初級翻訳・あのときの王子くん 第9話

あのときの王子くん

それだとあまりに面倒だからな。だから博士は探検家に、それを信じさせるだけの証拠を出せと言うんだ。たとえば、大きな山を見つけたと言うのなら、その証拠に大きな石ころでも持ってこいとな」

博士はふいにワクワクしはじめました。

「いやはや、きみは遠くから来たんだな! 探検家だ! さあ、わしにきみの星のことをしゃべってくれないか」

そう言って博士はノートを開き、鉛筆を削りました。博士というものは、探検家の話をまず鉛筆で書きとめるのです。それから、探検家が信じられるだけの証拠を出してきたら、ようやくインクで書きとめるのでした。

「それで?」と博士はたずねました。

「えっと、ぼくんち」と王子くんは言いました。「あんまりおもしろくないし、すごく小さいんだ。みっつ火山があって、ふたつは火がついていて、ひとつは消えてる。でも、万が一ということもあるかもしれないからね」

「万が一ということはあるかもしれないな」と博士は言いました。

「花もあるよ」

「わしらは、花については書きとめない」と博士は言いました。

「どうしてなの! いちばんきれいなのに!」

「それはな、花は『はかない』からだよ」

「なに、その『はかない』って?」

「地理の本というのは」と博士は言います。「すべての本の中でいちばんちゃんとしている。絶対古くなったりしないからな。山が動いたりすることなんてめったにないし、大うなばらが干上がるなんてこともめったにない。わしらは、変わらないものを書くんだ」

「でも、消えた火山が目を覚ますかもしれないよ」と王子くんは割り込みました。「なあに、その『はかない』って?」

「火山が消えていようと、目覚めていようと、わしらにとっては同じことだ」と博士は言いました。「わしらに大事なのは、山そのものだけだよ。動かないからな」

「でも、その『はかない』ってなに?」また王子くんは言いました。なにがあっても、いちど質問をはじめたら絶対にやめないのです。

「それは、『すぐに消えるおそれがある』ということだよ」

「ぼくの花は、すぐに消えるおそれがあるの?」

「もちろんさ」

『ぼくの花は、はかないんだ』と王子くんは思いました。『それに、まわりから自分を守るのは、よっつのトゲだけ! それなのに、ぼくはぼくんちに、たったひとつ置き去りにしてきてしまったんだ!』

その子はふいに、ここへ来るんじゃなかったと後悔しました。でも、気をとりなおして、

「これから行くのに、おすすめの星はありませんか?」と、その子はたずねました。

「地球という星がいい」と博士は答えました。「いいところだと聞いているよ……」

そうして、王子くんはそこをあとにしました。自分のお花のことを思いつつ。

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そんなわけで、ななつめの星は地球でした。この地球というのは、どこにでもあるような星なんかじゃない! 数えてみると、王さまが(もちろん黒い顔の王さまも入れて)111人、地理の博士が7000人、仕事人間が90万人、のんだくれが750万人、見栄っ張りが3億1100万人で、あわせてだいたい20億もの大人がいるのです。

地球の大きさをわかりやすくする、こんな話があります。電気が使われるようになるまでは、むっつの大陸ひっくるめて、なんと46万2511人もの、大勢のあかりつけが必要だったのです。

遠くからながめると、それは大変な見ものです。この大勢の動きは、バレエのダンサーみたいに、きちっきちっとしていました。まずはニュージーランドとオーストラリアのあかりつけの出番が来ます。そこで自分のランプをつけると、この人たちは眠りにつくのです。すると次は中国とシベリアの番が来て、この動きに加わって、終わると裏にひっこみます。それからロシアとインドのあかりつけの番になります。次はアフリカとヨーロッパ。それから南アメリカ、それから北アメリカ。
しかも、この人たちは、自分の出る順番を、絶対に間違えない。
でも、北極にひとつだけ、南極にもひとつだけ、あかりがあるんだけど、そこのふたりのあかりつけは、のんびりした毎日をおくっていた。
だって、1年に2回働く(はたらく)だけでいいんだから。

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うまくいおうとして、ちょっとウソをついてしまうってことがある。
あかりつけのことも、ぜんぶありのままってわけじゃないんだ。
そのせいで、なにも知らない人に、ぼくらの星のことを変に教えてしまったかもしれない。
地球のほんのちょっとしか、人間は住んでいないんだ。
地球に住んでいる20億のひとに、まっすぐ立ってもらって、集会みたいによりあつまってもらったら、わけもなく、たて30キロ、よこ30キロの広場におさまってしまう。
太平洋でいちばん小さな島にだって、入ってしまう人数なんだ。
でも、大人の人にこんなことを言っても、やっぱり信じない。
いろんなところが、自分たちのものだっておもいたいんだ。
自分たちはバオバブくらいでっかいものなんだって、考えてる。
だから、その人たちに、「かぞえてみてよ」って、いってごらん。
数字が大好きだから、きっとよろこぶよ。
でも、みんなはそんなつまらないことで、時間をムダにしないように。
くだらないよ。
みんな、ぼくを信じて。

王子くんは地球についたんだけど、そのとき、人の姿がどこにもなくて、びっくりした。
それでもう、星をまちがえたのかなって、あせってきた。
すると、砂のなかで、月の色した輪っかが、もぞもぞ動いた。

「こんばんは」と王子くんがとりあえず言ってみると、
「こんばんは」とヘビが言った。
「ぼく、どの星におっこちたの?」と王子くんがきくと、
「地球の、アフリカ」とヘビが答えた。
「えっ、まさか、地球にはひとがいないの?」
「ここは、さばく。さばくに、ひとはいない。地球は、ひろい」とヘビが言った。

王子くんは石ころに座って、目を空のほうへやった。
「星がきらきらしてるのは、みんなが、いつか自分の星を見つけられるようにするためなのかな。ほら、ぼくの星! ま上にあるやつ……でも、ほんとにとおいなあ!」
「きれいだ」とヘビは言う。
「ここへ、何しに?」
「花とうまくいってなくて」と王子くんは言った。
「ふうん」とヘビは言った。
それで、ふたりはだんまり。
「ひとはどこにいるの?」と、しばらくしてから王子くんがきいた。
「さばくだと、ちょっとひとりぼっちだし」
「ひとのなかでも、ひとりぼっちだ」とヘビは言った。

王子くんは、ヘビをじっと見つめた。
「きみって、変ないきものだね」と、しばらくしてから王子くんが言った。
「ゆびみたいに、ほっそりしてる……」
「でもおれは、王さまのゆびより、つよい」とヘビは言った。

王子くんはにっこりした。
「きみ、そんなにつよくないよ……手も足もなくて……旅だって、できないよ……」
「おれは船よりも、ずっと遠くへ、きみを連れてゆける」とヘビは言った。

ヘビは王子くんのくるぶしに、ぐるりとまきついた。
金のうでわみたいに。
「おれがついたものは、もといた土にかえる」と、ことばをつづける。
「でも、きみはけがれていない。それに、きみは星から来た……」

王子くんは、なにも返事をしなかった。

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