どこまで損な生まれつきだか知ったこっちゃない。
この調子じゃ、しまいには雷にでも打たれて死ぬのだろう。
自分で骨を折っておとなしくしても、運が悪いんだから仕方がない。
大阪の伯父さんがこの頃家に泊まっている。
この伯父さんはもういい年寄りだ。
そして変な人だ。
頭の毛なんか少しもない。
校長先生のよりもまだひどい。
けれども笑ったりしちゃいけないよ、伯父さんは金持ちで独身者だから、もし気に入ればぼくへ財産を譲るかもしれないんだそうだ。
かもしれないなんて心細いけれど、全くあてがないよりは得だと思う。
ぼくはこれからおとなしくするつもりでいたところだからちょうどいい。
伯父さんは耳が遠い。
つんぼの中でも金つんぼだ。
ただ話をしても通じない。
お前は馬鹿だよと言っても笑っている。
ラッパのようなものを耳に当てがって、大きな声を出さなければ聞こえない。
先生が耳の話をしたとき、耳の中には鼓膜という太鼓があって、それを叩くと声でも音でも聞こえるのだと言った。
そうしてみると伯父さんにはこの太鼓がないんだろう。
太鼓がないからラッパで間に合わせるんだろう。
ひとつ伯父さんのご機嫌をうかがうつもりで行ってみた。
伯父さんは眼鏡越しにぼくの顔を見て、
「どうだい、ボンボン」
と言った。
ボンボンなんておかしいや。
坊とか太郎とか呼べばいいのに。
時計じゃあるまいし。
ぼくはラッパを借りて、伯父さんの耳へこう吹き込んだ。
「伯父さんはケチですか」ぼくの声があまり大きかったので、伯父さんはびっくりした。
「そんな大きな声を出しなはらいでも聞こえまっせ」
「伯父さんは吝嗇漢ですか」
「何んだ?」
「歌さんがね、こう言いましたよ、その何ですって、伯父さんは大変ケチだって、そして煮ても焼いても食えないんですって、本当ですか」
「何だ。
そんなことを言ってまっか。
ひどい奴やな。
そんなら、お土産を持って来たけれどやらん。
本当にひどい奴やな」
「伯父さん、僕買いたいものがあるんですが、お金を少しくれませんか」
伯父さんは返事もしないで、ただ鼻をクシンクシンいわせていた。
そして穴のあくほどぼくの顔を見つめていた。
ぼくを何か顕微鏡の中にいる虫だと思っているらしい。
これは怒らせたと思ったから、今度はなぐさめるつもりでこう話しかけた。「だけどねえ、伯父さん。あなたがケチの方がむしろ良いんですってお母さんが言っていましたよ。ケチならケチほどお金がたくさん残るから、結局そっちの方が良いんだってさ」
けれど伯父さんは余計に怒ってしまった。
いくらなだめたりご機嫌をとったりしても、まったく話が通じないので本当に困る。
ちょうど猫の背中を毛並みとは逆に撫でるようなもので、撫でれば撫でるほど機嫌が悪くなるから、ぼくもいい加減にしてその場を出てきた。
しばらく外で遊んでから家に帰ると、お母さんとお歌さんに捕まっていろいろと根掘り葉掘り聞かれた。
もちろんぼくは当たり障りのない返事をしてごまかしておいた。
「絶対に伯父さんに逆らっちゃダメだよ。もともと変わった人なのに、お年を召してボケてきているからすぐに気にされちゃうんだからね。もうお前はあそこへ行かない方がいいよ。伯父さんは今休んでいるところだから、お前は外へ行って遊びなさい。起きてくるとまたうるさいからね」
とお母さんが言った。
だからぼくはお母さんの言うことを聞いて外へ出た。
しばらくは道路工事の作業を見物していたけれど、急に伯父さんの顔が見たくなった。
あんな顔をしている人が眠っているときは一体どんな顔になるんだろうと思ったら、作業員たちの喧嘩なんてどうでもよくなってしまった。
ぼくはさっそく引き返した。
叱られると面倒だから庭にまわって、窓から中を覗いてみた。
窓のところに金縁の眼鏡が置いてあった。
伯父さんのだ。
ぼくはなんの気なしにそれを取ってかけてみたけれど、なんだか視界がぼんやりしている。
かけたり外したりしているところに、犬のポチが走ってきた。
犬に眼鏡をかけさせたらどんな顔になるだろうと思って、ポチにかけてやった。
全然似合わない。
するとポチは隣家の猫を見つけて追いかけていった。
ぼくもあとを追ったけれど、ポチは垣根を潜り抜けて隣の家の庭に入ってしまった。
ぼくは困ってしまって、しきりに口笛を吹いた。
すぐに戻ってはきたけれど、眼鏡はもうかけていない。
どこかに落としてきたんだろう。
取りに行きたくても、この前忠公を泣かせてからというもの、隣のおじさんはピストルに弾を込めて待ち構えているらしいから、怖くて行けないや。
犬なんて本当に厄介な生き物だ。
なんでも物はタダで買えると思っている。
もったいないっていうことを全然知らないんだから。とうとう金縁の眼鏡をなくしてしまった。
そんなこととは露知らず、伯父さんはぐっすり眠っている。
ものすごく平和的に寝ている。
もちろん戦争みたいに戦うように寝る奴なんていないだろうけどさ。
口を開けている。
喉からは汽車がゆっくり走る時みたいな音が聞こえる。
頭は赤いバナナ柄のハンカチで丁寧に包んである。
水引は結んでなかったけれどね。
あそこまでぼくの釣竿が届くかなと思ったのが、そもそもすべての大きな誘惑だった。
そして、その釣竿が届いてしまったことが、とんでもない大災難の原因になった。
ぼくは伯父さんを魚屋の店先に吊るしてあるアンコウに見立てて、冗談半分で釣り上げてやろうと思い、口のあたりに釣り針を垂らしてみた。
遠くからやっている仕事だから、どうせうまくいくはずがない。
釣り針は鼻に触ったり、頬に当たったりしていたけれど、そのうちにうっかり口の中に入ってしまった。
その時、伯父さんはやめておけばいいのにハクションとくしゃみをして、口を固く閉じてしまった。
ぼくはそっと軽く引っ張ってみたけれど、伯父さんはしっぽを踏まれた犬みたいな声をあげた。
誰かが来たら大変だから、大急ぎで力いっぱい引っ張ったら、伯父さんは椅子からひっくり返って落ちてしまった。
家中に響き渡るようなすごい叫び声がした。
ぼくは釣竿を投げ出して物置に隠れた。
ぼくは三日間も蔵の中に閉じ込められて、今日やっと許してもらったんだ。
伯父さんはまだ寝込んでいる。
本当にぼくが悪かった。
心から申し訳なく思っている。
お島に頼んで隣家の庭へ眼鏡を拾いに行ってもらった。
フレームはあったけれど、レンズは見当たらなかったそうだ。
しかたがないからぼくはお春さんの老眼鏡を壊して、伯父さんのフレームにレンズを嵌めておいた。
これからは本当に大人しくしよう。
伯父さんは日ごとに良くなって、今日からやっと起きてきた。
お父さんとお話しをしている。
伯父さんはものすごくぼくを怒っているそうだから、顔を合わせるわけにはいかない。
ぼくは戸口のところで話の内容だけ聞いていた。
「曇っているのでしょうか。どれ、拭いてあげましょうか」
これはお父さんの声だ。
「いや、今拭いたばかりだよ。あのボウズのせいで目まで痛めてしまった。
初級翻訳・いたずら小僧日記 第11話
いたずら小僧日記
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