初級翻訳・オシャベリ姫 第8話

かぐつち みどり

お月様が東の山から昇ると間もなく、この塔の上から見下ろすと、向こうの崖の途中に蔦葛(つたかずら)につかまって、一人のお嬢さんが降りてくるのが見えました」
「まあ……じゃあ、あの時私を助けてくださったのは、あなただったのですか」
「いいえ、私ではありません。ただ、なんて危ないことをするのだろうとハラハラしておりました。
ちょうどその時、私は食事をもらいに降りていく時間でしたから、塔の入り口へ向かい、食事を運んできた兵隊に母様を呼んでくれるよう頼んだのです。
そうして母様にこっそりと、あなたを助けてあげてほしいとお願いしたのですよ。
それからあなたがこの城へ到着なさると間もなく、あんな恐ろしい目に遭い、この塔の入り口まで逃げてこられたので……」
「まあ……それじゃあ、私があの蜘蛛に食べられないようにしてくださったのも、あなたなのですね」
「ええ。
あの蜘蛛は頭が悪いものですから、あなたを糸でぐるぐる巻きにして塔の中へ隠したのです。
それを私がここまで運び込んで、糸を解いてあげたのですよ……さあ、これで私のお話はおしまいです。今度はあなたが話す番ですよ」
「えっ……私がお話をする番ですって……?」
「そうです。
一体あなたはどうしてこの国へいらしたのですか? あなたはどこの国のお方なのですか?」
姫はそう尋ねられて、急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にしましたが、自分の命を救ってくれた相手に隠し事をしてはいけないと思い、最初から何もかもをすっかり打ち明けました。
……自分がオシャベリ姫と呼ばれたわけ……
……短刀と蜘蛛の夢を見たこと……
……それを二人の侍女に話したら「それは近いうちに良いことがある前触れだ」と言われたこと……
……それを父である王様とお母様のお妃様に伝えたけれど、二人の侍女が後になって「そんな話は聞いていない」と嘘をついたこと……
……そのせいで父王が激怒し、姫は石の牢屋に入れられてしまったこと……
……それから猫の案内で雲雀(ひばり)の国から蛙の国を巡り、どこへ行ってもおしゃべりなせいでひどい目に遭い、ようやくこの国まで逃げてきたこと……
……そして王様とお妃様に会い、ご馳走を食べている最中におしゃべりをして殺されそうになったこと……それから逃げ回ってこの鉄の塔のところまで来たこと……

と、次から次へとすべてを話して聞かせました。
聞いていた王子はびっくりしたり、感心したり、笑ったりして、夢中になって聞き入っていました。
そうしておしまいに、
「ああ……なんて面白いお話でしょう。
私は生まれて初めて、本当に面白いお話を聞きました。
それに、生まれて初めて、こんなに思う存分人間同士として声を出しておしゃべりをしました。
ですが、あなたのお話の中にたった一つだけ分からないことがあります」
「まあ、それは何ですか?」
「それは、その二人の侍女のことです。
あなたの国の人々は、おしゃべりはするでしょうけれど、嘘はつかないはずですよね」
「ええ、嘘をつく人間なんて一人もおりませんわ」
「それなのに、どうしてあなたのお付の侍女は嘘をついたのでしょう。
あなたから短刀と蜘蛛のお話を聞いていたはずなのに、なぜそれを聞いていないなどと言って、あなたのお父様を怒らせ、あなたを石の牢屋へ入れさせたのでしょう」
「そうですわねえ。
私も今でもそれを不思議に思っているのです。
私の二人の侍女は、今までそれはそれは忠実でいい侍女で、そんな意地の悪いことをしたことなど一度もなかったのに……」
「不思議ですね」
「どうしたのでしょうね」
と二人は顔を見合わせました。
その時、はるか下の方でバタンバタンという音に続いて、
「ウーン、ウーン」
という苦しそうな声が聞こえてきました。
二人はびっくりして、すぐに上り口から下の方を覗き込みました。すると、長い長い梯子段の下で、例の大きな蜘蛛と、白い服を着た女の人が一生懸命に戦っているのが見えました。しかし、その女の人は見る見るうちに蜘蛛から糸でぐるぐる巻きにされていく様子が、窓から差し込んだ月の光でよく見えました。「おっ。あれは私の母である妃様だ。おのれ、あの蜘蛛め!」

そう叫ぶやいなや、王子は矢のような速さで階段を駆け下りていきました。オシャベリ姫が一体どうなることかと見守っていると、階段を降りた王子は懐から短刀を抜き放ち、一突きで蜘蛛の目と目の間に突き立てて倒してしまいました。続いて、そのまま短刀で妃様に巻き付いていた糸をズタズタに切り裂き、妃様を救い出したのです。

オシャベリ姫はほっと胸をなでおろし、なおも様子を見ていました。妃様は嬉しさのあまり王子をぎゅっと抱きしめましたが、やがてその手を離すと、手振り身振りで「どこかへ逃げなさい」と王子に伝えているようでした。王子は地面に両手をついて、妃様にお礼を述べました。やがて妃様は涙を流しながら王子と別れ、お城の方へと去っていきました。

それを見ていたオシャベリ姫は、急いで階段を降りて王子のそばへ行こうとしました。しかしその時、お城の中が急に騒がしくなったようで、風の音の合間合間に大勢の足音が聞こえてきます。姫が外を覗いて見ると、大変なことが起きていました。大勢の兵隊たちが短刀を手に持ち、この塔の方へ押し寄せてくるのです。これを見た姫は、思わず上から叫びました。

「王子様、大変です! 大勢の兵隊が攻めてきますよ!」

王子はそれを聞くと、すぐに表を確認しに走りましたが、すぐに塔の中へ駆け戻ってきました。そして、曲がりくねった階段を一つ登っては引き剥がして投げ落とし、二つ登っては突き落とし……と繰り返しながら、塔の上まで戻るまでの間に、階段をすべて下の方へ落としてしまいました。

そこへ大勢の兵隊が攻め寄せましたが、階段がないので登ることができません。仕方なく兵隊たちは八方から鉄の塔を取り囲み、ヒューヒューと矢を射かけましたが、塔が高すぎるため、矢はみな途中で落ちてしまいました。

王子はそれを見ながら、あまりの恐ろしさにわなわなと震えている姫にこう言いました。

「この兵隊たちはみんな、この国の風下の町から来た者たちです。さっきから私たちが話していた声が風下の町や村まで丸聞こえだったそうで、『塔の上に魔物がいる』と父である王に報告し、退治するように訴えてきたのです。父王も母妃も、その声を上げていたのが私とあなたであり、魔物などではないことはよく知っています。しかし、昔からこの国ではお喋りをした者は殺すという決まりがある以上、見逃すわけにはいかないのです。すぐにお城から兵隊を出すよう命令が出たため、母妃は心配して、早く逃げるように知らせに来てくれたのです。ですが、悲しいことに母妃は言葉を話すことができません。そのため、直接中へ入ろうとして蜘蛛の巣に引っかかり、あんな目に遭ってしまったのですよ」

「まあ……なんてご親切なお母様なのでしょう」

オシャベリ姫は涙を流しました。

「ですが、もう手遅れです。この塔はすでに四方八方から兵隊に取り囲まれていて、逃げ道はありません。ただ一つだけ、逃げる道が残っているとすれば……」

「えっ、まだ逃げる道があるのですか?」

「ありますとも。

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