初級翻訳・パイとやきがたのはなし 第3話

パイとやきがたのはなし

リービはわけをはなします、お客さんが焼き型をのみこんだと。
すると、「らめらめ? は! はっ!」とこたえていそいそついてきます。
ひょいひょいすすむものですから、リービまで走るはめになりまして。
めだつったらありません。リービが先生つれていたこと村じゅうに知れわたったでしょうね。
「それ見たこと、食べすぎたのよ!」といとこのぐいぐいタビサ。
ところがリービが先生をさがしているあいだに――みょうなことがダッチェスにおこったのです。
ひとりのこされて、こころぼそくぜえはあしていたのですが、
「まるのみってどうやって? 焼き型みたいな大きなもの!」
立ち上がってテーブルへとより、パイ皿のなかをまたスプーンでさぐります。
「ございませんわ、焼き型。なかへ入れましたのに。パイを口にしたのはわたくしだけ、ですからわたくしのみこんだにちがいありませんの!」

また腰をおろして、しょげながらだんろをじーっ。
火はぱちぱちゆらゆら、さらになにかがじゅ、じゅうぅぅぅ!
ダッチェスはびくっ! 上のオーヴンのとびらをあけると、もくもくと出てきたのはこうばしい子牛とブタもものかおり、みごときつね色のパイがのっかっていて――パイ生地のてっぺんにあいたあなからちいさな金属の焼き型がちらり!
ダッチェスはしんこきゅう――
「ならわたくしがたべていたのはネズミ! ……どおりで気持ちわるいはず……ですけどほんとに焼き型をまるのみしてたらもっとひどいことにだって!」ここでかんがえだすダッチェス――「やっかいですわ、このままではリービにわけをはなすことに! ここはこっちのパイをうらにわにおいてないしょにいたしましょう。おうちへかえるさい、うらにまわってこっそりもちだすんですの」とうら口の外においてから、まただんろわきにすわりこんで目をつむりました。
リービが先生をつれてやってきたときには、ねいっているようにしか見えません。
「でたでた、は、はっ?」と先生。
「具合はかなりよくなりましたの」とダッチェスはびくっとおきあがります。
「それをきいてほっとしました! おくすりをひとつぶおもちなんですって!」
「あのですね脈をとっていただくだけで、もうじゅうぶんですの」とダッチェスは、カササギがくちばしになにかくわえてにじりよってきたので、あとずさりしまして。
「ただのパンぐすですから。とらないとあなたたいへんよ」「ほら、ミルクをちょっとごくっとして、ダッチェスさん!」
「でたでた? でたでた?」と先生が言うそばで、ダッチェスはせきこんでむせ返っています。
「うるさいわね、先生!」といきなりリービが怒り出して――「ほら、このジャムつきパンをあげるから、お庭に出てってよ!」
「でたでた、らめらめ! はははっ!」と、むらっけ先生は仕事はおしまいとばかりに声を上げて、裏口から外へ出ていきました。
「気分はもう、すっかりよくなってきてますの」とダッチェス。
「わたくし、暗くなる前におうちに帰らないとだめですわね?」
「そのほうがいいかもですよ。すてきな肩かけを貸してあげますから、あと、わたしのお肩もお借りなさいな」
「どうぞおかまいなく。すこぶるよくなりましたの。むらっけ先生のおくすりが――」
「あらま、焼き型をとっぱらったってんなら、なんてあっぱれな! 明日の朝ごはんのあと、ちゃんとお休みできたかおたずねに上がりますよ」
リービとダッチェスはおもむろにお別れをして、おいとまするダッチェス。
帰り道、立ち止まってふりかえります。
リービはもう中に入って戸締まりをしていました。
ダッチェスは柵をすりぬけ、リービのおうちの裏へまわって、お庭をのぞきこみます。
ブタ小屋の屋根に、むらっけ先生と3羽のコクマルガラスがちょこん。
3羽のカラスがパイ生地をもぐもぐ、カササギが焼き型から肉汁をじゅるり。
「でたでた、は、はっ!」と声を上げたのは、ダッチェスの黒い小さなお鼻先が角からのぞいていることに気づいたからです。
かけ足で去るダッチェス、もうばつがわるくって!
お茶の道具を洗おうと、バケツ1杯の水をくみに外に出てきたリービが見つけたのは、白地でふちどりがもも色のパイ皿、しかもお庭のどまんなかでコナゴナに割れていました。
焼き型も水くみポンプの下にあったのですが、これはむらっけ先生が気をきかせておいていったものです。
リービはたまげてじろじろ――「こんなのってある? ってことは、ほんとに焼き型があったの? ……でもわたしの焼き型はみんな台所の戸だなの中だし。わたしじゃないってことは! ……つぎお茶会をひらくときには――いとこのぐいぐいタビサをよびましょ!」

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