠え出すわよ。」
ロッティは果たして、それほど時間を置かずに泣き出しました。セーラはその時、窓のそばでフランス革命の本を夢中になって読んでいたのでした。ですから、ロッティの喚き声を聞いて夢から覚まされた時には、さすがに嫌な気持ちがしました。本の好きな人は誰でもそうでしょうが、セーラは読書の邪魔をされると、妙に腹が立ってならない性質でした。その気持ちを、セーラはいつかアーミンガードに内緒で話したことがありました。
「そんな時には、誰かに打たれたような気がするの。すると、私も打ち返してやりたくなるの。
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