的をきめて石をぶっつける競争をしたり、ガンたちにとどくくらい空高く、ボールをほおり投げたりしました。おとなたちが、そうやって遊んでいるのをながめるのは、ほんとうに気もちのいい、楽しいものです。
ニールスも、あの古い都を救うことができなかった悲しみを忘れることができたなら、きっと、喜んだことでしょう。それにしても、ニールスは、この旅がすてきな旅だと思わずにはいられませんでした。いくさきざきで、楽しそうな歌声がひびいてきます。子どもたちは、まるく輪になっておどりながら歌っていました。とある木の茂った丘では、黒や赤の着物を着た人たちが、おおぜいすわって、ギターをかなでたり、ラッパを吹いたりしていました。また、ある通りでは、おおぜいの人たちが歩いてきました。それは、楽しい遠足をしている、禁酒会員たちでした。ニールスは、金文字で書いた大きな旗がヒラヒラしているのを見て、すぐにそれとわかりました。その人たちは、いつまでもいつまでも、歌い続けていました。
それからのち、ニールスは「ゴットランド島」という言葉を聞くと、いつも楽しげな遊びや歌声のことを一緒に思い出すのでした。
ニールスは長いあいだ下を見おろしていましたが、ふと、空のほうへ目をあげてみました。
いやあ、これには本当に驚きました! いつのまにかガンたちは島の内部を離れて、西へと向かい、海岸まで来てしまっていたのです。
いまは、目の前に広々とした青い海が広がっているではありませんか! けれども、ニールスが驚いたのは海のことではなく、その海岸に現れてきた一つの町についてでした。
ガンたちの群れは、東から飛んできました。
お日さまは、いまちょうど西に沈もうとしているところです。
みんながその町に近づいたとき、町の壁や塔、ギザギザした破風(はふ)のある高い家々や教会などが、明るい夕空を背景にして、くっきりと黒い影となって浮かびあがって見えました。
そのためニールスには、この町が現実の姿ではなく、ほんの一瞬でしたが、あの復活祭の前夜に見た、あの幻の都と同じくらい美しく思えたのです。
ところが、その町のすぐ近くまで来てみますと、それは海の底から浮かびあがった都に似ているようでもあり、また、似ていないようにも思われました。
この二つの町を比べてみますと、それはちょうど、ある日には紫の着物と宝石で身を飾った人を見て、またある日にはボロボロの服にくるまっている人を見るのと、同じような違いでした。
そうです、この町も、いつかはあの海辺で見た海の底の都のように、華やかだったこともあるのでしょう。
実際、この町も塔や門のある壁で、しっかりと取り囲まれています。
しかし、この町はこうして地上にとどまることは許されていても、その塔には屋根がなく、うつろで、がらんとしていました。
門には扉さえなく、番兵や兵士の姿もどこにも見えません。
きらびやかな華やかさはすっかり影をひそめて、ただ、むき出しの灰色の骨組みだけが残っているのです。
ニールスはこの町の上まで飛んできたとき、大部分の家が、小さくて低い木造の家であることに気がつきました。
昔のままの高い破風のある家や教会は、二つ三つ、あちこちに立っているだけでした。
破風のある家々は白く塗られていて、何の飾りもついてはいません。
けれども、ニールスはつい昨日の晩、あの海の底に沈んだ都を見たばかりでしたから、それらの家々も本来は彫像や、黒や白の大理石で飾られていたに違いない、と考えました。
古い教会にしても同じことです。
たいていの建物は屋根がなく、中はがらんどうでした。
窓枠は荒れ果て、床石は壊れて草がぼうぼうと生え、壁にはツタが一面にはい上がっていました。
しかし、ニールスには、これらの教会が昔はどんな姿だったのか、想像することができました。
きっと壁には彫刻がほどこされ、絵が飾られていたことでしょう。
内陣には祭壇や、金ピカの十字架が立っていたことでしょう。
そしてそこには、金の衣をまとった僧侶たちが厳かに歩いていたことでしょう。
ニールスは、狭い町の門も見ました。
そこには祭日の午後だというのに、人の姿はほとんどありません。
でもニールスは、昔はそこを立派に着飾った人たちが大勢行き交っていたことを知っていました。
それから、こういう門が昔は、あらゆる種類の職人たちで賑わう仕事場のような場所であったことも、ちゃんと知っていました。
けれども、この町が今もなお美しく、しかも珍しいものだということには、ニールスは少しも気がつきませんでした。
ピカピカした窓ガラスのうしろにゼラニウム(テンジクアオイ)の鉢植えが並ぶ、裏通りのこじんまりとした家々は、ニールスの目には入りませんでした。
それらの家は黒い壁に囲まれ、白く縁取りがされていました。
それから、たくさんの美しい庭園や並木道も、また草におおわれた廃墟のすばらしさも、ニールスの心には映りませんでした。
なにしろニールスの心は、昨晩見たあの華やかな都のありさまでいっぱいでしたので、目の前にあるものの美しさは、何ひとつ認めることができなかったのです。
ガンたちは、町の上を二度三度、行ったり来たりしました。
オヤユビくんに、なにもかもすっかり見せようというのです。
とうとうしまいには、ガンたちは教会の跡の、草の生えた床の上におりて、そこで一晩を過ごすことにしました。
ガンたちが眠ってしまってからも、オヤユビくんは長いあいだ目を覚ましていました。
そして、壊れた天井から、うす桃色の夕空をじっと見つめていました。こうして、しばらくもの思いにしずんでいましたが、やがて、あの海の底の都を救うことができなかったからといって、もうなげくのはよそう、と心に決めました。
そうだ、もうなげくのはよそう。
ゆうべ見たあの都も、もし海の底に沈まなかったとしたら、しばらく時がたつうちには、たぶんこの町とおなじように荒れはててしまっただろう。
そしてあの都も、きっと時の流れにはさからえないで、しまいにはこの町とおなじように、屋根のない教会、飾りひとつない家、人の姿も見えない通りとなってしまっただろう。
それならば、華やかな姿のままに海の底深くしずんでいるほうが、かえっていい。
「なるようになったのが、いちばんよかったんだ」と、ニールスは心に思いました。
「もしぼくに、あの都を救える力があったとしても、いまとなってはもうとても、救う気にはなれない」
ニールスはそれからはもう、このことについては悲しみませんでした。
15 スモーランドの言いつたえ
四月十二日 火曜日
ガンたちは海の上をかなり飛んで、北部スモーランドのユスト地方におりました。
この地方は、陸になりたいのか、それとも海になりたいのか、どっちとも心を決めかねているようでした。
つまり、いたるところに湾がいりこんでいて、それが陸地を島やら、半島やら、岬やらに切りわけているのです。
海の力がひじょうに強いために、低いところはすっかり水の下にかくされてしまって、わずかに丘や山だけが海の上につきでています。
ガンたちが海のほうからやってきたときは、夕がたでした。
小高い丘になった陸地は、キラキラ光る湾のあいだに、美しくよこたわっていました。
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