けれど、おばさんとしては、その人たちと話をしなければならないのが、ひどくおっくうでした。
そうはいっても、おばさんは生まれた家がなつかしくてたまらず、思いきって出かけていきました。
屋敷の入口で馬車をおりたときは、もう夕闇がたちこめていました。
おばさんは大きなカエデの木の下にたたずんで、あたりを見まわしました。
すると、ふしぎなことに、ハトのむれが、おばさんの足もとにバラバラと舞いおりてきました。
ハトというものは、お日さまが沈んでからは飛ばないものですが、こんやは、あんまりお月さまが美しいので、ついさそいだされて、飛びだしてきたのにちがいありません。
それとも、おばさんをなつかしがって、迎えにきてくれたのでしょうか。
おばさんのほうでもハトの姿を見て、なつかしそうに話しかけました。
やがて、ハトが飛んでいったとき、庭のほうでキャッというさけび声がしました。
おばさんがかけよってみますと、ちっぽけな小人が、フクロウを相手にむちゅうで戦っているではありませんか。
おばさんはあっと驚いて、思わずその場に立ちすくんでしまいました。
けれども、小人のさけび声が、ますますあわれっぽくなってきましたので、おばさんは、ふたりのあいだに分けてはいりました。
すると、フクロウはすばやく木の上に飛びあがりましたが、小人のほうはそのままそこに立ちどまっています。
「おかげで助かりました。ありがとう、おばさん!」と、その小人は言いました。
「だけど、フクロウのやつがあそこで見はってるから、ぼく、帰れません!」
「じゃ、あんたの家まで、わたしが送っていってあげればいいでしょう。」と、おばさんは言いました。
「ぼく、ほんとうは、一晩じゅうこの家にいるつもりだったんです。」と、小人は言いました。
「でも、どこか安全な寝場所を教えてくだされば、あしたの朝まで家に帰らなくってもいいんですけど!」
「わたしに、寝場所を教えてくれって? それじゃ、あんたはここに住んでいるんじゃないの?」
「ああ、おばさんはぼくをほんとの小人だと思ってるんですね。ぼくは、おばさんとおんなじ人間なんですよ。こんな姿になってはいますけど。」
「まあ、驚いた! いったい、どうしたわけなの? 話してちょうだいな!」
そこで、ニールスはいままでの冒険を話しはじめました。
話がすすむにつれて、おばさんはますますびっくりしました。
なんという珍らしい話だろう! おばさんは心の中で喜びました。
「まあ、ガチョウのせなかに乗って、スウェーデンじゅうを旅行してまわった子どもに会うなんて、あたしはなんて運がいいんでしょう!」と、おばさんは思いました。
「この子の話してくれたことをそのまま書けば、本になるわ。もう、これで心配はいらない! やっぱり家に帰ってきてよかったこと!」
なつかしいわが家に
それから、ガンたちはすこし廻り道をして、一月ばかりたった十一月の八日に、いよいよヴェンメンヘーイに近づきました。
霧がうっすらとかかって、空はどんよりと曇っていました。
みんなが昼寝をしているとき、アッカがニールスのそばにやってきて、「とうぶんお天気がいいようだから、あしたあたり、バルト海をこそうと思っているよ。」と、言いました。
「ええ、いいですとも。」と、ニールスは答えました。
ニールスとしては、白ガチョウが殺されるくらいなら、じぶんはこのまま人間にはもどらずに、みんなといっしょに旅をつづけよう、と腹をきめていたのです。
とはいうものの、こうして、家の近くまできてみますと、やっぱり、おとうさん、おかあさんはじめ、なにもかもがなつかしくてたまりません。
「だが、おまえの家は、ここからすぐ近くなんだよ。遠い旅に出るまえに、一ど家へ寄っていったらどうだい? 小人の話じゃ、おまえがいなくなってからというもの、おとうさんは運が悪くって、借金はかさなるし、だいじな牝牛は二頭までも売ってしまう。それに、せっかく買った馬は、びっこで役にたたないってことだし、ひょっとすると、畑や家までも手ばなさなければならないかもしれないということだよ。だから、おまえは家へ帰って、おとうさんやおかあさんに元気をつけてあげなければいけないと思うね。ガチョウのことなら、ここにおいていけば、だいじょうぶさ!」
「ほんとに、そうですね!」と、ニールスは元気よく答えました。そう言われたのが、ほんとうは、どんなにかうれしかったのです。「ところで、おとうさんは鉄砲を持っているのかね?」と、アッカはたずねました。
「持っていますとも。その鉄砲があったからこそ、ぼくはいつかの日曜日に教会へ行かないで、家に残っていたんですよ!」と、ニールスは答えました。
「それじゃ、家へはひとりでいっておいで。あしたの朝、スミューエ岬で待っているよ!」と、アッカは言いました。
ニールスが家に着いたとき、庭にはだれもいませんでした。そこで、さっそく牛小屋をのぞいてみました。
「こんにちは、マイルース!」と、ニールスはさけびながら、牛のそばへ走りよりました。「おとうさんとおかあさんはどんなふうだい?」
「あんたがいなくなってからは、苦労のしどおしさ! やっとの思いで買った馬は、病気で役にも立たないしね。とにかく、あんたのことを思って、気の毒なほど悲しんでいるよ!」と、マイルースは答えました。
ニールスはたまらなくなって、牛小屋を出ると、今度は馬小屋へ行きました。
「きみは病気だっていうけど、どこが悪いの?」と、いかにも丈夫そうな馬をながめながら、たずねました。
「病気というわけじゃないんだけど、ひずめのあいだにトゲのようなものがささっていて、そいつが痛むもんだから歩けないんだよ!」と、馬は悲しそうに言いました。
「どれ、見せてごらん!」ニールスはこう言って、ひずめの上に、なにやらきざみつけました。
そのとき、中庭のほうで人声がしました。おとうさんとおかあさんが帰ってきたのです。
まもなく、おとうさんは馬小屋にやってきて、馬のどこが悪いのかもう一度調べようと思い、びっこをひいているほうの足を高く持ち上げました。すると、ひずめの上に、なにかきざみつけてあるではありませんか。
「おや、なんだろう?」おとうさんはびっくりしてさけびました。そこには、「ひずめのあいだのトゲを抜け!」と書いてあったのです。
そのとき、おかあさんがかけこんできて、うれしそうにさけびました。
「あなた、あなた、白ガチョウが帰ってきましたよ!」
ガチョウのモルテンは、もとの住みかをダンフィンに見せたくて帰ってきたところを、ニールスのおかあさんにつかまってしまったのです。
「そうかい、こっちでも馬の病気のわけがわかったところだ!」と、おとうさんもうれしそうに言いました。
「ああ、やっとわたしたちにも運が向いてきましたね!」と、おかあさんは言いました。「ちょうど、もうすぐお祭りだから、さっそくあのガチョウを殺しましょうよ!」
しばらくすると、台所のほうから「助けて! オヤユビさん、助けて!」というモルテンの悲しいさけび声が聞こえてきました。
ニールスは台所の戸口めがけて、いっさんに走っていきました。
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