初級翻訳・一寸法師 第9話

一寸法師

「いいえ、別にそんな大きな品物など、持ち出したことはございませんわ」
「ですが、お嬢さんがお屋敷にいらっしゃらないとすれば、何らかの方法で外へ運び出されたに違いありません。このピアノの様子からして、お嬢さんがご自分で外出されたとは考えられませんからね」
明智は少しためらってから、「大変お手数ですが、召使の人たちをここへお呼びくださるわけにはいきませんか。少し尋ねてみたいことがあるのです」と言いました。
「ええ、お安い御用ですわ」

そこで夫人は、屋敷の雇人たちを客間に呼び集めました。何となく物々しい光景でした。五人の男女が入り口のドアの前にずらりと並んで、もじもじしていました。彼らは何者とも判断のつかない、明智の支那服姿を、妙な目つきで眺めていました。
雇人のうち二人だけがそろっていませんでした。小間使の小松は頭痛がするといって女中部屋で寝ており、運転手の蕗屋は二、三日前から実家へ帰って不在でした。
明智は本来、大勢を一室に集めて尋問のようなことをするのはあまり好みませんでした。いつものやり方とは違っていたのです。だが、今彼は三千子の体が(それは恐らく死体だったかもしれませんが)どんな風にして山野邸から運び出されたか、その一点だけを大急ぎで調べる必要があったのです。
山野夫人はけげんそうな顔の雇人たちに明智小五郎を紹介し、何なりと彼の質問には、少しも遠慮せず答えるようにと諭しました。

「こちらのお嬢さんが行方不明になられてから、つまり四月二日ですね。あれから今日まで、このお屋敷に出入りした人を、できるだけ思い出してほしいのです」
明智はすぐさま本題に入りました。そして、まずは玄関番の書生の方に目を向けました。
書生の山木は、ニキビ面を少し赤らめながら、思い出し、思い出し、来訪者の名前を列挙しました。そして、この男女合わせて十五、六名の人たちは皆長年の知り合いで、少しも疑うべきところはないと付け加えました。夫人もその点は同意見でした。

「その中に、何か大きな品物をお屋敷から持ち出した人はいませんか。来客ばかりでなく家内の人でも、誰でも構いません。とにかく何か大きな物を持って門を出た人はいなかったでしょうか」
「大きなものといっても、せいぜい折かばんぐらいのものです」書生は不思議そうに答えました。
「自動車や車は門を出たり入ったりしましたけれど、誰もそんな大きなものを運び出した人などいません」
他の雇人たちも、それ以上のことは知りませんでした。

「裏口の方から誰か出入りしたものはありませんか」
明智は最後に二人の下女中をとらえました。
「勝手の方は、見知り越しの御用聞きぐらいのものですわね」
女中の一人が別の女中の方を見て、同意を求めるように言いました。結局、何も分かりませんでした。自動車の助手も、主人の外には誰も乗せなかったと言い、大きな品物など運んだ覚えはないと明言しました。

もしも彼らが何物をも見逃していなかったとすれば、この上は天井裏とか縁の下とか、邸内の隅々を探してみるほかないようでした。だが、それは既に山野家の人たちによって一応探索し尽くされていたのです。誠に山野三千子は、煙のように消えてしまったのでした。

「だが、そんなことは不可能です。何か見逃しているものがある。現にあなた方はこのピアノを見逃していた。もっとあなた方が注意深かったなら、運び出されないうちに、お嬢さんを見つけていたかもしれないのです。何かしら分かりきったことなのです。ごくつまらないことを見落としているのです。今おっしゃった外に、何か言い残しているものはありませんか。例えば書生さんは、郵便配達が門を出入りしたことを言わなかった。もっとも郵便配達がお嬢さんを運び出すことはできないけれど、そんな風なごくつまらないものが省かれてはいないでしょうか」
「掃除屋、衛生人夫なんかもありますね」
ふと気がついたように紋三が横から口を出しました。
「そうだ。そんな風のものです」
「あら、掃除屋さんといえば、ねえ君ちゃん」一人の女中が仲間に顔を向けて、頓狂な声を上げました。
「丁度あのあくる日ですわね。朝早くゴミを取りに来たのは。区役所の衛生夫が参りました」
最後の方を明智に向かって言い、小腰をかがめました。
「いつもと変ったところはなかったですか」
「いいえ、別に……。でも、何だか日取りが早いようでございました。いつもは十日目くらいなのに、今度は二、三日前に来たばかりのところへ、また来たのでございます」
「ゴミ箱は勝手口にあるのですね」
「はい、通用門の内側に置いてございます」
「その男はどんな風でした。見覚えがありましたか」
明智は少し好奇心を起こしたように見えました。「いいえ、特に見覚えはありませんが、やはりいつものように印半纏(しるしばんてん)を着た、薄汚れた男でしたね」
「その男が通用門から入ったのですね。では、ゴミを持って行くところを見ましたか?」
「いいえ、ちょうど門のところで通り過ぎたばかりで、私、お使いの途中でしたから。お君ちゃんはどう?」
「私もよく見ていませんでしたが、そういえば、今考えると妙なことがありました。前の人が持って行ってから二、三日しか経っていないのに、うちのゴミ箱が一杯になっていたんです。私あの朝、掃除屋さんが来る前にゴミを捨てに行って、気がついていたんですけど」そしてお君は明智の方を向いて、「忙しくて、ついそのまま忘れてしまったのですわ」と言いました。
「そのゴミ箱というのは、大きなものですか?」
紋三は明智の質問が待ちきれない様子で聞きました。
彼はこうした奇妙な出来事には、人一倍強い関心を持っていました。
彼は私に、三千子の行方について彼自身の推理を試みようとしていたのです。
「ええ、ずいぶん大きいのですわ」
「人間が入れるくらい?」
「ええ、十分入れますわ」
そんなやり取りのあとで、明智たちは勝手口のゴミ箱を調べに行きました。
正門とは反対側の高いコンクリート塀に通用門が開いていて、その入ってすぐのところに、黒く塗られた大型のゴミ箱が置いてありました。
一応それを調べてみましたが、ただ大型であるというだけで、あの突飛な想像を可能にする以外、特に何の発見もありませんでした。
「ゴミ箱の中に人間を隠して、上から汚いゴミをかぶせておく。それを衛生夫に化けた男がゴミ車に移して、どこかへ持ち去る。これは非常に馬鹿げた空想です。ですが、馬鹿馬鹿しければ馬鹿馬鹿しいほど、かえって本当なのかもしれないのです。この事件には何かしら突飛なところがあります。一寸(ちょっと)常識では考えられないようなところがある。しかし、犯罪者は時に非常に突飛で馬鹿馬鹿しい思いつきをするものですよ」
明智はけげんな顔をしている山野夫人にそう説明しました。
それから、邸内の綿密な捜索が行われました。
召使たちも引き続き取り調べられました。
頭痛がするといって女中部屋に寝ていた小間使の小松には、明智がその部屋へ行っていろいろと尋ねました。
そうして山野家の空気に浸っている間に、明智は何かしら少しずつ悟るものがあったようです。

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