初級翻訳・小公女 第9話

小公女

「あの、火をおこしに来る子、何ていう名前なの?」
マリエットは、その子についていろいろなことを教えてくれました。いかにもセーラさまが気にかけそうなことだと、マリエットは思ったのです。
あの寂しそうな小娘は、ついこの間日雇いとして雇われたばかりでしたが、台所だけではなく、家のどこへでもこき使われているのでした。
靴や金具を磨かされたり、重い石炭箱を運ばされたり、床や窓の雑巾がけをさせられたり――。
体が発育不良で、十四歳なのに十二歳くらいにしか見えませんでした。
マリエットも、少女がかわいそうでならないと思っていたところでした。
ひどく内気で、人から何か話しかけられると、眼が飛び出さんばかりに怯えてしまうのです。
セーラはテーブルに頬杖をついてマリエットの話を聞いていましたが、そこまで聞いてまた尋ねました。
「何て名前なの?」
名前はベッキーでした。
マリエットは台所で、五分と間をおかずに「ベッキー、これをしておくれ」「ベッキー、あれをやっておくれ」という声を聞く毎日でした。
セーラは一人になってからも、しばらくの間、炉の火を見つめながらベッキーのことばかり考えていました。
いつの間にかセーラは、ベッキーを自分の中の悲しい物語の主人公にしていました。
あの娘は、お腹いっぱいご飯も食べさせてもらっていないに違いないと、セーラは思ったのです。
それから二、三週間が経った頃のことです。
やはり薄霧のかかった午後でした。居間に戻ってきたセーラは、自分の安楽椅子の中でぐっすり眠り込んでいるベッキーを見つけました。
ベッキーの鼻の先やエプロンのあちこちには、炭の粉がついていました。
見すぼらしい帽子は落ちかけていました。
ベッキーはその午後、生徒たちの寝室を片付けるように言いつけられていたのでした。
彼女は、お姫様の部屋のように美しいセーラの部屋を一番最後に片付けることにしました。
寝室はたくさんあったので、それらを片付け終えてセーラの部屋に来た時には、小さな足は痛むばかりだったのでした。そして、暖かな暖炉のそばに腰を下ろすと、汚れた顔にものうげな微笑みを浮かべたまま、ベッキーはつい心地よい眠りに落ちてしまいました。
ベッキーが足が痛くなるほど働き回っている間、セーラはダンスのお稽古に夢中になっていました。
薔薇色のドレスをまとい、黒い髪の上には薔薇の冠を載せ、まるで薔薇色の蝶々のように、新しいダンスの練習をしていたのです。
習ったばかりの足取りで、踊りながら居間に飛び込んで、そこでセーラは眠っている少女を見つけました。
「まあ。」
セーラは思わず小さな声で言いました。
「かわいそうに!」
セーラは、自分の大事な椅子に薄汚れた子が掛けているのを見ても、腹を立てるどころか、かえってベッキーに会えてよかったと思いました。
ここに眠っているのは、セーラが頭の中で作ったお話の主人公であり、彼女が目を覚ましさえすれば、セーラはその主人公のお話をしてあげることもできるのです。
セーラは、そっとベッキーの方へ歩み寄りました。
ベッキーはかすかにいびきをかいていました。
「自然に目を覚ましてくれればいいけれど。」とセーラは思いました。
「そっとしておいてあげたいけれど、ミンチン先生に見つかったら、きっと叱られるからかわいそうだわ。もうしばらくの間、そっとしておいてあげましょう。」
セーラはテーブルの端に腰かけて、細い足をぶらぶらさせながら、どうするのが一番いいかと思案しました。
今にもアメリア先生が入ってこないとも限りません。
そうすれば、ベッキーはきっと叱られるに違いありません。
「でも、とても疲れているのね。」
セーラがそう思った途端、一塊の石炭がパチリと爆ぜて、炉の枠にぶつかり、音を立てました。
ベッキーは驚いて飛び起き、息をはずませながら、大きな目を見開きました。
ベッキーは、自分がいつの間にか眠ってしまったことなど分かりませんでした。
少し座って体を温めていただけなのに――と思ったところで、ベッキーは、自分が目を皿のようにして、薔薇色の妖精のようなあの評判のお嬢さんと向き合っていることに気づきました。
ベッキーは飛び上がって、落ちかけた帽子をつかみました。
「私はついに、罰を受けるようなことをしでかしてしまった。のんきにこの小さな貴婦人の椅子の中で眠ったりして、きっとお給金ももらえずに追い出されてしまうんだわ。」
ベッキーは息も詰まるばかりに、しくしくと泣き出しました。
「お嬢様、お嬢様! か、かんにんしてくださいまし、どうか、かんにんしてくださいまし。」
セーラは椅子から飛び降りて、ベッキーのそばへ行きました。
「何にも怖いことはないのよ。」セーラは自分と同じ年頃の友達にでも言うように言いました。
「ここでは、眠ったってちっともかまわないのよ。」
「私は、眠るつもりなんかちっともなかったのでございますよ、お嬢様。ただこの火があんまりほかほかといい気持ちなので――それに私、疲れていたものですから、決して厚かましく寝こんだわけではないのでございますから。」
セーラはふと親しげに笑って、ベッキーの肩に手をかけました。
「あなた、疲れていたのね。眠るのも無理はありませんわ。まだ目が覚めきらないのでしょう?」
ベッキーは驚いたようにセーラを見返しました。
ベッキーは今まで、こんなやさしい情のこもった声を聞いたことはありませんでした。
用を言いつけられたり、叱られたり、叩かれたりばかりしているベッキーでした。
それなのに、この薔薇色のダンス服を着たお嬢さんは、同じ身分の女の子であるかのようにベッキーを見ているのです。
そして、ベッキーが疲れるのも、居眠りするのも当たり前だ――というような眼差しで見てくれているのです。
セーラはその細く柔らかな手先を、ベッキーの肩にのせています。
そんなことをされる気持ちも、ベッキーはまだ味わったことがありませんでした。
「あの、あの、お嬢様。怒っていらっしゃるんじゃございませんか? 先生たちに言い付けたりなさりませんか?」
「いいえ、そんなことするものですか。」
汚れた少女の顔が、おどおどしているのを見ると、セーラは見ていられないほど気の毒になりました。
「だって、あなたも私も、同じ女の子じゃありませんか。私があなたのように不幸ではなく、あなたが私のように幸せでないのは、いわば偶然よ。」
ベッキーには、セーラの言う「偶然(アクシデント)」の意味がちっとも分かりませんでした。
ベッキーが「災難」だと思っているのは、人が車に轢かれたり、梯子から落ちたり、あの嫌な病院へ連れて行かれたりするような、恐ろしい出来事のことだったのでした。
ベッキーの理解できない様子を察して、セーラは話題を変えました。
「もう用事は済んだの? もう少しここにいても大丈夫?」
「ここに、ですか? お嬢様、あの私が?」
「そこらには誰もいないようよ。」「だから、ほかの寝室を片付けてしまったのなら、ちょっとぐらいここにいてもいいでしょう? お菓子でも一つ食べない?」

それから十分ほどの間、ベッキーはまるで熱に浮かされたようでした。セーラは戸棚から厚く切ったお菓子を一切れ出して、ベッキーに手渡しました。

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