初級翻訳・いたずら小僧日記 第12話

いたずら小僧日記

これまでこの眼鏡はきっちり目に合っていたのにさ」
「見えませんか」
「一寸先も見えなくなってしまったよ」
ぼくはおかしくなったけれど、必死に我慢して聞いていた。
二人はしばらく黙り込んでいた。
「体を悪くして、目まで見えなくさせられて、ちょっと遊びに来たばかりに、わしの方としてもものすごい損だよ。お前の方だって何万円だかの損だな」
と言って伯父さんは笑った。
お父さんは黙っていた。
「あんな根性じゃロクな人間にならんぞ。財産を持たせたらよけいにダメになる。お前も気をつけないといかんだなあ」
ぼくは本当に残念でたまらない。
まったく、ものすごく大物を釣り逃してしまった気分だ。
忠公の家の馬車小屋で、見世物ごっこをして遊んだ。
一人五銭ずつ入場料を取って、六十五銭もうけた。
男の子が十人、女の子が三人入った。
背負子はタダにしてやった。
このお金は義勇艦隊に寄付するつもりだ。
忠公がサルになって、六公がクマになって、ぼくは怪物になった。
そのほかにもいろんな余興があった。ぼくはまず散髪屋さんに行って、頭をツルツルの丸坊主にしてもらった。そして忠公(ただこう)に、顔と手を赤インキで真っ赤に塗ってもらったんだ。
それから、伯父さんの入れ歯を口いっぱいに頬張った。
鏡を見たとき、自分でも「これ、ぼくじゃないみたいだ!」と思うくらい、ものすごく怖い顔になっていたよ。
ゴールドの金歯がギラギラと光っている。
だけど悪いことに、途中で喉が渇いて水を飲みに行ったとき、うっかり井戸の中に入れ歯を落としていってしまったんだ。
新しい入れ歯ができるまでに、伯父さんはお腹を空かせて餓死しちゃうかもしれないぞ。

六公(ろっこう)はロバを飼っている。
このロバを小象に見立てて、ぼくがその上でサーカスの芸当をしたんだ。
忠公のお母さんの肩掛けを着せたら、少しは象っぽくなったけれど、牙がないからどうにも物足りない。
そこで、何か役に立つだろうと思って持ってきておいた伯父さんのラッパを、ロバにくわえさせてみた。
だけどロバなんてものは物の道理が分からないから、とうとうラッパをバリバリと噛み砕いてしまった。

こんなことがあって、伯父さんは今日からホテルへ引っ越していってしまった。
あんな小僧はもう甥(おい)でも何でもない、他人だと言っているそうだ。
ぼくの方だって、あんな守銭奴(しゅせんど)のことなんて、もうずーっと前から伯父さんだなんて思っちゃいないや。
だけど、お島(しま)がこっそり教えてくれた話によると、ぼくがイタズラをしたせいで、伯父さんは大変な大損をしてしまったらしい。
伯父さんは、もともとぼくに譲るつもりだった全財産を、なんとすべて養老院に寄付することに決めてしまったんだ。
お年寄りは、お年寄りの味方をするって決まっているもんさ。
まあ、だいたいこうなるだろうとは思っていたから、覚悟はしていたよ。
財産なんかなくたって全然平気さ。
ぼくは少しも困らないもん。
お父さんは大金持ちなんだからね。
みんながそう言っているんだ。
ぼくは毎日好きなことをして遊んでいられれば、それで他に不満なんて何もないよ。
ただ、まわりの大人たちにもうちょっと叱られないといいんだけど、こればっかりはどうしようもないよね。
隣の忠公ちゃんだって、めちゃくちゃたくさん叱られているんだし。

だけど、はっきり断っておくけれど、ぼくは決して悪い気持ちで伯父さんにイタズラをしたわけじゃないんだ。
伯父さんのハゲ頭に干し芋の茎(ずき)をロウで貼り付けたのも、別に火傷(やけど)をさせようと思ってやったわけじゃないんだよ。
ただ、「チャンチャン坊主(※頭頂部を剃った僧侶などの風体)」に見えるかどうか試してみたかっただけなんだ。
靴が片方なくなっちゃった事件だって、あれは南京ネズミを飼うときの用心として、大事にしまっておいただけなのにさ。

歌(うた)さんもお島も、「伯父さんはお世話が焼けるし、気骨(きぼつ)が折れて本当に困る。少しお話をしただけで、すぐに声を枯らしてしまうんだから」って、すっかり参っていたよ。
でも、ぼくは伯父さんとおしゃべりするのが大好きだった。
まるで電話をかけるみたいに、ラッパに向かって大声を吹き込んで、「知りたいことは何でも教えてあげるよ!」っていろんな話をしてあげたんだ。
お年寄りのくせに、むやみやたらに人の言うことを聞いたがるからいけないんだよ。
「歌さん、あなたから見てぼくのことは何と言っているんですか?」って伯父さんに尋ねられたら、歌さんだって「どうしたって、困った厄介なおじい様でございます。お話しをすると喉の声が悪くなってしまいますから、できるだけ近づかないようにしているんです」と答えるしかなかったみたいだ。

それから、お父さんのところに伯父さんから手紙が届いたとき、「またあの面倒くさくて口うるさい奴がやってくるんだな」とお父さんが言っていたこと。
でもお母さんは、「あの耳の遠い伯父さんは、滞在中の生活費を自分でちゃんと払うから、あの意地悪な伯母さんよりかはずっと始末が良くて助かるわ」と言っていたこと。
あんな顔をしているけれど、若い頃は手に負えない大変な道楽者だったこと。
死んで地獄に行くときまで、お金を背負って行くつもりらしいこと。
ぼくはなんでもかんでも根掘り葉掘り聞かれるから、正直に答えなきゃならなかったんだ。
だって、嘘は泥棒の始まりだから、いつも本当に困ってしまうよ。

お父さんのお昼ご飯のとき、神保(じんぼう)さんというお客さんを招いたんだ。
どうやら何とか町にある土地を、この神保さんに買わせるつもりらしくて、お母さんとそんなお話をしていた。
今日の料理人は、なんだかやけに意地が悪い。
この男はふだんはまともなんだけど、ものすごく悪い癖があって、ご馳走が作られるような特別な日になると、決まって根性が曲がってしまうんだ。
ぼくなんか、キッチンの一歩手前にも近寄らせてくれない。
こっちは別に何も欲しくないけれど、向こうがそんなに警戒してくると、かえって何かをつまみ食いしたくなっちゃうものだ。
「お前はえらいね」って言われると、なんだか本当にえらいような気持ちになるし、
「こいつ、何か盗るんじゃないか?」っていう疑わしい目で見られると、「よし、一つ取ってやろうかな!」って気になっちゃうんだよ。
だから今日のこんな事件だって、結局は料理人が意地悪をしたのが悪いのさ。
ぼくはイチゴを一摘みパッと分捕って、食卓の下に隠れた。
テーブルクロスが床まで長く垂れ下がっているから、ここなら見つかる心配なんてない。
安心してイチゴをモグモグ平らげていると、お父さんとお母さんが神保さん夫婦を案内してきて、そのまますぐに席に着いた。
神保さんがお祈りか何か感謝の言葉を捧げて、四人はスープを飲み始めた。
――ああ、ぼくはすっかりピンチになってしまった。
みんなが部屋に入ってきたときのドアが開いている隙に逃げ出せばよかったのに、こうなってしまってはもう身動きが取れない。
四人はいろんな話をしながら、ナイフとフォークをカチカチと鳴らしている。
「行儀の悪い人たちだなあ。

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