初級翻訳・アリスはふしぎの国で 第8話

アリスはふしぎの国で

でもその悩みもすぐに晴れました。とたんに小石がたくさんパラパラと窓から投げ込まれ、いくつかアリスの顔に当たりました。
「せき止めてやるんだから、」と独り言を言ったあと、アリスは大声で叫びました。「またやったら承知しないわよ!」そうするとまた、シーンと静まり返りました。
アリスはハッとして驚きました。なんと、その小石が床に落ちると、みんな小ぶりのケーキに変わっていたのです。そこでピーンとひらめきました。

「このケーキをひとつ食べたら、」とアリスは考えます。「きっとあたくしの体の大きさも何かしら変わるはず。まあ、たぶん大きくはならないから、小さくなるっていう段取りかしらね。」
そこでケーキをひとつ丸飲みすると、気づけば嬉しいことに、体がいきなり縮んでいくではありませんか。ドアを通り抜けられるくらいに小さくなると、とたんにそのお家から駆け出しました。すると外には、立ち尽くしている小動物や小鳥たちの群れがいます。かわいそうなトカゲのビルくんは真ん中にいて、二匹のモルモットに抱えられ、瓶から何かを飲ませてもらっていました。

みんなして、アリスが出てきたのを見るなり襲いかかってきましたが、アリスも必死で走って逃げました。たちまち気づくと、無事に深い森の中へたどり着いていました。
「第1にやるべきことは、」とアリスは森をうろうろしながら独り言を言いました。「また元の背丈になること。それから第2は、あの素敵な庭へ出る道を見つけること。どうもそうしてみるのが一番よさそう。」

確かに、試してみるにはうってつけで、すっきり分かりやすい思いつきに聞こえます。だけど、ただひとつ困ったことに、何から始めたらいいのかさっぱり分かりません。そうしてあたりの木々の間をそわそわとのぞき込んでいると、ワンと吠える声が頭の上からして、アリスはもうビクッとして顔を起こしました。一匹の図体の大きなワンコが、くりくりした大きな目で見下ろしていて、プルプルと前足を伸ばして触ろうとしてきたのです。「よしよし!」とアリスはあやすように声をかけましたが、ふと「もしこのワンコがお腹を空かせていたらどうしよう」と気づいたとたん、ぶるぶると震えが止まらなくなってしまいました。そうなると、いくらなだめても結局はパクりと食べられてしまうに決まっているからです。
アリスは思わずとっさに木切れを拾い上げて、ワンコにつきだしてみました。
するとワンコはたちまち飛び上がって、きゃんきゃんとはしゃぎながらその木切れに飛びかかりました。どうやら遊びたいようです。そこでアリスは、踏みつぶされないように大きなアザミの影へひらりと飛びのきました。反対側から顔を出すと、すぐさまワンコがまた木切れめがけて突っ込んできます。でも、捕まえようとあせるあまり、すってんころりん。考えてみれば、まるで馬車馬とふざけ合っているようなものです。アリスも足で踏みつけられそうになるたびに、はっとして駆け足でアザミの周りをぐるりと回りこみます。ワンコもだんだん小刻みに木切れへ飛びかかるようになり、じわじわ前へ詰めてきたかと思えば大きく後ろへ下がったりして、始終ぐるるると吠えっぱなしでした。最後にはとうとう離れたところでへたりこみ、はあはあと口から舌を出して、大きなお目々も半開きになりました。
これを見て、アリスは「逃げるのは今しかない!」と決心し、すぐさま動き出して駆け出しました。そのうちアリスもへとへとで息切れし、やがてワンコの吠える声も遠くかすかになっていきました。
「まあでも、あんなワンコ、かわいらしいものね!」とアリスはひと息つこうとキンポウゲにもたれかかり、その葉っぱであおぎながら考えました。「芸をしこんでみるのもけっこう面白そう。もっとも、元の背丈になったらの話だけど! んもう! もう少しで元通りになるのを忘れるところだったわ。うーん……どうやればうまくいくのかしら。たぶん何かしら食べるか飲むかすればいいんだろうけど、いったいぜんたい、何を?」
その通り、いったいぜんたい、何を? アリスがあたりを眺め回しても、草花はあれど、都合よく飲み食いできそうなものは何も見当たりません。
ところがそばにひょっこり大きなキノコが生えていて、ちょうどアリスの背丈と同じくらいありました。
見上げたり、両脇や後ろに回ってみたりするうちに、ふと思いついたのです。
「かさの上に何があるのか、目を向けてたしかめてみようかな」
つま先立ちで背伸びをして、キノコの縁(ふち)からのぞき込むと、目に飛び込んできたのは、こちらを向いた大きな青虫でした。てっぺんに座り込んで腕を組み、ひそやかに水ギセルをふかしていて、こちらには何にも気にとめる素振りがちっともありません。

第5章 青虫の教え

青虫とアリスはしばらく黙ったまま目を合わせていましたが、とうとう青虫が口から水ギセルを外して、うつらうつらとけだるそうに声をかけてきました。
「だれじゃ、おぬし」と青虫。
こんなきっかけでは話も始めづらいものです。
アリスもどこかもじもじしながら答えました。「あたくし……よくわかりませんの、今のところ。少なくとも今朝起きたときには誰だったか分かってたのに、それからあたくし、どうも何度か変わってしまったみたいで」
「どういうことかの?」と青虫はぴしゃりと言いました。「はっきりしてくれ!」
「だからはっきりしませんの、あいにく!」とアリスは言いました。「あたくしがあたくしじゃないの、わかって?」
「わからん」と青虫。
「あいにく、これ以上何とも言えませんの」とアリスは丁寧に受け答えします。「だって自分でもよく存じませんし、そもそも、一日でこんなにいろいろな背丈になれば、頭もこんがらがってよ」
「そうでもない」と青虫。
「ふん、きっとあなたはまだあんまりお分かりでないのね」とアリスは言いました。「でもあなただって、いずれさなぎになって……いつの日かほら、そのあと蝶々に変わったりしたら、そういうのやっぱりあなたもちょっとけったいに思えるものでしてよ、そうでしょう?」
「いささかも」と青虫。
「まあ、あなたのお気持ちはちがうかもしれませんけど」とアリスは言いました。「少なくとも、あたくしにはとてもけったいに思えるってこと」
「おぬしとな!」と青虫は鼻で笑いながら言いました。「そのおぬしは誰なのじゃ」
というわけで、また話は振り出しに戻りました。
アリスは、青虫のそっけなすぎるしゃべり方にちょっとイライラして、胸を張って強気に言いました。「まずはご自分から名乗るのが筋と存じますけど?」
「なぜかね?」と青虫。
これはまた難問で、何の言い訳も思いつかないアリス。青虫もひどく嫌な気分になっているみたいなので、アリスは回れ右をしました。
「そこへ戻れ!」と青虫が後ろから声をかけてきました。「大事なことを教えてやる!」
確かに悪くない話に思えたので、アリスはくるっと引き返しました。
「そう怒るな」と青虫。「それだけ?」とアリスは、なるべくイライラを飲みこんでたずねました。
「いや」と青虫。
ほかにすることもありませんので、とりあえず待つことにすれば、そのうちきっと向こうも耳をかせるだけのことを話してくれるだろう、とアリスは考えました。

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