一
果てしなく広がる雪の野原を、二頭立てのそりが一台、のろのろと進んでいました。
そりについた鈴が、さびしげな音を響かせます。
真っ白に凍りついたぼろ布をかけられた馬は、煮えたぎる湯気のような白い息を、ヒューヒューと絶え間なく吐き出していました。
御者台には、近くの村の農家の子で、今年十三歳になるリカが座っています。
お父さんの古帽子をかぶってきましたが、サイズが大きすぎて、少しでもうつむくと、ぽろりと鼻の先までずり落ちてきてしまいます。
リカはそれを荒っぽく押し上げながら、
「ほい、ちくしょう。
こののろまめ。
早く歩かねえか。
ほい!」
と、馬を怒鳴りつけていました。
そりの中には、冬休みで田舎の家へ帰る途中の中学二年生、コーリヤが、体中に外套や布団を巻きつけて乗っています。
北風はものすごい唸りを上げて吹き荒れ、リカの鼻をつねったり、コーリヤの外套を突き抜けて氷のような息を吹きかけたりします。指先をカチカチに凍らせて動かなくしてしまったかと思えば、今度はゾクゾクするような冷たさで、首筋をなでまわしたりします。
リカの靴は真っ白に凍りつき、帽子から覗く髪の毛は、まるで年寄りの髪のように灰色になっていました。
「リカ」
中学生のコーリヤはたまらなくなって、大声を上げました。
「なにかもっと着せてくれよ。寒くて寒くてたまらないんだ」
「なんだって? 寒い? ちぇっ」
リカはそう言うと、御者台から飛び降り、帽子を押し上げながらそりのほうへやってきました。
そして、大きな手袋をはめた手で、コーリヤがかけている毛布を直してやり始めました。
「おや、震えてるねえ」
リカはからかうように言いました。
「どうしたんだい? 凍えちまったのか。鼻をほら、鼻を隠さないかよ。家に着くまでに鼻がなくなっちまうぞ。見なよ、まあ、なんてお前さんの鼻、赤くなってるんだ」
「なんだい。鼻なんかどうだっていいじゃないか、早くしろよ」
そこでリカは自分の鼻をこすり、手袋をはめ直すと、また御者台へと飛び乗りました。
「どうどう、ちくしょう」
リカは長い鞭を力いっぱい振り回しました。
そりはギシギシときしみながら、再び動き出しました。
コーリヤはじっと縮こまり、身動き一つしませんでした。少しでも動くと、北風がどこかしら新しい隙間を見つけて吹き込んでくるからです。
しかし、コーリヤの心の中は、だんだんと温かい喜びに満ちあふれてきました。
コーリヤはこのそりが、自分の家の大きな門の前に着いたときのことを想像しました。
そりが着けば、窓には弟たちの頭がちらちらと見え出し、小さな手で窓ガラスを叩く音が聞こえてくるはずです。
家中の者がみんな玄関へ駆け出し、戸がバタバタと開くかと思うと、じいやのドウナーシヤが階段を転がるように駆け下りてきて、そりから抱き下ろしてくれるでしょう。
お父さんや、お母さんや、ワアニヤ叔父さんや、ドウーニヤ叔母さん、それから喧嘩相手の弟のレワにボーリヤ、そして目の黒い妹のサーシュにも会えるのです。
ああ、家はいいな。でも、冬休みは短いからつまらない。たった二週間ぽっきりです。そうしたらまた学校へ行かなければなりません。そうだ、あともう一週間だけ、仮病を使えばいいんだ。そうすれば冬休みが三週間になるわけだ。でも、お父さんに見抜かれたらダメだな。
このほかに、もう一つコーリヤには心配事があります。それは、家へ持っていく二学期の通知表の、算術の点がたった二点しかないことです。
しゃくにさわる点数だ。これさえなかったら、コーリヤはどんなに幸せだったことでしょう。
しかし、それだってどうにか、「算術の先生が意地悪なんだ」とか「みんなも出来なかったんだ」とか、うまく言い訳をすればいいや。
そんなことより、弟や妹たちが、自分が買ってきたクリスマスプレゼントを見たら、どんなに飛び上がって喜ぶだろう。
それに、お母さんは蓄音器を買ったと手紙に書いてきたし、ああ、家へ帰るととても面白そうだ。
御者台のリカは、コーリヤの考えていることなどお構いなしに、ただむやみに鼻をこすったり、凍りついた靴をバタバタと打ち合わせたり、手袋をはめた手を叩いたりするだけで、何も考えていないようでした。
「ほい、ちくしょう」
いくら怒鳴っても、馬はやっとのことでそりを引きずっているだけで、この小さな御者の言うことなど少しも聞きません。
「ちぇっ、走らねえか。こらっ」と、リカは叫び続けました。
「もっと早くやれよ、リカ」「……コーリヤは、とてもじれったそうに言いました。
「いやに急がせるね。火事場へ行くわけじゃないんだからさ。どんなに馬だって、少しはかわいそうに思ってやらなくちゃ。お前さんはそこに座っているけれど、馬のやつはお前さんを引っ張っているんだからな。昨晩は材木を運んだんだ。馬だって少しはこたえるよ」
「なんだ」と、コーリヤは言いました。
「だって馬が二頭じゃないか。僕の家の馬なら、一頭だってこれよりずっと速く走るぞ」
「それはね、お前さんところの馬はえん麦を食べているからだよ。おらのは乾草だけだもの。えん麦なんて、ちょっと匂いを嗅がせるだけだからな」リカはそう付け加えました。「お前さんだって、やっぱりうまいものばかり食べているんだろう? 砂糖ばかり舐めているんじゃないかよ」
コーリヤは笑いました。
「ばかだな、世界中で砂糖よりおいしいものはないと思っているのかい。お前、本が読めるのか?」
「読めるよ。少しぐらいはな」
「じゃあ、字を書くのは?」
「字を見ながら写すのならできるよ。それよりもお前さん、まだ学校を卒業しないのかね」
「まだ卒業なんてとんでもない。これから七年中学に通って、それから五年大学へ行くんだよ。そしてお医者さんになるんだ」
「じゃあ、なにもかも勉強しなくちゃならないんだね。大変だなあ」
「お前、町へ行ったことがあるかい?」
「あるもんか。――こらっ、走れ、このちくしょうめ!」
二
あたりはもうすっかり暗くなって、肌を切り裂くような風が、びゅうびゅうとまともに吹きつけてきました。
コーリヤは顔中が凍りつき、足はまるで木の棒のように感覚がなくなってきました。
リカは御者台から飛び降りると、馬を鞭で打ちながら、自分はそりと並んで走りました。
馬は、ようやく駆け出しました。
リカも遅れまいと、手を振りながら走りました。
けれどすぐに息が切れて、後ろに取り残されてしまいました。
コーリヤは、それが気になりました。やっぱりリカが御者台に乗っているほうが安心です。
リカはなかなか戻ってきません。北風はますます吹き荒れ、野原一面をうずまくように暴れ回り、雪けむりを高く巻き上げたり、白樺の枝を笛のように鳴らしたかと思えば、どっと大声で笑うような音を立てたりしました。
コーリヤは急に心細くなってきました。
どこかから突然、狼が飛び出してきて、馬も自分たちも食い殺してはしないだろうか。
短刀を持った悪漢が現れて、捕まえでもしたらどうしよう。
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