初級翻訳・アリスの地底めぐり 第10話

アリスの地底めぐり

「名前は何というの?」
「あたくしの名前はアリスです、クイーンさま。」アリスは強気に答えました。心の中では「ふん、ただのトランプの束じゃないの。怖がることはないわ!」と思っていたからです。
「あれは誰なの?」クイーンが指差したのは、バラの木のまわりに倒れている3枚の庭係です。うつぶせになっていたので、背中の模様だけでは、それが庭係なのか、強者やそばづかえなのか、あるいは自分の子どもたちなのか、まったく見分けがつかなかったのです。
「あたくしに聞かないで。」アリスは自分でもびっくりするほどの強気で言いました。「そんなの知りませんわ。」
怒りで顔を真っ赤にしたクイーンは、アリスをちらっとにらみつけると、突然わめき散らしました。「この子の首をちょん切――」
「とんでもない!」アリスが大きな声で言い返すと、クイーンは黙り込みました。
キングがクイーンの腕にそっと手を置いて、おずおずと言いました。「ねえ、お前さん、よく考えてごらんよ! ほんの子どもじゃないか!」
クイーンはぷいっと顔をそむけて、ジャックに命じました。「こやつらをひっくり返せ!」
ジャックは、おそるおそる片足でひょいとそれをやりました。
「立て!」クイーンがキーキーと叫ぶと、3枚の庭係はすぐに飛び起きて、キング、クイーン、王子や王女、そしてみんなに向かっておじぎを始めました。
「もういい、やめい!」クイーンが甲高い声で言いました。「目が回るわ。」そしてバラの木の方を向いて続けました。「ここで今まで何をしておった?」
「おそれながら、クイーンさま。」2枚目が片ひざをついて、へりくだった声で言いました。「なんとか3枚で……」
「もうわかった!」その間にバラを調べていたクイーンは言いました。「こやつらの首をちょん切れ!」こうして行列は再び動き出しました。処刑を行うための強者3枚がその場に残されたので、追いつめられた庭係の3枚は、アリスのところに駆け寄って助けを求めました。
「そんな打ち首、させませんわ!」アリスは3枚とも自分のポケットに隠してしまいました。
結局、強者たちはそのあたりをぐるりと一周探しただけで、あとはみんなの後を追ってすたすたと去っていきました。
「首は切ったかえ?」クイーンが大声で聞きました。
「みな首なしにて、」強者たちも大声で答えました。「ございまする、クイーンさま!」
「よろしい!」クイーンが叫びました。「そちはクローケーができるか?」
強者たちは黙り込んで、アリスの方を向きました。どうやら自分に聞かれているのだと気づいたアリスは、
「はいっ!」と大きく声を張り上げました。
「ならばこっちへ来い!」クイーンが響くような声で言いました。行列の仲間入りをしたアリスは、これから何が始まるのかとドキドキしていました。
「いやはや――よいお日和ですな!」おずおずとした、ひそひそ声が聞こえました。
なんと隣を歩いていたのはあの白ウサギで、こわごわとアリスの顔をのぞき込んでいたのです。
「本当に。」アリスは答えました。「クイーンさまはどちらにいらっしゃるの?」
「しっ、しーっ!」ウサギは小声で言いました。「聞こえるでござるよ。クイーンさまがどの御方か、知らんでか?」
「ええ、初耳ですわ。」アリスは言いました。「何を治めていらっしゃるの?」
「ハートどもの女王様であらせられる。」ウサギは耳元でひそひそと囁きました。「ウミガメのフーミたちをすべて治めておられるのじゃ。」
「えっ、それって何のこと?」アリスが聞き返しましたが、答えてもらう暇はありませんでした。もうクローケー場に着いていて、すぐに試合が始まったからです。
アリスは思いました。生まれてこのかた、こんなにへんてこなクローケー場は見たことがないと。
地面はでこぼこで、でこぼこです。
クローケーの玉は生きているハリネズミだし、ボールを打つ槌は生きているダチョウでした。それに強者たちがわざわざ両手両足をついて身体を二つ折りにし、玉がくぐる門の代わりをしていたのです。
中でも一番難しいとアリスが気づいたのは、ダチョウの扱いです。
ダチョウの胴体を小脇に抱えて、足をぶらぶらさせてみても、首をうまくまっすぐにして頭で玉を打とうとした途端、ダチョウが身体をひねって顔をのぞき込んでくるのです。あまりに困りきった顔をするものだから、アリスはつい吹き出してしまうしかありませんでした。
やっとのことでダチョウの頭を下に向けて仕切り直しても、今度はハリネズミが丸まってくれずに、ちょろちょろとどこかへ逃げ出してしまうので、本当に悩ましい限りでした。
それどころか、ハリネズミを転がそうとしても、たいていその方向には地面の凸や凹があり、さらには門になっている二つ折りの強者たちが、しじゅう立ち上がっては別の場所へ歩いていってしまうので、アリスはすぐに「この試合、難しすぎるわ!」と思うに至ったのでした。試合に参加している人たちは、自分の番を待とうともせず、みんな勝手に一斉に打ち始めました。ずっと大声で言い争いをしていて、ものの数分もしないうちにクイーンは怒り爆発! どしんどしんと歩き回っては、「あの男の首をちょん切れ!」とか「あの女の首をちょん切れ!」と、1分に1回くらいのペースで怒鳴り散らしていました。

言い渡された人たちはみんな、強者たちにしょっぴかれていくので、当然ながら門の役をする人がいなくなってしまいます。そんなこんなで30分も経つと、残ったのはキングとクイーンとアリスだけで、他の人たちはみんな打ち首を言い渡されて連れて行かれてしまったのです。

そこでクイーンもようやく手を止めて、ぜえはあ言いながら、アリスに一言尋ねました。
「そちはウミガメフーミに会ったことがあるか?」
「いいえ。」とアリスは答えました。「そもそもウミガメフーミが何だか存じませんし。」
「ならばこっちへ来い。」とクイーン。「そうすれば本人がその由来を教えてくれよう。」

いっしょになってその場を離れるとき、アリスの耳に、キングが残ったみんなにかける声がかすかに聞こえました。「このたびは、みんな大目に見ることにするよ。」
(はあ、ほっとした!)とアリスは思いました。クイーンが次々と打ち首を言いつけていたので、かなり心を痛めていたからです。

まもなく行き当たったのは1匹のグリフォンでした。日なたでスヤスヤと眠っています(グリフォンがどんな姿をしているのか知らないなら、挿絵を見てごらん)。
「起きろ、なまけもの!」とクイーンが言いました。「このお嬢さんをウミガメフーミのところへ案内して、その由来を聞かせてやれ。わらわは戻って、さっき言いつけた打ち首を見届けねばならん。」
そう言ってクイーンが離れていくと、そこにはアリスとグリフォンが残されました。

アリスはこの生き物の顔つきがそれほど気に入ったわけではありませんでしたが、考えてみると、ここに一人でいるのも、あのプンスカ怒るクイーンについていくのも、どちらにせよ危険なのは変わりなさそうだったので、じっとしていることにしました。

身体を起こしたグリフォンが目をこすって、そのあと、姿が見えなくなるまでクイーンをじろじろと眺めました。それから、ふくみ笑いをしました。

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