初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第6話

ニールスのふしぎな旅

「肥えたよい土地だ! 肥えたよい土地だ!」
ニールスはすぐ、まじめになりました。
そして、「こんな怖い目にあっているというのに、ぼく、吹き出したりして」と、思いました。
しばらくの間は、まじめくさっていましたが、ニールスはすぐまた笑い出してしまいました。
こうして、ガチョウの背中に乗っているのにも、速く飛ぶのにも慣れてくると、ニールスはしっかりしがみついているだけでなく、ようやくほかのことも考えることができるようになりました。
気がついてみると、たくさんの鳥の群れが空を飛んでいます。
みんな北を目指しています。
そして、たくさんの鳥の群れはお互いに叫び合い、話し合っています。
「おや、あんたがたは、今日来たんですな!」と、叫ぶものがいます。
すると、ガンたちは、「そうですよ。で、どうでしょう、春らしくなっていますかね?」と、聞きました。
「木にはまだ一枚も葉っぱはないし、湖の水も冷たいですよ!」という返事です。
ガンたちはニワトリが遊んでいるところへ来ると、大声で叫びました。
「ここはなんていうところだい? ここはなんていうところだい?」
すると、ニワトリが頭をぐっと上げて、答えました。
「ここは『小畑』っていうんだよ。今年も去年と同じだよ。今年も去年と同じだよ!」
この辺の家は、たいていその持ち主の名前で、ペール・マッソンの家だとか、ウーラ・ボッソンの家だとか呼ばれています。
それがスコーネ地方の習慣なのです。
けれどもニワトリたちは、そうは言わないで、ニワトリ流に一番ふさわしいと思われる名前をつけて呼んでいるのです。
そこで、ガンたちが呼びかけると、貧乏な百姓家に住んでいるニワトリたちは、「ここは『穀物なし』っていうんだ」と叫びますし、もっともっと貧乏な百姓家のニワトリは、「ここは『食物なし、食物なし』さ」とどなります。
大きなお金持ちの農家は、ニワトリたちからも『幸い畑』とか、『卵山』とか、『宝荘』といったように、素晴らしい名前をつけてもらっています。
ところで、貴族のお屋敷にいるニワトリともなれば、高慢ちきで、人からからかわれでもすると大変です。
そんなニワトリの一羽が、天まで届けとばかり、声を限りに叫びました。
「ここはデュベックさまのお屋敷だぞ! 今年も去年と同じだ。今年も去年と同じだ。」
もう少し先へ行くと、一羽のニワトリがもったいぶって呼ばわりました。
「ここぞスヴァーネホルム、その名も高きスヴァーネホルム!」
ニールスが気がついてみると、どうやらガンの群れは一直線に進んではいないのです。
みんなはスウェーデンの南部の地方をあちこちと飛び回っているのです。
まるで、このスコーネ地方にまた来ているのが嬉しくてたまらず、一つ一つの場所にいちいち挨拶していきたいとでも思っているようです。
そのうちに、高い煙突の立っている大きな広い建物がたくさんあって、そのまわりに小さい家がいくつも並んでいるところへ来ました。
「ここはヨルドベリヤの精糖工場! ここはヨルドベリヤの精糖工場!」と、そこのニワトリたちが大きな声で言いました。
ニールスは、ガチョウの背中で思わずはっとしました。
それなら、自分も知っているはずです。
ここはお父さんとお母さんの家からそんなに遠くはありません。
それに、去年ここでガチョウ番に雇われていたことがあるのです。
けれども、いま高い空から見下ろすと、なにもかもすっかり様子が違っています。
うん、そうだ! ガチョウ番の女の子のオーサと小さいマッツは、あのときぼくの仲間だったっけ。
あそこにまだいるだろうか。
ぼくがいま、ふたりの頭の上を飛んでいるのを知ったら、ふたりはなんて言うだろうなあ!
まもなく、ヨルドベリヤは見えなくなってしまいました。
今度はスヴェーダーラとスカーベル湖のほうへ飛んでいき、それからまたベリンゲクローステルとヘッケベリヤの上に舞い戻ってきました。
ニールスは、たった一日でも、いままでの長い年月の間に見たよりも、スコーネ地方のずっといろんなところを見ることができました。
ガンの群れが地上にガチョウたちを見つけたときは、本当に愉快です。
そんなときには、みんなはゆっくりと飛んで、地上に向かって叫ぶのでした。
「これから丘へ行くんだぜ! いっしょに来ないかい! いっしょに来ないかい!」
けれど、ガチョウたちは答えました。「まだこの国は冬なんですよ! 少し早すぎますね! まあ、お帰り、まあ、お帰り!」
 ガンたちは、もっとよく聞こえるようにグッと舞い降りて、大声で言い返しました。
「一緒に来ないか。
飛び方も泳ぎ方も教えてやるぜ!」
 そう言われると、ガチョウたちはプンプン腹を立てて、もう一言も返事をしませんでした。
ガンたちはいまにも地面に触れそうになるまで下へ下へと舞い降りて、次の瞬間、さもびっくりしたようにサッと舞い上がり、「オヤ、オヤ、オヤ!」と叫びました。
「なんだ、ガチョウじゃないや! 羊じゃないか! 羊じゃないか!」
 それを聞いた地上のガチョウたちは、カンカンに怒って怒鳴り立てました。
「お前たちなんか殺されちまえ! 一羽残らず、一羽残らず!」
 ニールスはこの口喧嘩を聞いているうちに、思わず笑い出してしまいました。
けれど、今の自分の身の不幸せを思い出すと、涙がこみ上げてきました。
でも、しばらく経つと、またもや笑い出してしまうのでした。
ニールスは普段から馬を乱暴に走らせるのが好きでした。
でも、これほど速く駆けさせたことはありませんでした。
そして、空の上はこんなにも気持ちよく、しかも下からは土や木の芽のヤニの匂いがこんなにも芳しく香ってこようなどとは、夢にも思ったことがありませんでした。
そしてまた、こんなにも空高く飛ぼうなどとは、思ってみたこともありませんでした。
こうしていると、まるで、ありとあらゆる苦しみや悲しみやわずらわしさを逃れて、飛んでいるような気がするのでした。

2 ケブネカイセのアッカ

夕方

 ガンの群れと一緒に飛んでいる大きなガチョウは、ガンの仲間に入ってスウェーデンの南の地方を飛び回り、地上の飼い鳥たちとふざけられるので、大得意になっていました。
でも、面白くはありましたが、お昼過ぎになるとだんだんくたびれてきました。
そこで深く息を吸って、もっと速く羽を動かそうとしてみるのですが、どうしてもみんなから遅れてしまいます。
ずっと後ろの方を飛んでいるガンたちは、ガチョウがもうこれ以上ついていけそうもないのを見て取ると、クサビ型の先頭になってみんなを導いているガンに向かって呼びかけました。
「ケブネカイセのアッカさん! ケブネカイセのアッカさん!」
「何の用だね?」と、ガンの隊長は尋ねました。
「白が遅れてます! 白が遅れてます!」
「教えてやりなさい、速く飛ぶほうが、ゆっくり飛ぶより楽だって!」と、隊長は叫び返して、前と同じようにグングン速く飛んでいきます。
ガチョウはその忠告通りに、速く飛ぼうと一生懸命やってみました。
でも、そのうちに疲れきって、とうとう畑と牧場を取り囲んでいる、枝を刈られたヤナギの木立の方へ降りていきました。

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