初級翻訳・小公女 第12話

小公女

手紙に目を通すと、お父様がいつものような子供っぽく元気な調子で書いたのではないことが、セーラにはすぐに分かりました。
どうやらお父様は、あまり体の調子が良くないようでした。
ダイヤモンド鉱山の仕事が忙しすぎるのに違いありませんでした。
手紙には、こう書いてありました。
「セーラよ、お父さんは、知っての通り事務仕事は苦手なんだ。数字や書類というものは、ひどく私を苦しめる。熱があるせいだろう、夜中まで寝られずに、よろよろと歩き回っているよ。やっと寝ついたかと思うと、嫌な夢ばかり見るんだ。私の小さな奥さんがそばにいてくれたら、きっと何か良い忠告をしてくれるに違いないと思う。きっと何か言ってくれるだろうねえ」
セーラは大人びた様子をしていたので、お父様はよく冗談で「小さな奥様」と呼んでいたのでした。
お父様はセーラの誕生日のために、パリで新しい人形をあつらえていました。
その人形の衣装といったら、それはもう豪華なものでした。
お父様はセーラに、人形の贈り物は喜んでくれるかどうかと尋ねてきました。
それに対するセーラの返事は、なかなか気の利いたものでした。
「私は、だんだん年をとってきたので、またお人形をいただけるまで生きていられないだろうと思います。だから、今度いただくお人形は、最後のお人形となるでしょう。そう思うと、何だかいろいろ考えさせられます。できるなら『最後の人形』という題の詩でも作りたいのですが、でも、私には詩は書けません。幾度も書いてみたのですが、吹き出してしまうようなものばかりしかできませんでした。読んでみても、ワッツやコルリッジやシェイクスピアのように美しくは聞こえないのです。どんなお人形も、エミリイの代わりにはなりません。が、今度くださる『最後のお人形』は十分大事にするつもりです。皆さんがきっと大騒ぎなさるでしょう。人形の嫌いな子なんていませんもの。もっとも十五歳くらいの方たちは、もう大きくなったからお人形となんか遊ばないというような顔をしておいでですが、その方たちだって、好きでないわけはないのです」
インドのバンガローにこの手紙が届いた時、クルー大尉はちょうど割れるような頭痛に苦しめられていたのですが、手紙を読み終えると、幾十日ぶりかで思わず笑い出しました。
「あの子は一年ごとに面白くなってくる。神様、どうかこの仕事がひとりでに片付いて、私が自由にあの子の所へ飛んで行けるようにしてください。たった今、あの子の腕が私の首に巻きついてくるとしたら、そのためには何でもあげる。どんなものでもあげる」
セーラのお誕生日は、盛大に祝われることになりました。
贈り物の箱は、飾り付けられた教室で、皆の目の前で開けられ、その後で、ミンチン先生のお部屋でご馳走がある手はずになっていました。
その日が来ると、学校の中は妙にそわそわとしておりました。
朝のうち、皆は夢中になって飾り付けをしました。
その朝、セーラが居間に入っていくと、テーブルの上に、茶色の紙に包まれた、小さなふっくらとしたものが置いてありました。
誰から贈られたのか、セーラにはたいてい見当がついていました。
そっと包みを解いてみると、中は針刺しでした。
あまり美しくもない赤色のフランネルに、黒いピンが「おめでとう」という字の形に並んで刺さっていました。
「一生懸命こしらえてくれたのね。あんまり嬉しくて、何だか悲しいような気がするわ」
が、針刺しの下に着けてある名刺を読んだときには、セーラは何だか狐につままれたような気がしました。
名刺にはきれいな文字で、「ミス・アメリア・ミンチン」と書いてあったのです。
「アメリアさんですって? そんなはずはないわ」
セーラが名刺を見ながらそう言っているところへ、扉をそっと押して、ベッキーが顔を出しました。
「それ、お気に召しました? お嬢様」
「気に入らないはずがあるものですか。ベッキーさん、あなた何から何まで自分で作ってくださったのね」
ベッキーは緊張しながらも、嬉しそうに鼻先で笑いました。
瞳は嬉しさのあまり潤んでいました。
「フランネルの古切れなんですけどね、お嬢様に何か差し上げたいと思って、幾晩も幾晩もかかってこしらえたんですの。お嬢様はきっとそれを、繻子(しゅす)の生地へダイヤモンドのピンが刺さったつもりになってくださると思ったから。わたしだって、そのつもりでこしらえていたのよ。それから、その名刺はねえ、お嬢様。それ、私……塵箱(ごみばこ)から拾ってきたんだけど、いけなかったかしら? アメリアさんが捨てた名刺なの」「わたし、名刺なんて持っていないし、名刺がなくちゃあ本当の贈り物にはならないと思ったから――だから、アメリアさんのをつけてあげたのよ」

セーラはベッキーに飛びつくと、ぎゅっと彼女を抱きしめました。なぜか、胸がいっぱいになって喉が詰まるような気がしました。

「ベッキーちゃん」
セーラは、少し変わった笑い方をしました。
「私、ベッキーちゃんが大好きよ。本当に、すごく大好きなの!」
「まあ、お嬢様。そんな、もったいないですわ。そんなふうにしていただくような贈り物でもないのに。あの……あのフランネルだって古物だし」

七 その後のダイヤモンド鉱山

お誕生日の午後、セーラは着飾ったミンチン先生に手を引かれ、先頭に立って、柊(ひいらぎ)で飾られた教室に入って行きました。セーラのうしろには、『最後の人形』の箱を持った僕(ぼく)が続きました。次は第二の贈り物の箱を持った女中、それから清潔な前掛けをかけ、新しい帽子をかぶったベッキーが、やはり贈り物の箱を持ってついてきました。

セーラは本当は、そんな大げさな真似はしたくなかったのですが、ミンチン先生はわざわざセーラを自分の部屋に呼んで、自分と一緒に行列の先頭に立てとおっしゃったのでした。セーラが仰々しく教室に入って行くと、上級生の女の子たちはひじをつきあいました。小さい女の子たちは、ただ嬉しそうにざわざわと言い始めました。それを見ると、セーラは何となく気恥ずかしくなるのでした。

ミンチン先生は「皆さん、静かにしなさい」と一応注意してから、僕たちに向かって言いました。
「ジェームス、その箱をテーブルの上に置いて、蓋を開けなさい。エマ、お前のは椅子の上に置きなさい。それから、ベッキー!」
先生は急に厳しい口調で言いました。ベッキーはちょうどロッティと顔を見合わせてにやにやしていたところだったので、ミンチン先生の尖った声を聞くと、びっくりして滑稽なお辞儀をしました。それを見ると、ラヴィニアやジェッシイはくすくす笑い出しました。
「よそ見なんかしてはいけません。その箱を下に置くんですよ。それが済んだら、お前たちは向こうへ行くのですよ」

僕と女中が退いてしまうと、ベッキーは思わずテーブルの上の箱の方へ首を伸ばしました。青い繻子(しゅす)でできた何かが、薄い包み紙のしわの間に透けて見えました。

「あの、ミンチン先生」とセーラは突然言いました。
「ベッキーさんだけは、もうちょっとの間、ここにいてもいいでしょうか?」
「ベッキーなんかを、どうしてここに置いておくのです」
「でも、あの子だって贈り物を見たいでしょうから。

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