初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第9話

アリスはふしぎの国で

青虫はしばらくのあいだ、もの言わずぷかぷかと水ギセルをやっていましたが、やがて腕をほどいて、ふたたび口から水ギセルを外して言いました。
「自分が変わったと申すのじゃな?」
「あいにくね」とアリス。「前できていたことが思い出せないし――それに、身体も10分と同じ大きさを保っていられないんですもの!」
「思い出せぬとは、何をじゃ?」と青虫。
「その、『がんばるぞミツバチ』を歌ってみたのに、ぜんぜん歌詞がちがっていて!」とアリスはとってもがっかりした声でお返事しました。
「ならばどうだ、『ウィリアムじいさん』は」と青虫。
アリスは手を組んで、歌い出しました――

「もう年なんだ ウィリアムじいさん
頭は白髪だし
なのにいつでも 逆立ちばかりで――
わきまえろ」

むすこに向かい じいさん言う
「若さはおそれさ
自分がバカだとわかれば
あとはやるだけさ」

「もう年なんだ わかってくれ
それに太りすぎだ
なのに戸口で バク宙なんてさ――
かんがえろ」

白髪ふりわけ じいさん言う
「ひと箱1シル
薬のおかげでしなやか――
どうじゃふた箱?」

「もう年なんだ はぐきも弱い
あぶらみでやっとだ
なのにガチョウほねごと平らげ――
なんなんだ」

「わかいころは へりくつばっか
夫婦ゲンカさ
おかげでアゴもじょうぶよ
こりゃ一生ものさ」

「もう年なんだ ふつうだったら
目もしょぼしょぼのはず
なのに鼻にウナギを立てて――
器用かよ!」

「3べん言えば わかるじゃろ!
いい気になるなよ
もうたくさんじゃわい いなねば
上からけおとす!」

「正しくないのう」と青虫。
「わりとね、あいにく」とアリスはおずおずと言いました。「ところどころちがってはいてよ」
「初めから終わりまでまちがっておる」と青虫はばっさり言い捨て、そのあと少しの間、静まり返りました。
先に口を開いたのは青虫でした。
「どれくらいの背たけになりたい?」とたずねてきたのです。
「べつに、背たけにこだわりなんかなくって、」とあわててお返事するアリス、「ただ、ころころ変わるのはいただけなくてよ、やっぱり」
「さっぱり」と青虫。
アリスは何にも言えませんでした。生まれてこのかた、こんなにきっぱりと冷たくあしらわれたのは初めてで、自分でもだんだん腹が立ってきました。
「今は足りておるのか?」と青虫。
「う~ん、もうちょっとばかり大きいほうがいただけそう、といったところね」とアリス。「7センチの背たけって、なってみるとみじめなものよ」
「こりゃほどよい背たけなんじゃぞ!」と怒った青虫が、しゃべるままに背すじをすっくと伸ばしました(ちょうど7センチのたけにね)。
「でも、こんなのしっくりこなくてよ!」と、弱ったアリスはみじめらしく食い下がりました。
そうして、こう思うのです。「ここの生き物、こらえ性ってものがないのかしら!」
「そのうちしっくりこようて」と青虫は口に水ギセルをくわえて、またふかし始めました。
今度もアリスは、相手がまた話す気になるまでぐっと我慢しました。
ものの数分すると青虫は口から水ギセルを外して、数度あくびもして身をゆすぶりました。
それからキノコから下りて、草むらへとくねくねと入っていき、去り際にこう捨て台詞を吐きました。
「こっちがわで身体がのびる、そっちがわで身体がちぢむ」
「こっちって何の? そっちって何の?」とひとり思うアリス。
「キノコのじゃ」と青虫。口に出ていない言葉に返事したと思いきや、まばたきするともう目の前から消えていました。
アリスは少しのあいだキノコに疑わしい目を向けて、そのどっちがどっちか見定めようとしましたが、キノコはまったくの円形だったので、これはたいへんな難問だと気づきました。
とはいえ、とうとう両腕をとどくかぎりめいっぱいぐるりと回して、両手それぞれで端っこをちょびっともぎ取りました。
「それで今のはどっちがどっち?」とひとりごとを言いながら、試しに何が起きるかなと右手のかけらをちょびっとかじってみると、またたくまもなく、いきなりアゴの下へごちんと何かがぶつかりました。
なんと、自分の足とごっつんこしたのです!
このいきなりの変わりようにたいへん恐れをなしたものの、激しく縮んでいくのでぐずぐずしてはいられないと思い、とっさにもうひとつのかけらを食べにかかりました。
アゴが足にぐっとくっついているから口を開けるのも無理に近いのに、なんとかやりとげて、ついに左手のかけらをちょっぴり飲みこみました。「やった! ようやく頭がすっきりしたわ!」とアリスが喜んだのもつかのま、すぐに不安になってしまいました。自分の肩がどこにも見当たらないのです。
のぞきこんでみると、そこにはどこまでも伸びた首があって、ずっと下に広がっている緑の葉っぱの海から、一本の茎みたいに突き出していました。
「あの緑色のものは一体なんなのかしら?」とアリスはつぶやきました。「それにわたしの肩はどこへ行っちゃったの? ああ、もう、なんてこと。わたしの手ったら、どうやったらこんなに迷子になれるのかしら!」そう言いながら手を動かしてみたのですが、遠くの緑の葉っぱがゆらゆらと揺れるだけでした。
頭まで手を上げるのは無理そうだったので、今度は頭を手のほうまで下げてみようとしました。すると幸運なことに、首はヘビのようにどんな方向へも自由自在に曲げることができたのです。
そこで首をうねうねと見事に曲げて、葉っぱの中へ突っ込んでみて初めて、自分がさっきまで下でうろついていた木々のてっぺんにいることに気づきました。でも、その瞬間、「シャーッ!」という威嚇する声に驚いて、あわてて首を引っ込めました。
顔のすぐそばに大きなハトが飛びかかってきて、激しく羽でバシバシと叩いてきたのです。
「ヘビめ!」とハトが叫びました。
「わたしはヘビじゃありません!」とアリスも怒って言い返しました。
「あっちへ行って!」
「やっぱりヘビじゃないか!」とハトは繰り返しましたが、さっきより少し勢いは弱まっていました。そして、しくしくと泣きながらこう続けました。「どこへ行ったって、もうどうしようもないわ!」
「言っていることが、ちっともピンとこないわ」とアリス。
「木の根元へ行ってみたし、土手にも行ったわ。生け垣だって探したのに」とハトはアリスのことなどおかまいなしに続けます。「あいつらヘビときたら、いつだって食い足りないんだから!」
ますますわけがわからなくなったアリスでしたが、口を出しても仕方がないので、ハトが話し終わるまで黙っていることにしました。
「タマゴをかえすのが、そんなに楽な仕事だと思ってるのかい?」とハトは続けます。
「そのうえ、昼も夜もヘビに目を光らせていなくちゃならないんだよ! ああ、この三週間というもの、一度だってゆっくり眠れていないんだから!」
「お悩み、お察しいたします」とアリスは言いました。ようやくハトが怒っている理由がわかってきたのです。
「だから森で一番高い木に登って、やっと逃げられたと思ったのに、空からうねうねと執拗に追いかけてくるんだよ! うげっ! ヘビ!」
「だから、わたしはヘビじゃないって言ってるでしょう!」とアリス。

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