初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第71話

ニールスのふしぎな旅

そして、その運河によって、エステルイエートランドの名声は、国じゅうに知れわたります」

それでも、まだ百姓は心配のようでした。
「ムタラ川の急流では、水車が回りだしますよ」と、婦人は言いましたが、いらいらしてきたので、ほおが赤くほてってきました。「そして、ムタラでは槌の音が響きますし、ノルチェーピングでは織機の音が聞こえるようになるでしょう」

「それは、けっこうなお話ですが」と、百姓は言いました。「しかし、すべてははかないものですから、そういうものも、いつかは忘れられ、捨て去られてしまうだろうと思いますが」

百姓がこれでも満足しないのを見て、婦人はとうとう我慢ができなくなりました。
「おまえは、どんなものも滅びてしまうと言うけれども、それでは、いつまでたっても変わらないものを言いましょう。それは、この地方には、おまえのように強情で高慢な百姓が、いつまでもあとを絶たないということです」

婦人がこう言い終わるか終わらないうちに、百姓はうれしそうな顔をして、満足げに立ち上がりました。そして、婦人が親切に答えてくれたことを感謝して、自分はこれでやっと満足しました、と言いました。

「わたしには、おまえの気持ちがよくわかりません」と、婦人は言いました。
「つまり、わたしにはこう考えられるのです」と、百姓は答えました。「王さまや、坊さんや、貴族や、商人などが建てるものは、ごくわずかの年月しか続かないものだと思います。けれども、いまあなたが、エステルイエートランドには名誉を愛する頑固な百姓たちが、いつまでもあとを絶たないだろうとおっしゃったのをうかがいまして、それこそ、この地方の名誉をいつまでも保ちつづけていくものだと思いました。なぜなら、土とともに働く者のみが、その地方の評判をいつまでも保っていくことができるのですから」

21 珍らしい拾いもの

四月二十三日 土曜日

ニールスは、空高くを飛んでいきました。
下を見おろせば、エステルイエートランドの大平野が広がっています。ニールスは、こんもりとした森のあいだに見える白い教会の数を数えていましたが、すぐに五十になりました。それからあとは、ごちゃごちゃになって、ちゃんとは数えられなくなりました。たいていの農家が、白塗りの大きな二階建てでした。どの家もいかにも立派に見えるので、ニールスは感心して、
「このあたりにはお屋敷しかないところを見ると、お百姓はいないんだな」と、ひとりごとを言いました。

すると、すぐにガンの仲間が一斉に叫びました。
「ここのお百姓は、金持ちのような暮らしをしているんだよ! ここのお百姓は、金持ちのような暮らしをしているんだよ!」

平野の上では、氷も雪も消えて、もう春の仕事が始まっていました。
「あの畑の上をはっている、長いカニみたいなのは何だろう?」と、しばらくしてニールスがたずねました。
「すきと牡牛だよ、すきと牡牛だよ」と、ガンが答えました。牡牛は畑の上をのろのろと歩いているので、動いているのかどうかもほとんどわからないくらいでした。
それを見て、ガンたちは牡牛に向かって叫びました。
「そこへ行くのに来年までかかるぜ! 来年までかかるぜ!」
ところが、牡牛たちは平気なものです。
鼻先を空に向け、「モウ」と大声で鳴きました。
「おれたちはな、おまえらみたいな宿なしが一生かかってするよりも、もっと立派な仕事を一時間のうちにやってのけるんだぞ!」

二、三の場所では、馬にすきを引かせていました。馬は牛よりもずっとキビキビと働いていましたが、ガンたちはついつい、馬のこともからかわずにはいられません。
「きみたちは、牡牛のまねごとをしていて恥ずかしくないのかい?」と、ガンたちは叫びました。
「おまえたちこそ、年じゅうのらくらしていて恥ずかしくないのか?」と、馬はいななき返しました。

馬や牡牛が畑で働いているかたわら、納屋の前の庭では牡羊がぶらついていました。
この羊は、つい最近毛を刈り取られたばかりで怒りっぽくなっており、小さな子どもを突き飛ばしたり、犬を犬小屋へ追い返したりして、まるで庭の主(あるじ)のようにいばり散らしていました。
「羊さん、羊さん、あんた、毛はどうしたの?」と、そのとき、牡羊の上を飛び越えながらガンたちがたずねました。
「ノルチェーピングの羊毛工場へやっちまったよお!」と、牡羊は声を長く引きずって答えました。
「羊さん、羊さん、あんた、角はどうしたの?」と、ガンたちがまたたずねました。
ところが、この牡羊は角なしなので、角のことを聞かれるのが何よりも悔しいのです。
すっかり腹を立てた牡羊は、しばらくの間、めちゃくちゃに駆け回ったり、空に向かって頭突きをしたりしていました。

いなか道を、ひとりの男がスコーネ産のブタの群れを追いながらやってきました。
まだ生まれて二、三週間ほどの子ブタたちでしたが、これから売られていくところでした。
みんな小さい体ながらも勇ましく歩いており、まるで互いに助けを求めているかのように、ぴったりと寄り添っていました。
「ブウ、ブウ、ブウ、ぼくたちは、こんなに小さいうちにお父さんとお母さんに別れちゃった。ブウ、ブウ、ブウ、こんなあわれなぼくたちは、これからどうなるんだろう?」と、子ブタたちは鳴きました。
さすがのガンたちも、こんなにかわいそうな生き物をからかう気にはなれません。
「心配しないで大丈夫。なんとかなるよ」と、ガンたちは叫びながら飛び去っていきました。

ガンたちは、平地の上を飛んでいるときが一番楽しいのです。
そんなときには、農場から農場へと渡り歩いては、次から次へと家畜をからかってまわるのです。
ニールスがこうして平野の上を飛んでいたとき、ふと、だいぶ前に聞いた話を思い出しました。
はっきりとは覚えていませんが、それはある女性の着物の話でした。
その着物は半分が金色のビロードでできていて、もう半分は灰色の手織りの布でできていました。
けれども、その着物の持ち主は、灰色の布のほうにたくさんの真珠や宝石を飾りつけて、金のビロードよりも美しく立派に見せていたという話でした。

今、ニールスがエステルイエートランドの地を見下ろしたとき、その手織りの布のことを思い出したのです。
エステルイエートランドは広大な平野ですが、北と南にはこんもりとした森におおわれた山々が連なっています。
その二つの山並みは、朝の光を浴びて、まるで黄金のベールに包まれているかのように青くキラキラと輝いていました。
一方、平野そのものは、冬のなごりの裸の畑が続いているばかりなので、灰色の手織りの布よりも美しいとは言えませんでした。
けれども、人々はこの平野の豊かさと、その親切な姿に満足していたのでしょう。できるかぎり美しく飾り立てようとしていました。

ニールスがガチョウの背中から見下ろすと、町や農場、教会、工場、お城、停車場などが、まるで大小さまざまな飾り物のように散りばめられて見えました。
屋根はお日さまの光を浴びてキラキラと輝き、窓ガラスは宝石のようにきらめいていました。
黄色い田舎道や、ピカピカした鉄道の線路、青い運河などが、村々のあいだを縫い取りしたように走っていました。

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