初級翻訳・あのときの王子くん 第11話

あのときの王子くん

おいらは、ある足音を、ほかのどんなやつとも聞きわけられるようになる。ほかの音なら、おいら穴ぐらのなかにかくれるけど、きみの音だったら、はやされたみたいに、穴ぐらからとんででていく。それから、ほら! あのむこうの小むぎばたけ、見える? おいらはパンをたべないから、小むぎってどうでもいいものなんだ。小むぎばたけを見ても、なんにもかんじない。それって、なんかせつない! でも、きみのかみの毛って、こがね色。だから、小むぎばたけは、すっごくいいものにかわるんだ、きみがおいらをなつけたら、だけど! 小むぎはこがね色だから、おいらはきみのことを思いだすよ。そうやって、おいらは小むぎにかこまれて、風の音をよく聞くようになる……」

キツネはだんまりして、王子くんをじっと見つめて、「おねがい……おいらをなつけておくれ!」といった。

「よろこんで。」と王子くんはへんじをした。「でもあんまりじかんがないんだ。友だちを見つけて、たくさんのことを知らなきゃなんない。」

「自分のなつけたものしか、わからないよ。」とキツネはいった。「ひとは、ひまがぜんぜんないから、なんにもわからない。ものうりのところで、できあがったものだけをかうんだ。でも、友だちをうるやつなんて、どこにもいないから、ひとには、友だちってものがちっともいない。友だちがほしいなら、おいらをなつけてくれ!」

「なにをすればいいの?」と王子くんはいった。

「気ながにやらなきゃいけない。」とキツネはこたえる。「まずは、おいらからちょっとはなれたところにすわる。たとえば、その草むらにね。おいらはきみをよこ目で見て、きみはなにもしゃべらない。ことばは、すれちがいのもとなんだ。でも、1日、1日、ちょっとずつそばにすわってもいいようになる……」

あくる日、王子くんはまたやってきた。

「おんなじじかんに、来たほうがいいよ。」とキツネはいった。「そうだね、きみがごごの4じに来るなら、3じにはもう、おいら、うきうきしてくる。それからじかんがどんどんすすむと、ますますうきうきしてるおいらがいて、4じになるころには、ただもう、そわそわどきどき。そうやって、おいらは、しあわせをかみしめるんだ! でも、でたらめなじかんにくるなら、いつ心をおめかししていいんだか、わからない……きまりごとがいるんだよ。」

「きまりごとって、なに?」と王子くんはいった。

「これもだれもわすれちゃったけど、」とキツネはいう。「1日をほかの1日と、1じかんをほかの1じかんと、べつのものにしてしまうもののことなんだ。たとえば、おいらをねらうかりうどにも、きまりごとがある。あいつら、木ようは村のむすめとダンスをするんだ。だから、木ようはすっごくいい日! おいらはブドウばたけまでぶらぶらあるいていく。もし、かりうどがじかんをきめずにダンスしてたら、どの日もみんなおんなじようになって、おいらの心やすまる日がすこしもなくなる。」

こんなふうにして、王子くんはキツネをなつけた。そして、そろそろ行かなきゃならなくなった。

「はあ。」とキツネはいった。「……なみだがでちゃう。」

「きみのせいだよ。」」と王子くんはいった。
「ぼくは、つらいのはぜったいいやなんだ。
でも、きみは、ぼくになつけてほしかったんでしょ……」
「そうだよ」とキツネはいった。
「でも、いまにもなきそうじゃないか!」と王子くんはいった。
「そうだよ」とキツネはいった。
「じゃあ、きみにはなんのいいこともないじゃない!」
「いいことはあったよ」とキツネはいった。
「小むぎの色のおかげでね」
 それからこうつづけた。
「バラの庭に行ってみなよ。
きみの花が、せかいにひとつだけってことがわかるはず。
おいらにさよならをいいにもどってきたら、ひみつをひとつおしえてあげる」
 王子くんは、またバラの庭に行った。
「きみたちは、ぼくのバラとはちっともにていない。
きみたちは、まだなんでもない」と、その子はたくさんのバラにいった。
「だれもきみたちをなつけてないし、きみたちもだれひとりなつけていない。
きみたちは、であったときのぼくのキツネとおんなじ。
あの子は、ほかのキツネ10まんびきと、なんのかわりもなかった。
でも、ぼくがあの子を友だちにしたから、もういまでは、あの子はせかいにただ1ぴきだけ」
 するとたくさんのバラは、ばつがわるそうにした。
「きみたちはきれいだけど、からっぽだ」と、その子はつづける。
「きみたちのために死ぬことなんてできない。
もちろん、ぼくの花だって、ふつうにとおりすがったひとから見れば、きみたちとおんなじなんだとおもう。
でも、あの子はいるだけで、きみたちぜんぶよりも、だいじなんだ。
だって、ぼくが水をやったのは、あの子。
だって、ぼくがガラスのおおいに入れたのは、あの子。
だって、ぼくがついたてでまもったのは、あの子。
だって、ぼくが毛虫をつぶしてやったのも(2、3びき、チョウチョにするためにのこしたけど)、あの子。
だって、ぼくが、もんくとか、じまんとか、たまにだんまりだってきいてやったのは、あの子なんだ。
だって、あの子はぼくのバラなんだもん」

 それから、その子はキツネのところへもどってきた。
「さようなら」と、その子がいうと……
「さようなら」とキツネがいった。
「おいらのひみつだけど、すっごくかんたんなことなんだ。
心でなくちゃ、よく見えない。
もののなかみは、目では見えない、ってこと」
「もののなかみは、目では見えない」と、王子くんはもういちどくりかえした。
わすれないように。
「バラのためになくしたじかんが、きみのバラをそんなにもだいじなものにしたんだ」
「バラのためになくしたじかん……」と、王子くんはいった。
わすれないように。
「ひとは、ほんとのことを、わすれてしまった」とキツネはいった。
「でも、きみはわすれちゃいけない。
きみは、じぶんのなつけたものに、いつでもなにかをかえさなくちゃいけない。
きみは、きみのバラに、なにかをかえすんだ……」
「ぼくは、ぼくのバラになにかをかえす……」と、王子くんはもういちどくりかえした。
わすれないように。

「こんにちは」と王子くんがいうと、
「こんにちは」とポイントがかりがいった。
「ここでなにしてるの?」と王子くんがいうと、
「おきゃくを1000にんずつわけてるんだ」とポイントがかりがいった。
「きかんしゃにおきゃくがのってて、そいつをおまえは右だ、おまえは左だって、やってくんだよ」
 すると、きかんしゃが、ぴかっ、びゅん、かみなりみたいに、ごろごろごろ。
ポイントがかりのいるたてものがゆれた。
「ずいぶんいそいでるね」と王子くんはいった。
「なにかさがしてるの?」
「それは、うごかしてるやつだって、わからんよ」とポイントがかりがいった。
すると、こんどはぎゃくむきに、ぴかっ、びゅん、ごろごろごろ。
「もうもどってきたの?」と王子くんがきくと……
「おんなじのじゃないよ」とポイントがかりがいった。
「いれかえだ」
「じぶんのいるところが気にいらないの?」
「ひとは、じぶんのいるところが、ぜったい気にいらないんだ」とポイントがかりがいった。

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