それから、十日ほどの間に、お猫さんには真っ白な、お黒さんには真っ黒の毛が立派に生えそろいました。
二匹はふくろう先生にお礼を言って退院いたしました。
お父さんやお母さんたちもようやく安心いたしましたが、なかなかお父さんやお母さんというものは心配が多いものですね。
ベルさんのお鼻をひっかきました
お猫さんとお黒さんは毛がちゃんと元通りに生えそろったので、もう外に遊びに行けるようになりました。
ところがたちまちのうちに、またまたお猫さんの町中の噂になるような事件を引き起こしてしまいました。
やれやれ。
その日はちょうど、お天気がよくて、暖かい日が照っていました。
お猫さんとお黒さんはお家にいるのがつまらなくなって、外へ出かけました。
すると、お隣りのお庭に、それはそれはきれいな小さいお家が建っているのに気がつきました。
「あら、あんな所にお家が建っているわ。一体、何でしょう?」とお猫さんが言いました。
「あれは、お隣りの犬のベルさんのお家よ。こないだ、こしらえてもらったばかりよ」とお黒さんはお母さんにでも聞いたのでしょう、なかなかいろんな事を知っております。
お猫さんは言いました。
「そんな事ない。ベルさんなんかに、あんな美しいお家など、建てる人などないわ。いつだって、泥だらけの足をしているから」
そして、お猫さんは遠慮なくその小さいお家の中に入っていきました。
お黒さんも仕方なくお猫さんについていきました。
お家の中には新しいよい匂いのする藁がいっぱい敷いてありました。
風は入らないし、暖かくて、その上静かで、お猫さんとお黒さんは思わず、藁の中にもぐり込んで、寝てしまいました。
何時間か経ちました。
「もし、もし、お猫さん、お黒さん、起きてください。ここは私の家ですから」という声がしたので二匹は目を覚ましました。
二匹は、横になったまま外を見ると、ベルさんが立っていました。
お黒さんはお猫さんに言いました。
「お猫さん、やはりこれはベルさんの家よ。早く帰りましょう」と言いましたが、お猫さんは動きません。
ベルさんは外でうなり始めました。
お猫さんは仕方なく起き上がって、いきなりベルさんのお鼻をひっかきました。
ベルさんのお鼻の先からは血が出ました。
お猫さんとお黒さんは後も見ずに走ってお家へ帰りましたけれども、晩のごはんもろくにのどに通りませんでした。やっぱり悪いことをしたな、ということは二匹とも分かっていましたからね。
その晩のうちに、ベルさんのお鼻をひっかいたことが、町中に知れわたってしまいました。
なぜかというと、ベルさんが薬屋さんへ行って、「お猫さんにひっかかれたときにつける膏薬(こうやく)」というお薬を買ったからです。
「もうお外へ行ってはいけません」と、お猫さんとお黒さんのお母さんはおっしゃいました。
とんだことになりました
さて、お猫さんとお黒さんは外に出られなくなりました。もちろん学校へも行けません。
「おとなしくお留守番をしていらっしゃい。今日一日おとなしくしていれば、明日から学校に行かせてあげますから。おやつのチョコレートを戸棚の中に入れておきますよ」とお母さんはおっしゃいました。
そして、二匹をお部屋に残して買い物に出かけました。
お猫さんとお黒さんはいたずらっ子でしたけれど、学校が大好きだったので、今日は本当にいい子にしていようと思いました。もう一週間も学校を休んでいるのですからね。
初めのうちは日向ぼっこをしたり、本を読んだりしていましたが、だんだん退屈になってきて、そこにかけてあったお父さんの洋服をお猫さんが着ました。
お黒さんはお母さんの着物を引きずるほど長く着て、おしろいとほほ紅をつけました。お猫さんは墨で口ひげをかきました。
「とてもよく似合っているわ」とお猫さんはお黒さんに言いました。
「とてもよく似合っているわ」とお黒さんはお猫さんに言いました。
二人はすっかり大人になったつもりで、部屋中をいばって歩き回りました。
そのとき、玄関で「ごめんください」という声が聞こえました。
お猫さんとお黒さんは二匹そろって、玄関に出て行きました。まるで、お父さんとお母さんのように気取って。
ところが、二匹はお客さまの顔を見ると、「いらっしゃいませ」とも言わず、「キャーツ!」と声を上げてお部屋へ逃げて帰りました。
なぜかというと、それは学校の先生だったからです。
そして二匹は恥ずかしくて、ポロポロと涙を流して泣きました。おやつものどを通りません。お母さんがおいしい夕ごはんを買ってきてくださったのですが、それも食べられません。
お母さんが「明日から学校ですよ。早くお寝なさい」と言っても、眠れません。かわいそうな二匹ですね。
そして二匹が泣きながら、「学校なんていや。行きたくない」と言いました。
が、明日になれば、どうしても学校へ行かなければなりません。自分でまいた種とはいえ、なかなかつらいことですね。
汚い手をして
「今夜はあひるさんのお誕生日ですから、着物を着替えなさい。お顔も、手も足もきれいに洗うのですよ」とお猫さんとお黒さんのお母さんはおっしゃいました。
「はい」と二匹はお返事しました。そして顔は洗いましたが、手と足は面倒くさかったので洗いませんでした。
それから二匹はあひるさんのところへ行きました。ごちそうが山ほど出てきました。
「さあ、ご遠慮なく、たくさん召し上がってください」とあひるさんが言いました。
お黒さんとお猫さんは大喜びで、おいしいごちそうをいただこうとしましたが、なんといってもおめでたい日なので、電灯は三百燭(しょく)もの明るいものをつけてありましたし、テーブルクロスは真っ白でしたから、二匹の手の汚いことといったら!
二匹は他のお客さまが横を向いているうちに、そっとごちそうをいただきました。
そして、みんなが前を向いているときには、テーブルの下で手の泥をこすり落としました。
けれども、もう間に合いません。せっかくのごちそうものどを通りません。
やがて、主人のあひるさんが立ち上がって言いました。
「皆さん、どうも今夜はわざわざおいでくださってありがとうございました。ところが、さっきから見ていますと、お猫さんとお黒さんは少しもごちそうを召し上がりません。さあ、どうぞご遠慮なく」と申しました。
すると、他のお客さままでが一緒になって、「さあ、どうぞ、どうぞ」と言って、ごちそうを二匹の前へ集めました。
二匹は顔を見合わせて泣き出しそうになりました。
しかし仕方がありません。真っ赤な顔をして泥だらけの手を出して、ごちそうをいただきました。一人残らずのお客さまが見ている中で。
すると一人のお客さまが言いました。
「まあ、お二人のお手のきれいなこと!」
すると、お客さまはみんな一度に笑いました。
あひるさんは主人だけあって、すぐにかう言いました。
「なに、大したことはありませんさ。石けんで洗えばきれいになるんですからね」と。そして二匹を洗面所へ連れて行って、手を洗わせてくださいました。
帰ってくると、お客さまたちは笑いながら言いました。
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