初級翻訳・きつねめさんのはなし 第5話

きつねめさんのはなし

気配もなく、するのはぽたぽたぴたぴた敷き布団からしたたるしずくの音だけ。
半時間ほど様子をうかがいました。
やがて目がきらっ。
もういてもたってもいられなくなり窓をがんがん叩きます。
それでもベッドの中身は動きません。
しめしめ――これで決まり――まったく狙い通りの大成功です。
かわいそうにバケツをくらったあなぐまトミーは打ちどころが悪くお亡くなりに!
「やっこさんはご自分で掘ったあの穴に埋めて差し上げましょう。
マットレスも表に出して虫干しですね。」ときつねめさん。
「テーブルクロスは洗って芝生に広げて天日干しです。
毛布はつるして風ざらし。
それからベッドは完全消毒、あんかと湯たんぽで温めかわかすのです。
どろどろ石けんにオガクズ石けん、いろいろいりますねえ。
重曹とタワシも。
それから防虫剤、におい消しのフェノールもです。
よーく消毒。
ああイオウをたくハメになるやも。」

かけ足でおうちを回って台所からショベルを持ち出します――「まずは大きなお墓を作りましょう――そのあとやっこさんを毛布にくるんだまま引きずりましてね……」
とドアを開けますと……

あなぐまトミーがきつねめさんの台所で席について、きつねめさんのティーポットからきつねめさんのティーカップへお茶を注いでいるのです。
ぬれていないばかりかニヤニヤしながらあつあつのお茶が入ったカップをそのままきつねめさんに投げつけてきました。
とっさにきつねめさんもあなぐまトミーに飛びかかり、あなぐまトミーはそのきつねめさんをカップの破片が散らばる中、迎え撃ちます。
台所じゅうを舞台は大乱闘。
床下のウサギたちからすれば、家具がひっくり返るたび床が抜けるかと思えるくらい激しい音でした。
ふたりは抜け穴からこっそり出ると、岩場の裏、木かげのあたりで恐る恐る様子をうかがいます。
おうちの中はものすごい大騒ぎ。
オーヴンの中の子うさぎたちもさすがに目を覚ましてブルブル。
閉じ込められていてかえって幸いかもしれません。
台所はテーブルを除いて何もかもがめちゃくちゃ。
壊れに壊れて残ったのは火元の上のお棚と下の柵くらい。
食器なんかはこなごなに砕けてしまいました。
イスはみんなバキバキ、窓も割れて、時計もがしゃんと倒れていて、あたりにはきつねめさんのすな色のおひげもちらほら。
つぼもみんな火元の上のお棚からおっこちて、缶の入れ物も整理棚からすってんころりん。
火にかけてあったやかんも外れまして。あなぐまトミーの片足が、ラズベリージャムのびんにスポッとはまってしまいます。
そしてやかんからこぼれ出たあつあつのお湯が、きつねめさんのしっぽにかかりました。
やかんはたおれてしまったものの、にんまり顔をくずさないまま、あなぐまトミーは上のほうをとります。
そしてきつねめさんを丸太のようにゴロゴロと転がして、おもてへ放り出しました。
こうなると、うなり合いにかみつき合いの戦場は外になり、ふたりは土手を転がり岩場にぶつかりながら、丘を下へ下へとむかっていったのでした。
あなぐまトミーときつねめさんは、お互いのことがとことん大っきらいなようですね。
じゃまものがいなくなると、すぐにあなうさピーターとばにばにベンジャミンが木かげから飛び出してきます。
「今しかない! つっこめ、さあベンジャミン! 飛び込んで助け出すんだ! そのあいだオレがドアを見張ってるから!」
ところが、おじ気づくベンジャミン――
「うわあぁ、あいつら戻ってくるぞ!」
「来ないよ、来やしないって。」
「来るってば!」
「いいかげんにしろよ! たぶんあいつら、岩場から落っこちたんだからさ。」
それでもベンジャミンはぐずぐずとまごつき、ピーターはひたすら急かします――
「いそげって、だいじょうぶだって。オーヴンのとびらをしめておけば、なあベンジャミン、そうすればいなくなっても気づかれないからさ。」
中に入ってみると、きつねめさんの台所はそりゃあもうさんざんなありさまでした!

さてところはかわってウサギ穴、こちらでもあれこれとくすぶっています。
フロプシーとぴょんぴょんじいさんは、ばんごはんのときにも口げんか、そのあと夜もねむれず、朝ごはんのときにはまた口げんか。
たしかに子うさぎたちをウサギ穴へつれこんだことについては、ぴょんぴょんじいさんももう言いわけができません。
その代わり、フロプシーが問いつめようととがめようと、いっさい耳をかさないのです。
気まずい時間だけがすぎていきます。
すっかりすねたぴょんぴょんじいさんは、イスをたてにしてすみっこでちぢこまっていました。
パイプを取り上げてたばこを隠してしまうフロプシー。
少しでも気をちらそうと、ずっと整理整頓の大そうじをつづけていたのです。
それがちょうど終わったので、ぴょんぴょんじいさんはつぎは何を言われるのかと、出方をうかがっていました。

きつねめさんの台所にもどると、めちゃくちゃになったなかを、ばにばにベンジャミンは何とかかきわけ、気をもみながらちりほこりにまみれつつもオーヴンにたどりつきます。
オーヴンのとびらを開けると中を手さぐりし、あたたかいものがじたばたしているのがわかりました。
そろうろっとかかえあげて、あなうさピーターのところにもどります。
「間に合った! 逃げられるか? もう隠れようぜ、なあピーター!」
耳をぴんと立てるピーター。
遠くの森で争う物音が、えんえんとこだましています。
それから5分もすると、ふたりしていきをきらしながらもおうし土手をかけおりるウサギたち。ふくろをなかば引きずるようにかかえていて、時には草にどしんどしんと当たることもありました。
ともあれぶじにおうちにたどりついて、ウサギ穴にとびこみます。
たいそうほっとするぴょんぴょんじいさんに、たいそうよろこぶフロプシー。そこにピーターとベンジャミンが「やったぞ!」と子どもたちをつれて帰ってきました。
ちょっとくらっとしつつもはらぺこな子ウサギたちは、ごはんをもらってベッドに入れられます。
するとたちまちもとどおり。
そして新品の長パイプと、つみたてのウサギたばこの葉っぱがぴょんぴょんじいさんに贈られます。
いったんは遠慮されましたが、しっかりと受け取られました。
ぴょんぴょんじいさんもおとがめなしということで、みんなで楽しくお食事です。
そのときにピーターとベンジャミンがこれまでのいきさつを語るのですが――あなぐまトミーときつねめさんの戦いのゆくすえは、あわてて帰ってきたのでわからないままでした。

(おしまい)2014(平成26)年1月24日翻訳
※この翻訳は「クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス」(http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/)によって公開されています。
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