ちっとも知らないものだから、生き肝はつい出がけに島へ置いてきたよ」
「へえ、生き肝を置いてきたのですって?」
「そうさ。さっきいた松の木の枝に引っかけて干してあるのさ。何しろ生き肝というやつは時々出して洗濯しないと、汚れるものだからね」
猿が真面目くさって言うものですから、クラゲはすっかりがっかりしてしまって、こう言いました。
「やれやれ、それはとんだことをしましたねえ。肝心の生き肝がなくっては、お前さんを竜宮へ連れて行ってもしかたがない」
「ああ、わたしだって竜宮へせっかく行くのに、お土産がなくなっては具合が悪いよ。じゃあご苦労でも、もう一度島まで帰ってもらおうか。そうすれば生き肝を取ってくるから」
そこでクラゲはぶつぶつ言いながら、猿を背負って元の島まで帰っていきました。猿が島に着くと、猿はあわててクラゲの背中から飛び下りて、するすると木の上へ登っていきましたが、それきりいつまでたっても下りてはきませんでした。
「猿さん、猿さん、いつまで何をしているの。早く生き肝を持って下りておいでなさい」
と、クラゲはじれったそうに言いました。すると猿は木の上でクックッと笑い出して言いました。
「とんでもない。おとといおいで。今日はご苦労さま」
クラゲはぷっと膨れっ面をして言いました。
「何だって! じゃあ、生き肝を取ってくる約束はどうしたのです?」
「ばかなクラゲやい! だれが自分で生き肝を持っていくやつがあるものか。生き肝を取られれば命がなくなるよ。ごめん、ごめん!」
こう言って猿は木の上からアカンベーをして、
「それほどほしけりゃ上がっておいで。悔しくも上がれまい、わあい、わあい!」
と言いながら、赤いお尻を三度叩きました。いくら馬鹿にされても、クラゲはどうすることもできないので、べそをかきながら、すごすごと竜宮へ帰っていきました。
竜宮へ帰ると、竜王はじめみんなが待ちかねていて、
「猿はどうした? 生き肝はどうした?」
と、大勢でクラゲを取り囲んでせき立てました。外にしかたがないので、クラゲはせっかく猿を騙して連れ出しながら、あべこべに騙されて逃げられてしまった話をしました。
すると竜王は真っ赤になって怒りました。
「ばかなやつだ! とんまめ! あほうめ! みんな、こらしめのためにこいつの骨がなくなるまで、ぶって、ぶって、ぶち据えろ!」そこで鯛(たい)やヒラメやカレイやホウボウなど、いろいろな魚たちが寄ってたかって、逃げ回るクラゲを捕まえると、真ん中に引き据えて、
「このおしゃべりめ。
この出過ぎた真似をするやつめ。
このまぬけめ。」
と口々に罵りながら、めちゃくちゃに叩きのめしたものですから、とうとう体中の骨が粉々になって、今のような目も鼻もない、のっぺらぼうで骨なしのクラゲになってしまいました。
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