そんなことが起きたら、お母さんや、お父さんや、レーワや、ボーリヤや、サシュールカが、それこそどんなに泣くだろう。
そうだ、ドウーニヤ叔母さんだって泣くに決まっている。
コーリヤはあたりを見回しました。なんだか、本当に狼や悪漢がすぐそばで自分を狙っているような気がしました。
間もなく、白樺の影で、ちらりと何かが動きました。
コーリヤははっとして目を閉じました。
「ああ神さま。もうだめだ」
「こらっ、ちくしょう! 走れ!」
リカの声が聞こえました。
コーリヤは目を開けました。
「リカ、お前はなにも怖くないのか?」とコーリヤは聞きました。
「なにが?」
「狼が出てくるよ」
「狼? こんなところに狼がいるもんか。いたって、そりの鈴の音を聞けば、ぶっ飛んで逃げちまうよ」
「じゃあ、強盗が来たら?」
「強盗? 何を言っているんだ。こんなところに強盗なんかいるもんか。ここいらに住んでいる人は、みんないい人ばかりだよ。なんでお前さんはそんなことばかり言うの? クリスマスの前の原っぱには、そんなけがわらしいものはいないよ。マカルおじさんがそう言っていた。おじさんがまだ子どものとき、今日みたいにそりに乗っていくと、原っぱの真ん中で森の化け物が踊りを踊っていたんだと。うそじゃない。化け物のやつが、白樺の影で跳ね回って踊っていたんだってさ」
「ふうん」
「で、マカルおじさんは讃美歌を歌い出したんだと。『今日ぞマリヤを』って歌をな。それを聞くと、化け物のやつは蠅(はえ)になってさ、蠅によ。そして雪あらしの中をびゅうびゅう飛んで、どこかへ逃げてしまったんだって」
「うそだろう」
「うそ? それじゃあこんな話だってあるよ。クリスマスの前の晩には、魔法使いの女が臼(うす)に乗ってやってきて、真っ黒な鬼と一緒に輪になって踊ったり歌ったりするんだってさ。そして朝、お寺の鐘が鳴るとみんな蠅になるんだって」
「それだって、うそだい」
コーリヤは言いました。
でも、心の中では化け物が出てきやしないかと怖くて怖くて、じっと身体をすくめていました。すると、どこからか、化け物が笛を吹いているような、笑っているような音が聞こえてきた気がしました。
「おい、誰だ! 吠えるな!」
リカがどなりました。
コーリヤは飛び上がるほど驚きました。
「おどかすなよ、リカ」
リカは笑いました。
「はっはぁ」
ふと、前の方に赤い火が見えてきました。
一つ、二つ、三つと。
あれは村ではないでしょうか。
「おい、リカ!」
コーリヤは叫びました。
「見て、あの光っているの、なんだろう?」
「あれ? あれは火だよ」
リカはすましておっとりと言いました。
「村の家の明かりさ」
「村だって? わあ、万歳!」
コーリヤはうれしさのあまり叫びました。
こわばっていた顔が急にほころび、喜びが顔中いっぱいに広がりました。
もう、寒さなんてどこかへ飛んでいってしまいました。
コーリヤは、そりの中で首を精一杯伸ばして、だんだんとはっきりしてくる光を、じっと見つめました。
「ほら、走れ!」
リカも元気づいて、びゅうびゅうと鞭を振るいました。
三
さあ、村に着きました。
おっ、この堀。あの橋。
水車場からは明かりが漏れています。
山ぎわにあるコーリヤの大きな家では、コーリヤを迎えるように大きな門が開け放たれていました。
そりは勢いよく門の中へ駆け込みました。
すると家の中は、さっきコーリヤが想像した通り、大騒ぎでした。
ガブリーラや、ミハイラやバラーシュカたちは、まるで気が狂ったかのように駆け回って、何かをわめいています。
犬はうれしそうに吠え立てます。
戸が開いて、じいやのドウーニヤが手にろうそくを持って飛び出してきました。
馬は荒々しく白い息を吐き、威勢よく鈴を鳴らしました。
家の窓々には、明かりが忙しく走り回っています。
あそこにランプを持っているのは誰でしょう。
ああ、お母さんだ。
「さあ、降りたよ」とリカが言います。
「ああっ、しびれが切れた」
それから一分も経たないうちに、コーリヤは、抱きついてしまいたいほど懐かしい、おなじみの湯沸かし器がちんちんと鳴っているそばに座っていました。
「お母さん、ねえ、僕、リカに乗せてもらったんだよ」
「あら、ニキフォールじゃなかったの?」
「うん」
お父さんはニキフォールのことを怒りました。
「あいつめ、あんな小僧っ子にコーリヤを送らせるなんて、ひどい奴だ。リカはどこにいるんだ」
「台所にいるよ。馬に乾草をやって、自分はストーブの上で温まっているの」
お父さんは台所へ行きました。
あとから子供たちもぞろぞろとついていきました。
リカは靴を脱ぎ、帯も解いて、テーブルの前に座っていました。
下女が、お茶を注いでやっていました。
リカの顔は真っ赤になっています。
鼻の先の皮がむけ、濡れた麻色の髪の毛が、大きな頭の上にぺったりと張り付いていました。
「おい、リカ」とお父さんがどなりました。
「一体、お前みたいなものを寄こすなんてどういうわけだ。お前、いくつなんだ?」
「おれは赤ん坊じゃねえよ」
リカは、ぶっきらぼうに答えました。
「もっと遠くへだって一人で行くんだ。ここまでくらい、なんでもねえよ」
「途中で、もし間違いがあったらどうするんだ。お前にはまだ馬が自由には扱えまい」
「おれにだって?」
リカは笑いました。
「三頭引きだって扱えるよ。二頭くらいなんでもないさ」
「ふうん、そいつはえらいな」とお父さんは言いました。
レーワと、ボーリヤと、サシュールカは、びっくりしたような目をしてリカを見ていましたが、自分たちもリカとおしゃべりがしたくなったのか、少しずつそばへ寄ってきました。
「家にはね、もうすぐクリスマスの飾りのもみの木が来るのよ」とボーリヤが言いました。
「あっちへお行き」とお父さんが言いました。
「ここは子供たちの来るところじゃない」
子供たちは仕方なしに、いやいやながら台所を出ていきました。
けれど、お父さんが部屋へ行ってしまうと、すぐまた台所へやってきました。
「ねえ、家にはね、クリスマスのもみの木が来るのよ」
「ふん、来るものは来させればいいさ」とリカは言いました。
「それよりか、お母さんに言っておいてくれよ。金をくれないかって。一ルーブル八十コペックだよ」
リカはやたらに熱いお茶を飲みました。
そしてすっかり汗をかいて、ため息をつきながら窓の外を見て、下女に言いました。
「ふう。なんてひどい天気だろう。一晩泊まらなきゃならないな。お前、おれを追い出したりしないだろ?」
「リカが家に泊まるんだって!」と、子供たちはうれしそうに叫びました。
「だけど、お前どこで寝るの?」と下女が聞きます。
「あの長椅子の上だよ」「なんの上に?」
「腰かけの上だって言ってるだろ。」
「だって、まくらがないよ。」
「まくらなんかいらないさ。坊ちゃん、おれに砂糖を少し持ってきてくれないか。」
ボーリヤは、お砂糖を見つけ出して、持ってきてあげました。
レーワはクルミを持ってきました。
サーシュカもまねをして、壊れたお人形を持ってきました。
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