初級翻訳・お猫さん 第3話

お猫さん

「まあ、お猫さんとお黒さんのお手、きれいになったこと!」
二匹は恥ずかしくて顔を赤くしましたが、それからは大いばりで、ごちそうをたくさんいただきました。

プールへ行きました

大変暑い日が続きました。なにしろ、お猫さんもお黒さんも夏だというのに毛が生えていますから、その暑さといったら、もうたまったものではありません。二匹は今にもゆだってしまいそうでした。
ところが、すぐ近くの場所にプールができました。お猫さんがそれを先に見つけてきたのです。
「お黒さん、このことは誰にも言っちゃだめよ。あまりたくさんの人が来ると、プールが満員になって入れなくなるからね」とお猫さんは言いました。
二匹は早速出かけました。
途中まで来ると、子犬を十一匹連れた犬さんに会いました。
「お猫さんとお黒さん、どこへ行くの? 私たちも一緒にそこまで行きましょう。ああ、暑いこと!」と犬さんは言いました。
「犬さん、私たちは汽車の通るのを見に行くの。子犬さんたちがいたら危ないわよ」とお猫さんが言いました。
すると犬さんはあわてて子犬たちを連れて向こうへ行ってしまいましたので、お猫さんとお黒さんは顔を見合わせて喜びました。
もう少し行くと、今度は子豚を二十匹連れた豚さんに会いました。
豚さんは「お猫さんたち、暑いですね。どこか涼しい所へ一緒に行きましょう」と言いました。
お猫さんはあわてて「私たちはとても暑い所へ行くところなので、ご一緒できません」と言いました。
それから、にわとりさんやねずみさんなどにも会いましたが、みんな上手な嘘をついて断りました。
そして、やっとのことでプールに着きました。
水泳の先生であるあひるさんが五、六羽、プールの中でそれはそれは上手に泳いでいましたが、お猫さんとお黒さんのほかには、誰一人泳ぎに来ていません。
二匹は泳ぐのが初めてなので、先生ばかりの所へは恥ずかしくて入りにくかったのです。
「みんなを一緒につれてくればよかったのに、あなたが勝手に断ってしまうんだもの」とお黒さんはブツブツ怒りました。
「だって、満員になったら困ると思ったんだもの」とお猫さんは言い返しました。
二匹はふくれっ面をして顔を見合わせましたが、顔といわず体といわず、汗が滝のように流れ出しました。
あまりに暑くてたまらないので、先生たちが外へ上がって休憩している間に、二匹は大急ぎでジャブジャブと水をはねかえしながら泳ぎました。
そこへ、さっき会った子犬連れの犬さん、子豚連れの豚さん、にわとりさん、ねずみさんたち、みんながぞろぞろとやって来ました。
お猫さんとお黒さんは、どんなに恥ずかしかったことでしょう。
でも、着替えの場所を教えてあげたり、子供たちに水着を着せてあげたりしたので、誰も二匹を悪くは思いませんでした。
みんなで夕方まで泳ぎました。おかげでようやく涼しくなりました。

床屋さんへ行きました

そろそろ学校が始まる九月になりました。お猫さんとお黒さんは学校が大好きなので、始まるのが待ち遠しくて、夜もなかなか眠れないくらいでした。
でも、とうとう八月三十一日になりました。八月三十一日は、学校が始まる前日です。
お猫さんとお黒さんは、本も、ノートも、鉛筆も、洋服も、靴も、みんなきれいに揃えました。
揃え終えると、がっくりと疲れが出てしまいました。二匹はベッドの上に並んで横になって休みました。
そして、二匹はお互いの顔をつくづくと眺めました。二匹の顔は、まるでエスキモー犬のように毛が伸び放題でした。
お猫さんは言いました。
「あなたのお顔といったら、まるで熊襲(くまそ)みたいね。毛がもじゃもじゃで」
そう言われたお黒さんは怒って言いました。
「あなたこそ熊襲みたいじゃないの!」
二匹は自分の顔は見えないものですから、自分の顔はまるで卵に目鼻をつけたようにつるつると美しいのだと思い込んでいますから大変です。今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気になってきました。
そこへお母さんが飛んできて言いました。
「さあ、喧嘩はやめて、床屋さんへいらっしゃい」
そして十銭玉を二枚ずつくださいました。
二匹は床屋さんへ出かけました。途中でも一言も話をしません。二匹ともカンカンに怒っていたからです。
床屋さんに行くと、床屋さんは二匹を見て、あんまり毛が伸びているものだからゲラゲラ笑いました。
二匹は大変恥ずかしくて顔が赤くなりそうでしたが、平気な顔をして椅子の上に座りました。
床屋さんは、それはそれは上手に毛を刈ってくれました。二匹は生まれ変わったように可愛らしいお猫さんになりました。
それで、二匹はちょっと顔を見合わせてニッコリと笑いかけましたが、さっきの喧嘩を思い出して、すぐに歯を食いしばりました。その時、床屋さんは鋏を動かしながら尋ねました。
「お二人とも、おそろいの型にお切りしましょうね」
すると、二匹はいきなり顔を横に振って、「いやです!」と言いました。
床屋さんの鋏は、その時、ガチャンと下へそれて、二匹の大事な大事なおひげを、チョキンと切り落としてしまいました。
お猫さんとお黒さんは泣きました。
床屋さんはあわてました。
そして、切り落としたおひげを探しましたが、あいにくなことに、扇風機をかけていたので、おひげは風に吹き飛ばされてどこへ落ちたのやら、わからなくなってしまいました。

グニャグニャになりました

月日のたつのは早いもので、お猫さんとお黒さんのチョン切られたおひげも、もう立派に生えそろいました。
そこで、遠くの町にいる伯母さんのところへ二人で遊びに出かけることになりました。
伯母さんは洋服屋さんでしたから、二匹が一年に一度ずつ遊びに行った時に、それはそれは美しい洋服を一着ずつ、二匹に下さることになっていたのです。
二匹は、前の日からそれを楽しみにして、夜が明けるとすぐに出かけました。
ご飯も食べないで。
伯母さんのお家に着いたのが朝の六時、まだお店の戸さえ開いていません。
二匹は仕方なく、お店の入り口に寄りかかって待っていました。
牛乳屋さんが通りました。
新聞屋さんが通りました。
お豆腐屋さんが通りました。
それから、お役所や会社へ行く人が通りました。
みんな二匹の方を見て、「おや、おや、迷い猫だ」と言いました。
お猫さんとお黒さんはそれから二時間もそこに頑張っていましたが、段々とお腹がすいてきました。
のどもかわいていました。
それから又二時間もたって、そろそろお昼になるのに、お店の戸があきません。
朝来たお豆腐屋さんがお昼のお豆腐をかついで、歩いて来ました。
そして、二匹を見て言いました。
「道に迷ったんですか、お家はどこ?」と聞きました。
「伯母さんのところへ来たんだけど、お店があくのを待ってるの」と二人は言いました。
お豆腐屋さんは、
「やれやれ気の毒な、『今日は出かけますからお休みです』とそこにはりつけてありますよ」
二匹はそれを見て、がっかりしました。
それと一緒に、土の上にへたばってしまいました。
お腹がペコペコになって、足の骨がグラグラしているところへ、びっくりしたのですから。
お豆腐屋さんは驚きました。
どうしたらよかろうかと思いました。
「仕方がない。

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