初級翻訳・アリスの地底めぐり 第9話

アリスの地底めぐり

「よして!」
「どこへ行っても!」と、やりきれないといったふうに、ハトはしくしく泣きます。
「どうしようもないのよ!」
「いわんとすること、ちっともぴんと来なくてよ。」とアリス。
「木の根元も行ってみた、土手にも行った、生けがきも行ってみたのに。」とハトはこっちそっちのけで続けます。「やつらヘビが! いつまでもあきたらない!」
ますますわからないアリスですが、口を出してもしかたないので、終わるまでそのままにしておきました。
「タマゴかえすのがそう手間じゃないっていうのかいさ!」とハト。
「いつだってヘビにぴりぴりしなくちゃいけなくて、昼も夜もよ! あああ、この3週間、ひとねむりもしてないっていうのに!」
「おなやみお気の毒さま。」とアリスにも、言わんとすることがわかってきました。
「だから森いちばんの高い木にのぼって、」と声をうわずらせるハト。「やっとのがれられたと思っていたところ、来るなら空からおちてくるしかないってのにさ! うげっ! ヘビ!」
「でも、あたくしヘビじゃなくてよ。」とアリス。
「あたくし――あたくし――」
「ふん! 何だっていうの?」とハト。
「何かごまかそうとしてんじゃないの。」
「あたし――女の子だもん。」と言いつつ、どこかしっくりこないアリス。これまでいく度となくのびちぢみしたのを思い出してしまっていました。
「都合のいい言いのがれね!」とハト。
「生まれてこのかたおおぜい見てきたけれど、あんたみたく首の長いのはひとっこひとりいなかったね! そうよ、あんたはヘビ、そんなことはお見通しなんだから! どうせ次には、タマゴなんて味わったことないって言いくさるんだろ!」
「タマゴくらい味わったことあってよ、ええ。」と言うアリスはほんとに正直ものです。「でも、わざわざあなたのものなんかいただくもんですか。生なんていただけなくってよ。」
「ふん、なら、しっしっ!」とハトはまた自分の巣におさまりました。アリスはアリスで、木々のあいだ、なるべく身をかがめて進みましたが、首が枝にからまってばかりで、何度も途中でほどくはめになりました。
そのときふと、手ににぎったままだったキノコのかけらを思い出してね。あらためて慎重にあつかいながら、まずはひとつをかじり、さらにもうひとつ、のびたりちぢんだりしながら、ようやくいつもの大きさにおさまることができました。
かなりひさしぶりの元の背たけなので、初めはとっぴに思えましたが、ものの数分もするとしっくりくるくる。そしていつものように、ひとりごとが始まりました。
「よし! これで半分はかなったわけね! ほんとわけわかんなくてよ、ころころ変わるなんて! 次から次へと、何になっていくのか読めないし! とはいっても、また元の背たけになれたんだから。お次は、あのきらびやかなお庭に入ることね――どうやってやったものかしら?」
こんなことを言っているうちに、ふと目についた一本の木。そこに何やら中へと続く戸口がついていて、「まあ、へんてこりん!」とアリスは思いました。「でも今日はみんなへんてこりん、だから入ってもまあよろしくてよ。」というわけで、中へお立ち入り。
すると気づけばまたもや大広間。そばには小さなガラスのテーブルがありました。
「さあて、今度こそ上手くやってみせてよ。」とひとりごと。まずはちっちゃな金の鍵を手にとって、庭へ続くドアを開けます。
それから手をつけるのがキノコのかけら。食べていって最後は38センチくらいの背たけになりました。
そのあと短い廊下をぬけていって、そしてお次は――気づいたらとうとう、きらびやかなお庭でした。あたりにはきらめく花園、すずしげな泉があります。

大きなバラの木が1本、庭を入ったところに立っていて、ついているバラはどれも白なのに、その場にいた3枚の庭係が、いそいそとそいつを赤にぬっていました。
これがアリスにはすごくへんてこなことに思えたものだから、じっくり見ようと足を向けると、近づくなり聞こえてくる、うちひとりの言葉。「気ぃつけろよ、5枚目! そんなふうにこっちへ絵の具をはねかけんな、こら!」
「しょうがねえだろ。」と5枚目はむっとした声を返します。「7枚目がこっちのひじを小づきやがった。」
それに7枚目も顔を上げて口をはさみます。「やんのか、5枚目! いつもいつもひとのせいにしやがって!」
「てめえ言ってる場合かよ!」と5枚目、「聞いたぜつい昨日、クインのやつがてめえの首はねようかっつってな!」
「ワケは?」と口火を切ったやつが聞きます。
「てめえの知ったこっちゃねえよ、2枚目!」と7枚目。
「いいや、知ったこっちゃあるんだな!」と5枚目、「だから教えてやんよ。ワケってのは、ジャガイモとまちがえてチューリップの根っこを料理係に持ってったってな!」
7枚目はハケを放り出してまくし立てます。「はあ? そんなおかどちげえ――」とここで目にうつるアリス、ふいに話が止まります。
ほかの2枚もふり返り、みんなしてかぶりものをぬいで、ふかぶかとおじぎをしました。
「もし、教えていただけて?」とアリスはおずおずと聞きます。「どうしてバラに色なんかつけてらして?」
5枚目と7枚目は2枚目をにらむだけで、おしだまっています。
そこで2枚目が小声で、「その何だ、じょうちゃん、実はさ。本当は赤いバラの木のはずだったんだけど、手ちがいでオレら白いのを植えちまってさ。クインに見つかるはめにでもあったら、もうオレらみんなそろって打ち首よ。つーわけでさ、来ないうちにやれることやっとこうと――」
まさにこのとき、庭の向こうをそわそわと見つめていた5枚目が声をあげます。「クインのやつだ! クインだ!」
庭係の3枚はあわててぺたんとうつぶせにたおれました。
おおぜいの足音にふり返ったアリスは、当のクイーンにじいっと目をそそぎます。
まずやってきたのが、こんぼうをかまえた10枚の強者たち。すがた形は庭係3枚と同じで、ぺらぺらの長四角、角のところに手足がついています。
お次は10枚のそばづかえ。そろってダイヤで色取られ、強者と同じで2列になって歩いています。
そのあとに来るのが王子さま王女さま。10枚いらっしゃって、このかわい子ちゃんたち、2人1組で手をつないで、うきうき軽やかに進みます。そろってハート柄のおあしらい。
次に来るのがお歴々。キングにクイーンがほとんどだけど、そのなかにアリスはあの白ウサギを見つけてね。でも白ウサギはせかせかとお話しながら、言われたことにはあいそ笑いするばかりで、アリスに気づかずに前を通り過ぎていきました。
そのあと続くのがハートのジャック。おしだいたるふわふわの台の上にはキングのかんむり。そしてこの大ねり歩きのとりをかざるのが、ハートのキングとクイーンでした。その行列がアリスの目の前までやってくると、みんな一斉に立ち止まってアリスをじろじろと見つめました。そこでクイーンが鋭い声で言いました。
「こやつは一体だれなの?」
問いかけられたハートのジャックは、ただおじぎをして、にこにこと笑うだけです。
「このバカ者!」クイーンは鼻を高く突き上げると、今度はアリスに向かって言いました。

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