初級翻訳・あのときの王子くん 第7話

あのときの王子くん

「王さまのところにいたときより、ずっと楽しいな」
王子くんは心の中でそう思いました。
だからもう一度、両手を叩いて拍手を送りました。
見えっぱりは、またしても帽子を少し持ち上げて、お辞儀を繰り返します。
五分間続けてみましたが、ずっと同じことの繰り返しだったので、王子くんはこの遊びにも飽きてしまいました。
「ねえ、その帽子を下ろすにはどうしたらいいの?」とその子は聞きました。
でも、見えっぱりにはその言葉が届いていません。
見えっぱりは、自分を褒め称える言葉にしか、耳を貸さないのです。
「おまえは、おれさまを心からすごいと思っているか?」と、その男は王子くんに問いかけました。
「すごいっていうのは、どういうこと?」
「すごいっていうのは、このおれさまが、この星でいちばんかっこよくて、いちばんおしゃれで、いちばんお金持ちで、いちばん頭がいいんだって、認めることだ」
「でも、この星にはきみ一人しかいないよ!」
「お願いだ、とにかくおれさまを褒めてくれ!」
「褒めるよ」と言って、王子くんは肩を少しすくめました。
「でも、きみにとってそんなことのどこが大事なの?」
そして王子くんは、その星をあとにしました。
「大人の人って、やっぱりすごく変わってるなあ」と、その子は心の中でつぶやきながら、旅を続けます。

12

次の星には、飲んだくれが住んでいました。
ほんの短い滞在でしたが、王子くんはひどく暗い気持ちになってしまいました。
「ここで何をしているの?」王子くんは、飲んだくれに話しかけました。
その子が見ると、男は空っぽの瓶が山積みになったものと、中身が入った瓶が山積みになったものを前にして、黙り込んで座っていました。
「飲んでいるんだ」と、飲んだくれはしょんぼりと答えました。
「どうして飲むの?」と王子くんはたずねました。
「忘れたいんだ」と、飲んだくれは言いました。
「何を忘れたいの?」と、王子くんは気の毒に思って、さらに聞きました。
「恥ずかしい気持ちを忘れたいんだ」と、飲んだくれはうつむきながら打ち明けました。
「何がそんなに恥ずかしいの?」と、王子くんは力になりたくて、また問いかけました。
「飲んでいることが恥ずかしいんだ!」飲んだくれはそう言い捨てると、とうとう黙り込んでしまいました。
どうしていいか分からず、王子くんは、その星をあとにしました。
「大人の人って、やっぱりめちゃくちゃ変だなあ」と、その子は心の中で思いつつ、旅を続けます。

13

四つ目の星は、仕事人間の住む星でした。
この人はとっても忙しくて、王子くんがやって来たときも顔を上げようとしません。
「こんにちは」とその子は言いました。
「たばこの火が消えてるよ」
「三たす二は五。五たす七は十二。十二たす三は十五。こんにちは。十五たす七は二十二。二十二たす六は二十八。火をつけ直す暇なんてないんだ。二十六たす五は三十一。ふう。合計で五億百六十二万二千七百三十一だ」
「なに、その五億っていうのは?」
「ん? まだいたのか。五億……もう分からん……やらなきゃいけないことが山ほどあるんだ! 私はきちんとしている人間なんだ。無駄話をしている暇はない! 二たす五は七……」
「なんなの、その五億百万人っていうのは?」王子くんはまた聞きました。
なにがあっても、一度質問を始めたら絶対にやめないのが王子くんです。
仕事人間は、ようやく顔を上げました。
「五十四年もこの星に住んでいるが、邪魔されたのは三回だけだ。最初は二十二年前、コガネムシがどこからともなく飛び込んできたときだ。ぶんぶんとうるさくて、たし算を四回も間違えてしまった。二回目は十一年前、リウマチの痛みに襲われたときだ。運動不足で歩く暇もないからな。私はきちんとしているんだ。三回目は……まさに今だ! さてと、五億百……」
「……百万も、何があるの?」
仕事人間は、もう放っておいてはもらえないと諦めました。
「……百万も、あの小さいやつがあるんだ。ときどき空に見えるだろ」
「ハエ?」
「いいや、その小さいやつは光るんだ」
「ミツバチ?」
「いいや。その小さいやつは黄金色で、なまけものをうっとりさせる。だが、私はきちんとしているからな! うっとりしている暇はないんだ」
「あっ! 星のこと?」
「そうだ、星のことだ」
「じゃあ、その五億百万の星をどうするの?」
「五億百六十二万二千七百三十一だ。私はきちんとしているんだ。細かい数字なんだぞ」
「それで、星をどうするの?」
「どうするって、どういうことだ?」
「うん。何をするのかってこと」
「何もしないよ。自分のものにするんだ」
「星が、きみのものだって?」
「そうだ」「でも、さっき会った王さまは……」
「王さまは、自分のものになんかしない。『治める』んだ。ぜんぜん違うよ」

「じゃあ、星が自分のものだと、なんのためになるの?」
「ああ、お金持ちになれるんだよ」

「じゃあ、お金持ちだと、なんのためになるの?」
「また別の星が買えるようになる。新しい星が見つかったらね」

王子くんは心の中で思いました。
『この人、ちょっと理屈っぽいな。さっきの飲んだくれと同じだよ』
でもとりあえず、質問を続けました。

「どうやったら、星が自分のものになるの?」
「そんなの、だれのものだ?」と、仕事人間はぶっきらぼうに答えました。
「わからないよ。だれのものでもないと思う」
「じゃあ、わたしのものだ。わたしが最初に思いついたんだから」

「それでいいの?」
「もちろんさ。たとえば、きみがだれのものでもないダイヤモンドを見つけたら、それはきみのものになる。だれのものでもない島を見つけたら、それもきみのものだ。最初に何かを思いついたら『特許』がとれる。きみのものになるんだ。だから、わたしは星を自分のものにする。なぜなら、わたしより先にだれひとりとして、そんなことを思いつかなかったからだ」

「うん、なるほどね」と王子くんは言いました。「で、それをどうするの?」
「取り扱うんだ。数えて、数え直す」と仕事人間は言いました。「難しいぞ。だが、わたしはちゃんとした人間なんだ!」

王子くんは、まだ納得できませんでした。
「ぼくは、スカーフが一枚ぼくのものだったら、首のまわりに巻きつけてお出かけするよ。ぼくは、花が一輪ぼくのものだったら、花を摘んで持っていく。でも、きみは星を摘めないよね!」

「そうだ。だが、銀行に預けられる」
「それってどういうこと?」
「自分の星の数を、小さな紙切れに書き留めるってことだ。そうしたら、その紙を引出しにしまって、カギをかける」

「それだけ?」
「それでいいんだ!」

王子くんは思いました。
『おもしろいし、それなりにかっこいい。でも、ぜんぜんちゃんとしてない!』
王子くんは、「ちゃんとしている」ということについて、大人とは違った考えを持っていたのです。

「ぼくはね」と、その子は言葉を続けます。「花が一輪ぼくのもので、毎日水をやります。火山が三つぼくのもので、毎週スス払いをしてきれいにします。それに、火が消えている火山のスス払いもします。万が一ということがあるからね。

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