「あいにく、これ以上何とも言えませんの。」とていねいに受け答えするアリス。「だって自分でもよくぞんじませんし、ほんと、1日でこんな色々な背たけになれば、頭もこんがらがってよ。」
「そうでもない。」と青虫。
「ふん、きっとあなたはまだあんまりおわかりでないのね。」とアリス。「でもあなただってほら、いずれさなぎになって、そのあとちょうちょに変わったりしたら、そういうのやっぱりちょっとけったいに思えるものでしてよ、そう思わない?」
「いささかも。」と青虫。
「少なくとも、」とアリス。「あたくしにはけったいに思えるってこと。」
「おぬしとな!」と青虫は鼻でわらいながら、「そのおぬしはだれなのじゃ。」
というわけで、また話はふりだしに。アリスは、青虫のそっけなすぎるしゃべり口にちょっといらいらしてね、そこでむねをはって、いたけだかに言いました。「まずはご自分から名乗るのがすじとぞんじますけど?」
「なぜかね?」と青虫。
これはまたまたなやましい。とっさの言いわけもできないアリス、青虫もひどく気げんをそこねているみたいなので、ぷいっと歩きさろうとしたんだけど。
「そこへもどれ!」と青虫が後ろから声をかけてきてね、「大事なことを教えてやる!」
悪くない話に思えたから、アリスはくるっとして引き返しました。
「そう怒るな。」と青虫。
「それだけ?」とアリスは、なるだけいらいらを飲みこみます。
「いや。」と青虫。
ほかにすることもないので、とりあえず待つことにすれば、そのうちきっと青虫も耳をかせるだけのことを話してくれる、そうアリスはふんだのです。しばらくのあいだ、もの言わず水ぎせるをぷかぷかさせてたんだけど、やがてうでをほどいて、ふたたび口からきせるを外して、ひとこと言いました。
「自分が変わったと申すのじゃな?」
「そうですの。」とアリス。「前知ってたことが思い出せないの――『がんばるミツバチ』を歌ってみたけど、ぜんぜんちがってて!」
「ならばどうだ、『ウィリアムじいさん』は。」と青虫。
アリスは手を組んで、歌い出しました。
1
「もう年なんだ、ウィリアムじいさん。」
わかもの言った、「頭は白髪、
なのにいつでも、逆立ちばかり――
自分の年をわきまえろよ!」
2
むすこに向かって、じいさん言った、
「わかいころは、ケガもおそれた、
だけどもともとバカだと気づき、
それからあとは、打ちこむのみよ。」
3
「もう年なんだ、わかってくれよ、
どっから見ても太りすぎだよ、
なのに戸口でバク宙なんて――
いったい何を考えてんだ?」
4
しらがふりわけ、じいさん言った、
「わかいころには、しなやかじゃった、
このぬり薬のおかげでな――
ひと箱5シル、どうじゃふた箱。」
5
「もう年なんだ、はぐきも弱い、
やっとあぶらみ食えるくらいで、
ガチョウをほねごとまるまる平らげ――
こりゃいったいどうなってんだ?」
6
「わかいころには、へりくつばかり、
ことあるごとに、にょうぼと言い合い、
おかげでアゴもきたえられてな、
死ぬまでずっとそのままじゃろな。」
7
「もう年なんだ、ふつうだったら、
目のほうだってしょぼしょぼのはず、
それでも鼻にウナギを立てて、
じいさんどうしてバカほどきよう?」
8
「3べん言えば、わかるじゃろ!
いいかいお前、いい気になるなよ、
こんな話はもうたくさんじゃ。
いなねば上からけりおとす!」
「正しくないのう。」と青虫。
「わりとね、あいにく。」とアリスはおずおず言いました。「ところどころちがってはいてよ。」
「初めから終わりまでまちがっておる。」と青虫はばっさり、そのあとしばし、しぃん。先に口を開いたのは青虫でした。
「どれくらいの背たけになりたい?」とたずねてきてね。
「べつに、背たけにこだわりなんかなくって、」とあわててお返事するアリス、「ただ、ころころ変わるのはいただけなくてよ、やっぱり。」
「今は足りておるのか?」と青虫。
「う~ん、もうちょっとばかり大きいほうがいただけそう、といったところね。」とアリス。「7センチの背たけって、なってみるとみじめなものよ。」「こりゃほどよい背たけなんじゃぞ!」と怒った青虫が声をはりあげて、しゃべるままに背すじをすっくと(ちょうど7センチのたけにね)のばしました。
「でも、こんなのしっくりこなくてよ!」と、弱ったアリスはみじめったらしく食いさがりながら、こう思います。
「ここの生き物、こらえしょうってもの、ないのかしら!」
「そのうちしっくりこようて。」と青虫は口に水ぎせるをくわえて、またふかし始めます。
今度もアリスは、相手がまた話す気になるまでじっと待っていました。数分すると青虫は口から水ぎせるを外し、キノコから下りて、草むらへとくねくねと立ち入っていきました。去りぎわのすて言葉はこうです。
「かさのところでのびる、えのところでちぢむ。」
「何のかさ? 何のえ?」と思うアリス。
「キノコのじゃ。」と青虫。口に出していない言葉に返事をしたと思いきや、まばたきするともう目の前から消えていました。
アリスは少しのあいだキノコにうたがわしい目を向けていましたが、そのあともぎ取ると、おそるおそるふたつにぽっきり折りました。片手にえのところ、もう片手でかさを持ちます。
「えでどうなるんだっけ?」とか言いながら、試しにちょびっとかじってみました。
またたくまもなく、いきなりアゴへごちんと何かがぶつかります。
なんと足とごっつんこしたのです!
このいきなりの変わりように、たいへんおそれをなしたものの、ちぢむのはそこまででした。キノコのかさも落としていないので、まだまだあきらめたりしません。
アゴが足にくっついているので口を開けるのもむりに近いのですが、なんとかやりとげて、ついにキノコのかさをちょびっとかみちぎりました。
* * * * *
「うん! ようやく頭が楽になってよ!」とアリスがはしゃいだのもつかのま、すぐにうろたえだしたのは、自分の肩がどこにも見えなくなったからです。
かぎりなくのびた首をながめおろすと、遠く下に広がる緑の葉の海から1本つき出ているみたいでした。
「あの緑のしろものは、何だっていうの?」とアリス。「それにあたくしの肩は、どこに行ってて? それから、もう! なんてこと、あたくしの手は? どうやったらそんな迷子に!」と口にしながら、あれこれ動かしてみたのですが、どうもそのあとに起こったのは、葉っぱのざわざわだけでした。
そこで頭を手のところまで下ろしてみようとしてみると、うれしいことに、なんと首はあらゆる向きへやすやすと曲げられます。まるでヘビみたいに。
そこで首をたくみにうねうねと曲げてみせ、葉っぱのなかへつっこんで初めて、自分がそれまでうろついていた森の木々のてっぺんにいると気づきました。ところがせつな、しゃーっとおどかす声にさっと引っこめると、顔に飛びかかってくる大きなハトが、したたかに羽を打ちつけてきます。
「ヘビめ!」とさけぶハト。
「あたくしヘビじゃなくてよ!」とアリスもぷんすか。
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