初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第70話

ニールスのふしぎな旅

」と、お百姓さんは言いました。
「だが、この地方でのいちばんいいものは、風景の美しさじゃないよ。」
「じゃあ、いったい何がいちばんいいんです?」と、かいをにぎっている男はききました。
「つまり、ここは、あがめられ、尊敬されている地方なんだ。」
「そりゃあそうです。」
「そして、これからさきも、ずっとそうだとわかっているのさ。」
「どうして、そんなことがわかるんです?」と、こぎてがたずねました。
お百姓さんは、からだを起こしてもりにもたれかかりました。
「わしの家には、むかしから語りつたえられている古い話がある。その話で、これからさき、エステルイエートランドにどんな事がおこるか、ちゃんとわかるのさ。」
「じゃあ、わたしにもそれを聞かせてください。」と、こぎては言いました。
「ほんとうは、だれにも話さないことになっているんだが、むかしからの知りあいにかくしておこうとも思わない。」と、お百姓さんは言って、話しはじめました。
その話しぶりからみますと、だれかに聞いたのを、そらでおぼえていて、それをそのまま話しているようでした。
「このエステルイエートランドのウルヴォーサに、ずっとむかし、ひとりの婦人がいた。」その婦人は、将来起こる出来事を、まるで既に終わったことのように、ピタリと言い当てることができました。
その評判は広く知れわたり、近所の人たちはもちろん、遠くからも大勢の人がやってきては、さまざまなことを占ってもらいました。

ある日のこと、婦人が広間に座って糸をつむいでいると――当時はそれが当たり前の習慣でした――ひとりの貧しい百姓が入ってきて、戸口の腰掛けに腰を下ろしました。
「あなたは今、何を考えていらっしゃるのですか?」しばらくして、百姓が尋ねました。
「私は、気高く、清らかなもののことを考えているのですよ」と、婦人は答えました。
「それなら、わたしが気にかかっていることをお尋ねするのは、やめておいたほうがよさそうですね」と、百姓は言いました。
「おまえが気にしていることというのは、きっと自分の畑で穀物がたくさん取れるかどうか、そんなことでしょう。でも、私はいつも王様からは王冠の行く末について、法王からは教会の鍵について、そんなことばかり聞かれているのですよ」

「そんなことは、簡単に答えられるものじゃございませんね」と百姓は言いました。「それに、あなたが答えてくださったことに満足して帰る者は、ひとりもいないと聞いておりますが」
百姓がそう言うと、婦人はくちびるをかみしめながら、身を起こして腰掛けに座り直しました。
「そんなうわさを聞いているのですね。それなら、おまえの聞きたいことを言ってみなさい。そうすれば、おまえが満足するような返事を私がしてあげられるかどうかが、わかるでしょう」

そこで百姓は、遠慮せずに聞きたいことを口にしました。つまり、この百姓は「エステルイエートランドというこの土地が、この先どうなるのか」を知りたかったのです。百姓にとって、自分の生まれた土地ほど大切なものはありませんでした。だから、自分が死ぬまでにこの土地の未来がはっきりとわかったら、どんなに幸せだろうと思っていたのです。

「そう、おまえの聞きたいことがそれだけなら、きっと満足させてあげられるでしょう。なぜなら、エステルイエートランドはいつの時代も、他の地方に誇れるものを持っていると予言できるからです」と、賢い婦人は言いました。
「はい、それはありがたいことです。でも、どうしてそういうことになれるのか、それがわかりさえすれば、本当に満足できるのですが」と、百姓は言いました。
「どうしてそんなことを言うのです?」と婦人は言いました。「おまえは、エステルイエートランドが今でも有名だということを知らないのですか? アルヴァストラやヴレタの僧院、あるいはリンチェーピングの美しい教会のようなものを誇れる場所が、スウェーデンのどこかにあるとでも思っているのですか?」

「そうかもしれませんが」と百姓は言いました。「わたしは年を取っておりますので、人間の心は変わりやすいものだとよく知っております。ですから、アルヴァストラやヴレタに対しても、またリンチェーピングの教会に対しても、いつか人々が尊敬を払わなくなるような時が来るのではないかと、心配なのです」

「それはおまえの言う通りかもしれないけれど」と婦人は言いました。「だからといって、私の予言を疑わなくてもいいのですよ。私は今度、ヴァードステーナに新しい僧院を建てさせます。それはこの北の地方で一番有名な場所になるでしょう。身分の高い人も低い人も、みんなそこへお参りにやってきて、そんな神聖な場所があるこの地方を褒めたたえることになるでしょう」

百姓は、いまの話を聞いて大変うれしい、と答えました。しかし、彼は「どんなものもいつかは滅びる」ということを知っていました。だから、もしヴァードステーナ僧院の名声が落ちてしまったら、そのあとは何がこの地方の誇りとなるのだろうかと、さらに疑ったのです。

「おまえはなかなか満足しないのね」と婦人が言いました。「でも、私にはもっと先のことが見通せます。ヴァードステーナ僧院の栄誉が崩れないうちに、そのすぐそばに御殿が建てられて、それがその時代で最も素晴らしいものとなるでしょう。王様をはじめ諸侯がそこへお見えになるのよ。そして、そのような素晴らしい御殿があることが、この地方の名誉となるでしょう」
「それを伺って、うれしゅうございます」と百姓は言いました。「ですが、わたしは年を取っておりますので、この世の華やかなものが、やがてどうなるか、よく存じております。
ですから、その御殿が滅びることになったら、いったい何が人々の目を、この地方に引きつけておくことになるのでしょう」

「おまえは、いろいろなことが知りたいのね」と、婦人は言いました。
「でも、わたしには、もちろんその先も見通せます。フィンスポングのまわりの森が切り開かれて、そこに製鉄場や鍛冶場が建てられるでしょう。そして、この地方は、鉄を作ることで名高くなるはずです」

百姓は、それを聞いてたいへん喜びました。
「けれども、フィンスポングの製鉄場のぐあいが悪くなったときには、それにかわって、エステルイエートランドの誇りとなるようなものは、もう何もなくなると思いますが」

「おまえは、なかなか承知しないのね。でも、わたしには、その先も予言できます。凱旋した将軍たちが、湖の岸に、御殿のように立派で大きな別荘を建てるようになります。このすばらしい数々の別荘が、やっぱりこの地方の名誉となるのです」

「でも、だれもその大きな別荘を褒めないようなときがきましたら?」と、百姓は言いました。
「けっして、心配はいりませんよ」と、婦人は言いました。「ヴェッテルン湖の近くの、メデヴィの平原に、鉱泉が湧き出るようになります。そして、その鉱泉のおかげで、この地方は有名になるでしょう」

「それは、たいへんうれしいお話ですが、人々がほかの鉱泉に行くようになりましたら?」
「そんなことを心配する必要はありません。そのうちには、ムタラからメームにかけて運河が掘られます。

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