でも、こんな屋根裏には、使用人以外いるはずはないわね」
ある朝、セーラがお使いから帰ってくると、引っ越しの荷車がその家の前に止まっていました。
セーラは運び込まれる家具の類から、そこに住むのがどんな人か、たいてい想像がつくような気がしました。
「お父様と初めて来た時、ここの道具はミンチン先生のところのものにそっくりだ、と思ったことがあったわ。
大屋敷にはきっと、ふかふかの肘掛け椅子や、寝椅子があるに違いないわ。
あの赤い壁紙の色だって、大屋敷の人たちのように温かで、親切そうで、幸せそうに見えるわ」
引っ越しの荷車からは、丹念に細工されたマホガニーのテーブルや、東洋風に刺繍が施された衝立などが下ろされました。
それを見ると、セーラは妙に懐かしいような気持ちになりました。
彼女はインドにいた時には、よくそうしたものを見たものでした。
ミンチン先生に取り上げられたものの中にも、彫刻のあるマホガニーの机が一つあったのでした。
「なんて綺麗な道具でしょう! きっとこれを持っているのは立派な方よ。
大がかりな家具もあるから、お金持ちなのかもしれないわ」その家具には、どこか東洋的な雰囲気がありました。それに、立派な仏壇に安置されているような仏像が運び出されるのを見ると、この家の主人はきっとインドにいたことがあるに違いありません。
「屋根裏の窓から顔を出すようなことはないかもしれないけれど、この家の人とは、なんだかもう知り合いのような気がするわ」
夕方、牛乳を運んでくる時間になると、セーラは隣の大屋敷の主人が、新しく越してきた家へ入っていくのをよく見かけました。主人はときどき外に出てきて、人夫たちに指図をしたりしています。きっと大屋敷とこの家とは、親しい間柄なのでしょう。
「もし子供がいれば、大屋敷の子たちもきっとこの家に遊びに来るわ。そうしたら、面白がって屋根裏まで登ってくるなんてことも、ないとは限らないわね」
その晩、セーラの部屋にやってきたベッキーは、こんなことを言いました。
「お嬢さん、お隣に越してきたのはインドの方ですってよ。肌が黒いかどうかは分かりませんけれど。大変なお金持ちで、大屋敷の旦那様がその方の弁護士なんですって。あまり心配事が重なって体を壊してしまったそうで……それに、あの人は木や石を拝む邪宗徒なんですってよ。なんだか妙な偶像を運び込むのを、私見ちゃいました」
「でも、それは拝むためじゃないんじゃないかしら。仏像には美しいものも多いから、拝むためじゃなくて、眺めるために持っている人もいるのよ。うちのお父様も、一つ素敵なのを持っていらしたわ」
ある日、一台の馬車がその家の前に止まりました。御者が戸を開けると、大屋敷の旦那様と看護師が降りてきました。すると玄関から下男が二人、駆け下りてきました。馬車から抱きかかえられて降りてきたのは、骸骨のように痩せ衰えた体を毛皮に包んだ、インドの紳士でした。大屋敷の主人は、ひどく心配そうな顔をしていました。まもなく、お医者様の馬車も到着しました。
その日、セーラがフランス語のクラスに出ると、ロッティがそっと言いました。
「セーラちゃん、お隣には黄色い顔のおじさんがいるのね。支那人(中国人)かしら? 地理の本に、支那人は黄色い顔をしているって書いてあったけれど」
「支那人じゃないのよ。あのおじさんは、体がとても悪いの。……さあ、練習問題をおやりなさい。『ノン・ムッシュー。ジュ・ネ・パ・ル・カニフ・ド・モン・ノンクル(いいえ、ムッシュー。私は伯父さんのナイフを持っていません)』」
そうして、そこからインド紳士の噂話が始まりました。
十一 ラム・ダス
ときどき、広場から見える夕焼けは、とても美しいものです。けれど、街中からは屋根や煙突に囲まれた、ほんのわずかな空しか見えません。台所の窓からでは、そのわずかな空さえ見えないでしょう。壮大な夕焼けの空を隅から隅まで見渡せるのは、なんといっても屋根裏の天窓です。
セーラは夕方になると、仕事で忙しい階下からそっと抜け出してきて、屋根裏部屋の机の上に立ち、窓から頭をできるだけ高く突き出して空を見るのでした。大空は、まるでセーラ一人のもののように思えました。どの屋根の上にも、空を眺めている人の姿はありません。セーラは一人、何もかも忘れて、いろいろな形に固まったり解けたりする雲を見つめていました。
ある夕方、セーラはいつものようにテーブルの上に立って空を眺めていました。西の空は金色の光に包まれ、地球の上に金の潮を流しているようです。その光の中に、飛んでいる鳥の姿が黒々と浮かんで見えました。
「素敵、素敵。なんだか恐ろしいほど素敵な夕焼けだわ。何か思いがけないことが起こるんじゃないかしら」
すると不意に、聞き慣れない物音がしました。振り返ると、お隣の窓が開いて、白い頭布を巻いたインド人の頭と、続いて白衣を着た肩が出てきました。「東インドの水夫だわ」とセーラはすぐに思いました。彼の胸元には、一匹の小猿がまとわりついています。さっき聞こえた妙な音は、この小猿の声だったのでした。
セーラが男の方を見ると、男もセーラを見返しました。男の顔は悲しげで、故郷を恋しがっているようでした。霧の多いロンドンではめったに太陽を見ることができないので、男はきっとインドで見慣れた太陽を求めて、ここへ出てきたのでしょう。
セーラはまじまじと男を見つめ、それから屋根越しにほほ笑みました。セーラは辛い日々を送る中で、たとえ知らない人からでも、ほほ笑みかけられることがどれほど嬉しいか、身に染みて感じていたのです。セーラの微笑みは、男を喜ばせたに違いありません。彼は夕闇のような顔をパッと輝かせ、白い歯を見せて笑いました。
すると猿は、男が挨拶をしようとした隙に、ふと男の手を離れて屋根を飛び越え、セーラの肩に足をかけて、そのまま部屋の中へと飛び込んでしまいました。セーラは面白がって笑い出しました。けれどすぐに、猿を主人――あのラスカーが主人なら、あのラスカーという男――に返してやらなければならないと思いました。しかし、セーラはどうやって猿を捕まえたらいいのか、見当もつきませんでした。下手に捕まえようとして、もし逃げられてしまったら大変です。
そこでセーラは、昔覚えたインドの言葉で、「その猿は、私に捕まえられるでしょうか?」と尋ねました。
男は、セーラが自分の国の言葉を話すのを聞いてひどく驚き、同時に喜びました。
そして、その言葉でぺらぺらと話し始めました。
彼の名はラム・ダスというのだそうです。
猿はなかなか言うことを聞かないだろうから、セーラが許してくれるなら、自分が行って捕まえようと彼は言いました。
「でも、屋根と屋根との間を飛んで来られるのですか?」
「造作ないことです。」
「じゃあ、来てください。怖がってあっちへ行ったりこっちへ来たりして、大騒ぎしているから。」
ラム・ダスは天窓からするりと屋根の上に上がると、まるで生まれてからずっと屋根を渡って暮らしてきたかのように、身も軽々とセーラの方へ渡ってきました。
彼は足音も立てずに天窓からセーラの部屋へ滑り込むと、セーラに向き直ってインド流の敬礼をしました。
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