初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第15話

ニールスのふしぎな旅

そこからは、広い並木道が続いています。
並木道の向こうには、赤レンガの破風(はふ)と、キラキラ光る飾りがついた塔がそびえ立っていました。
それは、とても大きなお城でした。
ニールスは、これでガチョウがどうなったか、わかったような気がしました。
「きっと、子どもたちがあのお城に連れていって、売ってしまったんだ。もう殺されちゃったかな。」
ニールスは、そうつぶやきました。
でも、はっきり確かめないと、気がすみません。
もう一度勇気をふりしぼって、走り出しました。
幸い、並木道には誰にも会いませんでした。
こんな姿を見られたら大変だと、ニールスはドキドキしていたのです。
お城の近くまで行ってみると、それは古風で立派な建物でした。
建物の横には、さらに四つの大きな建物があり、中庭へと続く高いアーチがありました。
ここまでニールスは勢いよく走ってきましたが、思わず立ち止まってしまいました。
思い切って中へ入る勇気がなかったのです。
じっとその場に立ちつくして、どうしたものかと考えこみました。
そのとき、後ろから足音が聞こえてきました。
振り返ってみると、なんと、たくさんの人たちが並木道をこちらへやってくるではありませんか。
ニールスは、あわててアーチのそばにあった水桶(みずおけ)の後ろに隠れました。
そこへやってきたのは、二十人ほどの中学生たちでした。
みんな、先生に連れられて遠足に来ていたのです。
アーチのところまで来ると、先生はみんなに少し待っているように言っておき、自分だけ中へ入っていきました。
ヴィットシェーヴレのお城を見学させてもらえるか、聞きに行ったのです。
生徒たちは、長く歩いてきたので疲れていました。
一人の生徒は、ひどく喉が渇いていたので、水桶のところへ行って、身をかがめて飲もうとしました。
この生徒は、植物採集用のドウラン(肩掛けカバン)を肩にかけていましたが、邪魔になるので、地面に投げ出しました。
そのはずみで、ふたが開いてしまい、中に入っている春の花が見えました。
ドウランは、ニールスのすぐ前に落ちました。
「これだ!お城の中に入って、ガチョウがどうなったか確かめる絶好のチャンスだ!」
そう思ったニールスは、すぐにドウランの中に飛び込みました。
そして、アネモネやフキの下にそっと身を隠しました。
ニールスが隠れると同時に、生徒はドウランを拾い上げて肩にかけ、ふたをしてしまいました。
そこへ先生が戻ってきて、お城の見学が許可されたと言いました。
先生は生徒たちを、まず中庭へ連れていきました。
そこでみんなを止め、この古い建物についての話をはじめました。
先生は、この国に最初に住んでいた人々は、洞窟や岩穴に暮らしていたこと、そして、木の幹で小屋を作ることを覚えるまでには、長い長い時代が流れたこと、さらに、一部屋しかない丸太小屋から進歩して、ヴィットシェーヴレのような百部屋もあるお城を築くようになるまでには、長い間、ずいぶん苦労し、努力したことなどを話して聞かせました。
先生は、さらに細かく説明を続けました。
そのため、ドウランの中にいるニールスは、いらいらしてきました。
でも、もちろんじっとしていなければなりません。
でないと、ドウランの持ち主に気づかれてしまいます。
それから、やっと、みんなはお城の中に入りました。
しかし、ニールスが隙を見てドウランから這い出すなんてことは、とてもできそうもありません。
なにしろ、ドウランを背負っている生徒が、しょっちゅう持ち歩いているのですからね。
ですからニールスは、お城の中の部屋という部屋を、持ち主の生徒について回らなければなりませんでした。
なんとももどかしい旅です。
それに先生ときたら、ひっきりなしに立ち止まっては、説明するのです。
先生は、ちっとも急いでいませんでした。
小さな生き物が、かわいそうにドウランの中に隠れていて、自分の話が早く終わるようにと願っているなんて、夢にも知らないのです。
その間じゅう、ニールスはじっと我慢していました。これまではよくいたずらをしては、穀物倉の戸を閉め、中に入っているお父さんやお母さんを困らせたものですが、そんなとき、二人がどんな気持ちだったかが、今ようやく痛いほどよくわかりました。
そうでしょう、先生の話が終わるまでは、何時間も何時間もこの暗い箱の中でじっとしていなければならないのですからね。

ようやくのことで、先生はもう一度中庭に戻ってきました。そしてまたここで、人間が道具や武器や衣服、住まいや家具などを考え出し、作り上げるまでには、どれほど長い間たゆまず努力を重ねてきたかということを説明し始めました。
けれども、ニールスはその話を聞き逃してしまいました。というのも、ドウランを肩にかけている生徒がまた喉をかわかして、台所へ水を飲みに行ったからです。

「台所へ行けば、ガチョウがどうなったかわかるかもしれないぞ」
ニールスはそう思い、体を動かしてみると、偶然にもふたにガタンとぶつかってしまいました。その拍子に、ふたがパタンと開いたのです。
しかし、ドウランのふたが開くことなどよくあることなので、生徒は気にも留めずに、またふたを閉めてしまいました。すると、それを見ていた男が「おい、その中にはヘビでも入っているんじゃないのか?」と尋ねました。
「いいえ、植物が少し入っているだけですよ」と生徒は答えました。
けれども男は、「いや、たしかに今、中で何かが動いたよ」と言い張ります。
そこで生徒は、男の言ったことが間違いであると証明しようとして、ふたを開けて言いました。
「さあ、ご覧なさい――どうです――」
と、その言葉が終わらないうちに、もうここにはいられないと悟ったニールスは、ポンと床の上へ飛び降りるが早いか、いちもくさんに駆け出しました。

見ていた男は、走っていくものが何なのかよくわかりませんでしたが、すぐさま後を追いかけました。先生はまだ話を続けていましたが、大きな叫び声に話を邪魔されてしまいました。
「そいつを捕まえろ! そいつを捕まえろ!」
そう叫びながら、台所のほうから人々が走ってきます。それを見ると、生徒たちも一緒になって追いかけ始めました。
ニールスはネズミよりもすばしっこく、チョコチョコと逃げ回ります。みんなは門のところで捕まえようとしましたが、こんなちっぽけな生き物を捕まえるのは、どうしてどうして、大変なことでした。こうして、ニールスはうまく逃げ出したのです。

ニールスは、思い切って広い並木道を走っていく勇気はありませんでした。そこで、別の道を行くことに決めました。庭を通って、裏庭へ出たのです。けれど、みんなは大声を立てたり笑ったりしながら、なおも後から追いかけてきます。かわいそうに、ニールスは一生懸命逃げました。

ある農家の前まで駆け寄ったとき、ガチョウの鳴き声が聞こえてきました。見ると、入り口の段々のところに、白い羽根が二、三枚落ちているではありませんか。
ああ、ガチョウはここにいるのです! あまりの嬉しさに、後を追ってくる人たちのことはもうすっかり忘れて、ニールスは段々を駆け上がると、玄関へ行きました。でも、戸が閉まっていて、それから先へは行けません。

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