初級翻訳・たけのこ 第1話

たけのこ

たけのこ
新美南吉

たけのこは、はじめのうちは地面の下にいて、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと、土の中をもぐって進むものなのです。
そして、雨が降ったあとなどに、ぽこぽこと土から頭を出すのであります。
さて、このお話は、まだそのたけのこたちが地面の中にいたときのことです。
たけのこたちは遠くへ行きたくてたまらない様子でしたが、お母さんのたけが、
「そんなに遠くへ行っちゃいけないよ。やぶの外へ出ると、お馬さんの足に踏まれてしまうからね」
と、しかっていました。
しかし、いくらしかられても、ひとつのたけのこだけは、どんどん遠くへもぐっていくのでした。
「おまえは、どうしてお母さんの言うことを聞かないの?」
とお母さんのたけが聞きました。
「あっちのほうから、美しくてやさしい声が、ぼくを呼んでいるからだよ」
と、そのたけのこは答えました。
「わたしたちには、なんにも聞こえないよ」
と、ほかのたけのこたちは言いました。
「けれど、ぼくには聞こえるんだ。それはもう、言葉にできないくらい素敵な声なんだよ」
と、そのたけのこは言いました。
そして、どんどんみんなから離れていきました。
とうとうこのたけのこは、ほかのたけのこたちと分かれて、かきねの外に頭を出してしまいました。
するとそこへ、横笛を持ったひとが近づいてきて、
「おや、おまえは迷子のたけのこかい?」
と声をかけました。
「いいえ、ちがいます。あなたが吹いていた、その笛の音がとても素晴らしかったので、その音にさそわれてここまでやってきたのです」
と、たけのこは答えました。
さて、このたけのこは、大きく硬くなったとき、立派な横笛となりました。

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