初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第25話

ニールスのふしぎな旅

そして、お日さまがもう一度ぼんやりと見えるようになったのは、ひとつの丘の上にしばらくの間、「スズメの雨」が降り注いでからのことでした。

けれども、こうした鳥の雲の中で一番大きなものが、いま現れました。
それは、あちこちから飛んできて合流した鳥の群れでできています。
その雲は暗い青みをおびた灰色で、お日さまの光も通しません。
まるで嵐を呼ぶ雲のように、うす気味悪く近づいてきます。
そして、ものすごい音や、恐ろしい叫び声や、ぞっとするような笑い声や、不吉な鳴き声に満ちあふれています。
とうとうこの雲が、たくさんのカラスの仲間となって、羽ばたき、鳴き叫びながら、雨のように降り注いできました。
それを見て、運動場にいた動物たちは大喜びでした。

それから、空には雲の形をしたものばかりでなく、いろんな形をしたものも現れてきました。
東と北東のほうには、まっすぐな点々の線が見えてきました。
それはイエーインゲ地方の林に住む鳥たちでした。
エゾヤマドリやエゾマツドリが、二メートルずつ間隔をあけて、長い列を作って飛んできたのです。
さらに今度は、ファルステルブーの沖にあるモークレッペン島のあたりに住んでいる水鳥たちが、三角やら、長い曲線やら、クサビ型やら、半円やら、さまざまな不思議な形をして飛んできました。

そして、ニールス・ホルゲルッソンがガンたちと一緒に旅をして回ったその年も、動物大会が開かれました。
このとき、アッカとその群れは、みんなよりも遅れて到着しました。
無理もありません。アッカがクッラベルイまで来るには、スコーネ地方じゅうを飛び越えてこなければならなかったからです。
それに、アッカは目を覚ますと同時に、まずオヤユビくん(ニールス)を探しに出かけたのです。
そのオヤユビくんは、もう何時間も前に出かけていって、笛を吹きながら、灰色ネズミたちをグリンミンゲ城からずっと遠くまで誘い出していたのです。

いっぽう、フクロウのだんなさんは、お日さまが昇ればすぐに、黒ネズミたちが帰ってくるという知らせを持って帰ってきました。
ですから、もう笛を吹くのをやめて、灰色ネズミたちがどこへ行こうと勝手にさせておいても、少しも危険はないわけです。
ところが、ニールスが灰色ネズミたちの長い列を従えて歩いているところを見つけたのは、アッカではなく、コウノトリのエルメンリークくんでした。
エルメンリークもニールスを探しに出かけていたのです。
そして、ニールスの姿を見つけると、すばやく舞い降りて、くちばしでニールスをくわえるが早いか、すぐまた舞い上がりました。
そして、コウノトリの巣に連れ戻して、「ゆうべは本当に失礼しました」と謝りました。
こう言われて、ニールスはとても嬉しくなりました。

それから、ニールスとコウノトリはすっかり仲良しになりました。
アッカもニールスにたいへん優しくしました。
そして、年老いた頭をニールスの腕に何度も何度もこすりつけて、困っている者をよく助けてくれたと言って褒めました。
でも、ニールスはそんなに褒められたくはありません。
それで、こう言いました。
「ううん、アッカおばさん。ぼくが黒ネズミたちを助けようとして、灰色ネズミを誘い出したなんて思っちゃいけませんよ。」「ぼくはただ、ぼくだって何かの役に立つんだということを、エルメンリークくんに見せたかっただけなんですよ」

ニールスがそう言い終えると、アッカはすぐにコウノトリのほうを向いて、オヤユビくん(ニールス)を一緒にクッラベルイへ連れて行ったらどうだろう、と尋ねました。そして、「オヤユビくんは、わたしたちの仲間と同じくらい信頼できるはずですよ」と言い添えたのです。

するとコウノトリは、すぐさまニールスを連れて行くよう、熱心にすすめました。
「アッカおばさん、ぜひオヤユビくんをクッラベルイに連れて行ってあげてください」とコウノトリは言いました。
「オヤユビくんが、ゆうべぼくたちのために骨を折ってくれたお礼をする、またとないチャンスですよ。それに、ぼくはゆうべ、彼に失礼なことをしてしまったのが悔やまれてなりませんから、今度はひとつ、会場まで彼を背中に乗せて行ってあげましょう」

自分を認めてくれる、こんなに賢くて立派な仲間から褒められることほど、うれしいことはありません。ニールスは、ガンとコウノトリがそんなふうに自分のことを話している今ほど、うれしいと思ったことはありませんでした。

こうしてニールスはコウノトリの背中に乗って、クッラベルイへ向かいました。これは大変な名誉だとは思いましたが、同時にひどく心配でもありました。というのも、エルメンリークくんは素晴らしい飛行家で、ガンなどとは比べものにならないほどのスピードで飛ぶからです。

アッカは絶えず羽ばたきながら真っすぐに飛んでいくのに、コウノトリは色々な芸当をしては楽しんでいるのです。ときには、ぐーんと高く上がったかと思うと、ぴたりと空中で静止して、羽も動かさずに漂っています。またときには、まるで石のように、地面に落ちてしまうのではないかと思うほどの速さで、さっと急降下します。そうかと思えば、つむじ風のように大きな輪や小さな輪を描いて、愉快そうにアッカの周りをグルグルと飛び回るのです。

ニールスは今までこんな飛び方を経験したことがありませんでした。ですから、その間ずっとビクビクしていました。けれども、同時に「これが本当の飛行というものか」と、初めてその素晴らしさがわかったような気もしました。

クッラベルイに着くまで、休んだのは一度だけでした。それはヴォンブ湖の上空に来たとき、アッカが仲間の鳥たちに、灰色ネズミとの戦いに勝ったと知らせたときのことです。それからみんなは揃って、クッラベルイを目指して真っすぐに飛んでいきました。

やがてみんなは、ガンたちの席として決められている丘の上に降りました。そこからニールスがあたりの丘を見渡すと、ある丘にはシカの角が立ち並び、またある丘には灰色のアオサギのトサカが見えました。ある丘はキツネたちで真っ赤に染まり、別の丘は海鳥たちで白黒の模様になり、また別の丘はネズミたちで灰色になっていました。さらに、ひっきりなしに鳴き叫んでいる黒いカラスたちが群がっている丘もありました。また別の丘には、じっとしていられず、空へ飛び上がっては喜びの歌を歌っているヒバリがいっぱいでした。

クッラベルイ大運動会のいつもの習わしとして、この日のプログラムは、まずカラスの飛行ダンスから始まりました。カラスたちは二組に分かれて、互いに向かい合って飛び、ぶつかりそうになっては戻る、という動きを繰り返します。これがカラスのダンスです。カラスたちはこれを何度も何度も繰り返しました。

このダンスに慣れていないものから見ると、少し変化がなさすぎて退屈に思えるかもしれません。ところが、カラスたちは自分たちのダンスが大得意なのです。見ているほかの動物たちは、ようやくダンスが終わったとき、ほっと一息つきました。つまり、このダンスは冬の強い風が雪のひとひらひとひらをもてあそぶ様子に似ていますが、なんとなく陰気くさくて面白みに欠けるのです。見ているほうがすっかりまいってしまいました。

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