あなたはさっき崖から飛び降りる時に持っていた落下傘(パラシュート)をお持ちでしょう?」
「あっ、持っています! 持っていますわ!」
「それを持って飛ぶのです」
王子はそう言うと、鉄の塔の頂上の窓からお城の方を向いて、こう叫びました。
「お父様、お母様、私が悪うございました。余計なことをお喋りして、多大なるご心配をおかけしました。私はこれから姫と共に、よその国へ向かいます。ですが、これからは決して無駄なお喋りはいたしません。たとえ見たり聞いたりしたことでも、余計なことは口にしないと誓います。どうかご安心ください。さようなら、ごきげんよう!」
そう言い終えると、王子は塔の床に手をつき、涙を流しながら別れの挨拶をしました。オシャベリ姫も黙って涙をこぼしながら、同じように手をついて別れを告げました。
そして二人は落下傘の紐をしっかりと掴み、塔の上から下界を目がけて飛び降りました。二人の体は落下傘のおかげで、ふんわりと空中に浮かび上がりました。それと同時に激しい風にさらわれ、大空高く、高く、高く舞い上がりましたが、その中で雨がバラバラと降り出しました。
すると、また大変なことが起きました。落下傘は紙で作られていたようで、見る見るうちにバラバラと破れてしまったのです。二人は抱き合ったまま、流星のように速いスピードで下界へと落ちていきました。
「ああっ、助けて!」
姫は思わず大きな声で叫びましたが、その自分の声に驚いて目を覚ますと、どうでしょう。
今までのはすべて夢で、姫はやはり自分のお城の石の牢屋の中に寝ていたのでした。姫は、どちらが本当の出来事だったのか分からなくなってしまいました。あまりの不思議さに、姫は立ち上がって石の牢屋の壁をあちこち撫でてみましたが、四方は冷たい石に囲まれていて、穴ひとつ開いてはいません。
上の方へ手を伸ばしてみると、天井もすぐ手の届くところにありましたが、そこにも外へ出られるような隙間は一つもありませんでした。
あまりの奇妙な出来事に、姫はぼんやりとしたまま、冷たい石の床の上に座り込んでしまいました。
するとまもなく、向こう側から明かりが差し込み、お父様の王様と二人の兵隊が現れて、牢屋の入り口を外から開けました。
お父様は思いがけずニコニコしながら、こう言いました。
「おい、オシャベリ姫。
お前の夢は本当になったぞ。
今までお前があんまりおしゃべりなものだから、誰も婿に来る者がいなかったのに、今日突然、隣の国の第三番目の『ムクチ王子』様が、お前の婿になりたいとやって来られたのだ。
今から引き合わせるから、早く出てきなさい」
そう言いながら、姫を牢屋から引っ張り出すと、お城へ帰るやいなや、二人の侍女に姫を立派にお化粧させるよう命じました。
二人の侍女は、姫が無事な姿で戻ったのを見て嬉し涙を流しながら、お化粧のお手伝いをしました。
そうして両側から姫の手を引き、両親である王様とお妃様の前に連れて行きました。
姫はまるで狐に化かされたような気持ちで連れて来られましたが、父王と母妃のそばにいるムクチ王子の姿を見た瞬間、思わず叫んでしまいました。
「あらっ。
あなたは、あの王子様!」
ムクチ王子の姿は、さっきまで夢の中で見ていた、あのクチナシ国の王子と少しも違わなかったのです。
ムクチ王子も姫を見ると、ニッコリと笑いました。
そして、こう言いました。
「びっくりされたでしょう。
私も本当は不思議に思っているのです。
私は昨夜、不思議な夢を見ました。
その夢の中で私はクチナシ国の国王の一人息子として生まれましたが、生まれた時から口があるために両親をいろいろと心配させ、あげくの果てに、オシャベリ姫と一緒に鉄の塔から逃げ出しました。
その時に姫から聞いた話によれば、姫は『蜘蛛と短刀の夢を見た』とお父様やお母様に話したのに、お付きの女中が『そんなの嘘よ』と言ったために、石の牢屋に入れられてしまったのだということでした。
それから目が覚めて考えてみると、オシャベリ姫という名前はあなた以外にいないので心配になり、すぐに馬に乗ってこのお城へ駆けつけてみると、私の夢は本当で、あなたが石の牢屋に入れられていることをご両親から聞きました。
それで、あなたの夢が嘘ではないことを伝えて、お許しを願ったのです」
この話を聞いていた姫は、夢が現実なのか、現実が夢なのか、分からなくなってしまいました。
その時、お父様の王様がこう言いました。
「姫よ。
お前があんまりおしゃべりをするから、本当の話でも嘘だと思われてしまうのだ。
これからは『オトナシ姫』と名を改めなさい。
そして、決していらぬことを喋ってはならない」
そう言われると、姫は真っ赤になって恥ずかしがりながら、「私が悪うございました。これからは決しておしゃべりいたしません」とお詫びをしました。
王はそれから、二人の侍女にこう尋ねました。
「お前たちは、姫から短刀と蜘蛛の話を聞いたのだろう」
二人の侍女は顔を見合わせて真っ赤になりましたが、やがてこう答えました。
「はい。確かにそのお話を聞きました」
「それなのに、どうして聞いていないなどと嘘をついたのだ」
そう問い詰められると、二人の侍女はなおさら恥ずかしそうにしながら答えました。
「はい。蜘蛛と短刀の夢を見ると、きっと素晴らしいお婿様がいらっしゃる。けれどもそのことがお相手のお婿様の耳に入るとダメになってしまう、と昔から言い伝えられております。それで私共は、お姫様に良いお婿様が来てくださるようにと、わざと嘘だと申したのです」
王様もお妃様もムクチ王子も、そしてオシャベリ姫改めオトナシ姫も、二人の侍女の忠義心に深く感心しました。
ムクチ王子がオトナシ姫のお婿さんとなって盛大な結婚式が行われたのは、それから間もないことでした。
そのとき、二人の侍女は王様からたくさんのご褒美をいただきました。
そして死ぬまで変わらぬ忠義を尽くし、ムクチ王子とオトナシ姫にお仕えしたということです。
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