「これはおかしい、道に迷ったか」と向こうを透かして見ると、年を経た榎の木が小暗く茂る陰に、これぞと思われる洞窟がありました。
「さては金眸の棲み処に違いない」と、さらに近づいて見てみると、あの聴水が言った通り、岩が高くそびえ立ち、まるで鑿(のみ)で削ったかのようです。そこに鬼蔦(おにづた)が這い付いて、ちょうど紅葉している様子は、まるで絵を描いた屏風のようです。
また洞窟の外には、白骨が積み重なっています。これは長年、金眸がとらえて食らってきた鳥や獣の骨でしょう。
黄金丸はまず洞窟の入り口に近づき、中の様子をうかがいます。ただ暗くてはっきりとは分かりませんが、奥の方からいびきの音が大きく響き、地軸が鳴っているのかと疑われるほどです。
「さてはまだ熟睡している。この隙に飛び込めば、すぐに討ち取れるだろう」と、黄金丸は鷲郎と顔を見合わせ、「油断するなよ」「決して油断はせぬ」と、互いに励まし合いました。
やがて二匹の犬が中へ入り込むと、ちょうど照射という女鹿とともに、岩の角を枕にして眠っている金眸の腹を、黄金丸がドカッと蹴り飛ばしました。
蹴られた金眸はハッと跳ね起き、一声叫んで立ち上がろうとしますが、起き上がる間もなく鷲郎がその襟首を噛みついて引き据えました。
その隙に逃げようとする照射は、洞窟の出口で文角に突き止められました。この時、黄金丸は声を張り上げて言いました。
「おい金眸、よく聞け。私は貴様の毒牙にかかり、非業の最期を遂げた月丸の遺児、黄金丸という犬だ。あの時、私は母の胎内にいたが、その後、養父の文角から詳しいことはすべて聞いた。貴様のせいで父だけでなく、母までも病んで亡くなったのだ。両親の仇、長年積もった恨みの牙を、今こそ思い知らせてやる!」
名乗りを上げると、金眸は恐ろしい目を見開いて言いました。
「お前は昨日、黒衣のために射殺された野良犬ではないか。さては妄執が晴れず、わしが酔って寝ている隙に忍び込み、祟りをなそうというのか。なんとも忌々しいやつめ!」
そう言い終わるのも待たずに黄金丸は冷笑しました。
「愚かだな、金眸。貴様も黒衣に騙されていたのだ。あのような山猿に、この黄金丸が射殺されるはずがあるか。貴様が右腕と頼りにしていた聴水も、先ほど殺した。その黒衣という山猿さえ、私はすでに噛み殺してここにある!」
そう言って、持ち帰った黒衣の首を金眸の前に投げ捨てました。
金眸は大いに怒り、「さては黒衣のやつ、嘘をついていたのか。だが、それがどうした!」と言いながら、鷲郎を払いのけて黄金丸に掴みかかりました。しかし、黄金丸はそれをかわして肩を噛みつきました。
金眸も負けじと、すかさず黄金丸の太ももを噛もうとします。噛ませまいと横から鷲郎が躍りかかり、金眸の頬を噛みました。
その隙に黄金丸は跳ね起き、金眸の背中にサッとまたがって、耳を噛みながら左右に激しく振り回しました。
金眸は痛さに身を悶えさせながら、鷲郎の横腹を引っ掻くと、「ギャア!」と叫んで身を翻し、少し退いて洞窟の入り口の方へ逃げ出そうとします。それを追いかけていくと、文角が立ちはだかり、角を振り立てて「寄らば突くぞ」と身構えています。
「さては加勢の者がいるのか。この金眸の死に物狂いの凄まじさを見せてやる!」と、ますます猛り狂いました。
その叫び声は、百もの雷が一時に落ちるかのようで、山や谷が震え、恐ろしいことこの上ありません。
そうこうするうちに三匹の獣は、互いに秘術を尽くし、右に突き、左に跳ね、縦横無尽に暴れまわって半時ほど戦いましたが、金眸は先ほど飲んだ酒のせいで、思うように足が動きません。
相手は名高い黄金丸、鷲郎も並みの犬ではありません。さすがの金眸も敵わず、少しひるんだところを黄金丸が見逃さず、金眸の喉元を狙って噛みつきました。鷲郎もすかさず後ろから、金眸の睾丸を力いっぱい噛みちぎりました。
急所を突かれた金眸は、一声悲鳴を上げて、あえなく倒れ込みました。
これを見て張り詰めていた心の糸が切れ、二匹の犬は左右にバタリと倒れ込み、しばらくは起き上がることもできませんでした。
文角はこれまで洞窟の入り口で、二匹の犬の戦いを一瞬も見逃さずに見ていましたが、この時ゆっくりと中へ進み入り、悶絶している二匹をいろいろと舐めて元気づけました。
ようやく二匹が回復したのを見て、今宵の働きを言葉を尽くして称賛しました。やがて金眸の首を噛み切ると、文角がその首を角に突き刺して、そのまま山を駆け下り、荘官の家へと急ぎました。こうして黄金丸は主人の家へ帰り、例の金眸の首を差し出しました。
主人もだいたいの事情を察して、この上なく喜びました。「よくぞやってくれた、黄金丸。そして鷲郎も、天晴れな働きだ。父の敵を討ったという点では、個人的な恨みを晴らしたに過ぎず、ことさら褒めるほどのことでもないかもしれない。しかし、長年にわたり多くの獣たちを虐げ、あまつさえ人間を傷つけ、日増しにその猛威を振るっていたあの金眸を討ち取ったことは、獣たちのために害を取り除き、人間のために悩みの種を払ったということであり、その功績は実に莫大である」と、言葉の限りを尽くして褒め称えました。そして、黄金丸には金の首輪を、鷲郎には銀の首輪を与えて、二匹とも家の守り役としました。
二匹もその恩に感激し、主人への忠義を怠ることはなかったということです。
めでたし、めでたし。
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