初級翻訳・オシャベリ姫 第1話

かぐつち みどり

ある国に、王様とお妃様がいました。二人の間には、たった一人のかわいいお姫様がいました。このお姫様は、名前を「オシャベリ姫」といいます。

お姫様はとっても美しい顔立ちをしていましたが、生まれつきおしゃべりが大好きでした。朝から晩まで、何かしらおしゃべりをしていないと気持ちが落ち着きません。それだけじゃなく、自分の話を聞いてくれる人がいないと、すぐに機嫌が悪くなってしまうのです。

ある朝のことです。オシャベリ姫は目を覚まして顔を洗うと、すぐに王様とお妃様の部屋へ飛んでいって、さっそくおしゃべりを始めました。

「お父様、お母様! 昨日の夜は大変だったんですよ」
「まあ、どうしたの?」
王様とお妃様はびっくりして、姫に尋ねました。

「ゆうべ私が一人で寝ていたら、どこから入ってきたのか、一人の黒ん坊が寝床にやってきてね。私の胸に短刀をつきつけて、『宝物のある場所を教えろ』って、怖い顔で言うんですもの」
「まあ! それからどうしたの?」

「それがね……しかたがないから宝物庫へ連れていってあげたら、その黒ん坊は黒い腕で錠前を壊して、中の宝物を全部運び出しちゃったの。お城の外まで持ち出しちゃったんですよ」
「なんてことだ! なぜその時に大声で助けを呼ばなかったんだ!」
「だって、宝物を私に持たせて運ばせながら、黒ん坊は短刀を突きつけてそばに付いているんですもの」

「ふーむ、それは大変だ。すぐに兵隊を追わせなければ。……で、お前はそのあとどうしたんだ?」
「やっとそれが終わったと思ったら、黒ん坊はまた私の胸に短刀を突きつけて、『俺のお嫁になれ』って言うんです」
「ええっ! それで、お前はどうしたんだ!」
「どうしようかな、と考えていたら……目が覚めちゃったの」

「なんだ……どうしたんだって?」
「だから、全部夢だったのですよ」
「なんだと! このおバカ姫め! 夢なら夢だと、どうして早く言わないんだ!」
王様はすっかり腹を立ててしまいました。

「まあ、でも夢でよかったわ。私、どんなに心配したことか」
お妃様もほっとため息をつきました。

「オホホホホ! まあ、聞いてくださいよ。それからね、私が目を覚まして見てみると、まだ夜が明けていなくて真っ暗でしょう? 私、本当に黒ん坊が来そうで怖くなっちゃって。そっと起き上がって、隣の部屋で寝ている女中たちのところへ行ってみたら、二人の女中がどちらもいないんです」

「けしからんやつらだ。姫の番をするのが役目なのに、どこへ行っていたのだ。ひどい目にあわせてやらねば」
王様はまたしてもカンカンに怒りました。

「お父様、叱っちゃダメですよ。私もどこへ行ったのかと思って探してみたら、二人とも機織り部屋(はたおりべや)に行って、糸を紡いでいたんです」
「なんだと、糸を?」
お妃様が言いました。「感心ねえ。夜も寝ないで糸を紡いでいるなんて」
「いえ、感心するのはまだ早いんですよ……」

オシャベリ姫は、さらに話を続けました。

「二人の女中が、こんな夜中にどうして機織り部屋で糸を紡いでいるんだろうと思って、鍵穴から中の様子をのぞいてみたら、本当にびっくりしちゃったんです。だって、東側の壁と西側の壁に、何百、何千という数の蜘蛛(くも)がズラリと並んでいるんですもの!」
「なんだと、蜘蛛だって! おお、気味が悪い」
王様とお妃様は声を揃えて言いました。

「ところが、ちっとも気味悪くないんです。東の壁の蜘蛛はみんな黄金色で、西の壁のは真っ白な銀色なんです。ピカピカ光っていて、とっても美しいの。黄金色の蜘蛛のお尻からは黄金色の糸が、銀色の蜘蛛のお尻からは銀色の糸が出ていて、二人の女中がそれを一人ずつ糸車にかけて、ブーンブーンと撚(よ)って糸を作っているんです。その様子が、面白くてきれいだったことといったら……」
「ふーむ、それは不思議なことだな」

「まだ不思議なことがあるんです。糸を巻きつけた糸巻きがだんだん大きくなると、その糸の光で部屋中が真昼みたいに明るくなるんです。私はあまりの不思議さにびっくりして、つい外から『その糸、どうするの?』って聞いちゃったんです」
「それで、何て返事をしたの?」
お妃様が尋ねました。

「それが……返事をしないの」
「どうして?」
「二人の女中はびっくりして私の方を見ました。その拍子に、今までブンブン回っていた糸巻きが急に逆回転を始めて……大変なことになっちゃったの。金の糸と銀の糸がスルスルとほどけてきて、二人の女中の首に巻き付いたんです!」

「おやまあ! それからどうしたんだ?」
「二人の女中は驚いて立ち上がって、巻き付いた糸を取ろうと暴れ始めたんだけれど、もがけばもがくほど糸がほどけてきて、手や足までも絡みついてしまったんです」そうして女中は、まるで気が狂ったように床の上を転げ回りました。しまいには、金と銀の糸がすっかり二人の体に巻き付いて、まるで人間が糸巻きになったみたいに、ただ「うーん、うーん」とうなりながら床を転がり回るばかりでした。

「お前、それをずっと見ていたのかい?」
「ええ。あたし、悪いことをしちゃったな、って思ったの。だって、あんなことを言わなければ、二人の女中はびっくりしなかったでしょう? びっくりしなければ、糸車をあべこべに回すこともなかったはずよ。糸車を逆回しにしなかったら、金銀の糸が首に巻き付くこともなかったんだもの」
「そうだな、その通りだ」
「本当にねえ」
「あたし、そう思ってできるだけ早く助けてあげようとしたんだけど、部屋の扉に鍵がかかっていて、どうすることもできなかったのよ」
「それは困ったな。それで、どうなったんだ?」
「そのうちに糸巻きの糸はすっかり二人の女中に巻き付いてしまった上に、壁にいた蜘蛛までも糸にくっついて女中の体に引っ張られてしまったの。でも、女中が転げ回るものだから、蜘蛛も苦し紛れにすごく怒っちゃって、女中の体に巻き付いている糸をすっかり噛み切ってしまったんです」
「まあ、それはよかったじゃないか」
「いいえ……。そこからが怖いのよ。糸を噛み切った蜘蛛は、みんなで寄ってたかって、女中たちを食べてしまったんです」
「やあ! それは大変だ!」
「なんてかわいそうなことでしょう!」

王様とお妃様はそう言って立ち上がり、急いで機織り部屋へ行こうとなさいました。すると、オシャベリ姫は慌てて二人を押しとどめて言いました。
「まあ、お父様もお母様も、お聞きなさい……それも、やっぱり夢だったのですよ……」

「なんだ、それも夢なのか!」
「まあ、お前という子は、なんておしゃべりなんだろう」
王様とお妃様は、ため息をついてまた椅子にお座りになりました。そうして王様は真っ赤になって怒り、オシャベリ姫をにらみつけました。

「このおバカ姫め! お前みたいに余計なことばかりおしゃべりする奴はいない。これ以上そんなことをしゃべるなら、石の牢屋に入れてしまうぞ!」
王様は大きな声で叱りつけました。
「これからは本当の話をしなさい。ね、いい子だから」
とお妃様がなだめてくださいました。

けれども、オシャベリ姫は平気な顔でこう言いました。
「いいえ。これからが本当のことなの。

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