すると、またまた、ぴかっ、びゅん、ごろごろごろ。
「さっきのおきゃくをおいかけてるの?」と王子くんはきいた。
「だれもおっかけてなんかないよ」とポイントがかりがいった。
「なかでねてるか、あくびをしてる。
子どもたちだけが、まどガラスに鼻をおしつけてる」
「子どもだけが、じぶんのさがしものがわかってるんだね」と王子くんはいった。
「パッチワークのにんぎょうにじかんをなくして、それがだいじなものになって、だからそれをとりあげたら、ないちゃうんだ……」
「うらやましいよ」とポイントがかりがいった。
「こんにちは」と王子くんがいった。「こんにちは」と、王子くんがいうと、
「こんにちは」と、ものうりがいった。
ものうりは、のどの渇きをおさえる魔法のような薬を売っていた。1週間に一度飲むだけで、もう喉が渇いたなんて思わなくなる薬だ。
「どうして、そんなものを売るの?」と王子くんがいった。
「時間を節約できるからさ」と、ものうりがいった。
「博士が計算したんだけど、1週間に53分も無駄が省けるんだ」
「その53分をどうするの?」
「好きなことをするのさ……」
王子くんは考えた。
『ぼくなら、53分も自由な時間があったら、ゆっくり、ゆーっくり、水くみ場まで歩いていくのにな……』
24
あれから、砂漠におりたって8日め。
ぼくは、ものうりの話を聞きながら、ほんの少しだけ残っていた水を最後の一滴まで飲みほした。
「なあ!」と、ぼくは王子くんにいった。
「とっても素敵な思い出話だけど、ぼくの飛行機はまだ直っていないし、もう飲む水も一滴もないんだ。ぼくだって、ゆっくり、ゆーっくり水くみ場まで歩いていけるなら、どんなにうれしいことか!」
「友だちのキツネが……」と、その子が言いかけたけれど、
「いいかい、ぼうや。今はもうキツネの話をしている場合じゃないんだ!」
「どうして?」
「喉がからからで、もうすぐ死んじゃうからだよ……」
その子はぼくの言いたいことがわからなくて、こういった。
「友だちになるって、すてきなことだよ。たとえ死んじゃうときでもね。ぼく、キツネと友だちになれて、すっごくうれしいんだ……」
ぼくは思った。
『この子、自分の置かれている危険に気づいていない。お腹が空くことも、喉が渇くことも、この子には関係ないんだ。少しお日さまがあれば、それで十分なんだね……』
ところが、その子はぼくを見つめて、ぼくの考えに返事をしたんだ。
「ぼくだって、喉はからからだよ……井戸をさがそう……」
ぼくは、だるそうに体を動かした。井戸をさがすなんて、ばかげている。こんな果てしない砂漠で。それでも、ぼくたちは歩きだした。
ずっと黙って歩いていくと、夜がきて、星がぴかぴかと光りだした。ぼくは、ぼんやりした頭で星をながめた。喉が渇いて、意識が遠のく。王子くんの言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「じゃあ、きみも喉が渇いているのかい?」と、ぼくはきいた。
でも、その子は質問には答えず、ただこういった。
「水は、心にもいいんだよ……」
ぼくにはどういう意味かわからなかったけれど、何もいわなかった。きかないほうがいいんだと、なんとなくわかっていたから。その子はへとへとだった。砂の上にすわりこむ。ぼくもその隣にすわりこんだ。しばらくの静寂のあと、その子はこういった。
「星がこんなにきれいなのは、目に見えない花がどこかで咲いているからだよ……」
ぼくは「そうだね」と返事をして、月明かりのもと、黙って砂のデコボコをながめた。
「砂漠は、うつくしいね」と、その子は言葉をつづけた……
まさに、そのとおりだった。ぼくはいつも、砂漠のどこかが好きだった。何にも見えない。何にも聞こえない。それでも、何かが、しんとした沈黙の中で静かに輝いている……。
王子くんがいった。
「砂漠がうつくしいのは、どこかに井戸をかくしているからだよ……」
ぼくは、どきっとした。ふいに、なぜ砂がこんなにも輝いているのか、そのなぞが解けたんだ。ぼくが小さな男の子だったころ、古い屋敷に住んでいた。その屋敷には、宝物がどこかに隠されているという伝説があった。もちろん、だれひとりそれを見つけたことはないし、きっとさがす人さえいなかった。でも、その伝説のおかげで、家じゅうが魔法にかかったみたいだった。その家には、隠された秘密があったんだ。どこか、奥のほうに……。
「そうか」と、ぼくは王子くんにいった。
「あの家も、あの星も、あの砂漠も、みんなが魅力的で気になるのは、そう、なにかをうつくしくするものは、目には見えないからなんだね!」
「うれしいよ」と、その子はいった。
「きみも、ぼくのキツネと同じことをいってくれるんだね」
王子くんが眠りにつくと、ぼくはすぐさま、その子を抱きかかえて歩きだした。ぼくは胸がいっぱいだった。なんだか、こわれやすい大切な宝物を運んでいるみたいだ。これほどこわれやすく、大切なものは、地球のどこにもないんじゃないかと思う。ぼくは、月明かりのもと、じっとその顔を見た。青白いおでこ、つむった目、風にゆれるふさふさの髪。ぼくはこう思う。いまここで見ているのは、ただの「から」にすぎない。いちばん大切なものは、目には見えないんだ……。
その子の唇が少しだけ開いて、いまにもほほえみそうになった。そのとき、ぼくは続けて、こう考えていた。
『眠っている王子くんをこんなにも愛おしく感じるのは、この子が自分の花に対してひたむきだからだ。眠っている間も、この子の内側で、あの花の姿がランプの炎のようにきらきらと輝いているからなんだ……』そして、これこそが、何よりも壊れやすいものなのだと気づいた。
この火を、しっかりと守らなくてはいけない。
風がひと吹きすれば、それだけで消えてしまうかもしれないから……。
そうして、そんなふうに歩いているうちに、ぼくは井戸を見つけた。
夜明けのことだった。
王子くんがいった。
「人は、速い機関車に夢中だけど、自分が何を探しているのかわかっていない。だから、そわそわして、同じところをぐるぐる回っているだけなんだ」
さらに続ける。
「そんなことしなくていいのに……」
ぼくたちが行き当たった井戸は、どうもサハラ砂漠の井戸らしくなかった。
砂漠の井戸といえば、ただ地面に簡単な穴がぽこっと開いているだけのものだ。けれどここにあるのは、まるで村の井戸のようだった。
しかし、村なんてどこにもない。ぼくは、夢を見ているのかと思った。
「おかしいな」と、ぼくは王子くんにいった。
「全部そろっている。滑車も、バケツも、ロープも……」
その子は笑って、ロープを手にとり、滑車を回した。
すると、きいきいと音がした。風に長い間さらされていた風見鶏のような、なつかしい音だった。
その子は笑って、ロープを手にとり、滑車を回した。
「聞こえるよね」と王子くんがいった。
「ぼくらのおかげで、この井戸が目を覚まして、歌をうたっているんだ……」
ぼくは、その子に無理をさせたくなかった。
「かして」と、ぼくはいった。
「きみには、きつすぎるから」
そろりそろりと、ぼくはバケツを井戸のふちまで引き上げて、倒れないよう、しっかりと置いた。
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