初級翻訳・いたずら小僧日記 第10話

いたずら小僧日記

朝ご飯が済んでから、ぼくは凧を持って出かけた。
ぼくの凧はまわりの連中のより大きいんだけど、糸をつけるバランスが悪いみたいで、あっちへふらふら、こっちへふらふらしてどうしようもない。
「この子は凧を揚げてるのか、それとも引きずり回してるのか」と、どこかの生意気なやつが言った。
はじめは郵便屋さんの頭の上に落ち、その次は馬の鼻の頭に落ちた。
郵便屋さんは怒っただけで済んだからよかったけれど、馬のやつは事情がわからないものだから、びっくりして大暴れしだした。
かわいそうに乗っていた人は放り投げられて気絶してしまった。
もしかするとそのまま死んでしまうかもしれないけれど、まあ大体は生き返るだろう。
もし生き返ったら、これからは凧を揚げているところを馬に乗って通らないように気を付けるこった。
もう往来で凧を揚げるなと怒られたから、ぼくたちは教会の裏の空き地へ行った。
しばらくはいい感じで揚がっていたんだけど、ついにぼくの凧が木に引っかかってしまった。
いくら引っ張っても取れそうにない。
ぼくは木登りは得意だけど、登るお母さんに叱られるから、忠公に頼んで取ってもらった。
忠公は最初は怖がっていたけれど、「お前は男だろう!」と言ったら、仕方なしに登って取ってくれた。
ぼくは凧を取ってくれと頼んだだけで、落ちて足をくじけなんて頼んでないぞ。
本当にめんどくさいやつだ。
余計なことばかりしやがる。
取ってきたら十銭やる約束だったけれど、もうやらないからちょうどいい。
森川さんが家にやってきて、隣の忠公は大怪我をしていて、下手すると足が不自由になってしまうかもしれないと言った。
ぼくはさすがにかわいそうだからお見舞いに行こうとしたが、忠公のお母さんはぼくの顔を見るのも大嫌いなんだそうだ。
そして、忠公の足が治り次第、もっと安全などこか遠くへ引っ越すと言ってカンカンに怒っているそうだ。
お母さんは夕方まで隣の家に行っていたけれど、夜は早めに布団に入った。
頭痛がして気分が悪くなったんだそうだ。
隣の忠公が足を怪我したっていうのに、うちのお母さんが頭痛で寝込むなんてなんだか変な話だ。
今日は一日中、家の外に出てはダメだと言われたから、おとなしく本を読んでいた。
するとお父さんが突然上がってきて、ぼくの首筋をぐっと掴むと、蔵へ連れて行って外から鍵をかけてしまった。
おとなしく勉強しているというのに、ひどいことをする。
お島が昼ご飯を持ってきてくれたときに聞いてみたら、ぼくは忠公の足が治るまで蔵の中に閉じ込められておくんだそうだ。
忠公はいったいつ治るんだろう。
きっと、お父さんたちはいつまでもぼくをここに閉じ込めておくつもりだから、わざとなかなか治らないでいるに違いない。
あんなろくでもない友達を持つと、本当にいい迷惑だ。
今日はものすごく凧がよく揚がった。
風が強いから持っている糸をぜんぶ繰り出したものだから、うっかりするとこっちが引っ張られそうだ。
揚がらなくても骨が折れるけれど、こううまく揚がりすぎると、支えているだけでこっちがくたくたに疲れる。
お昼になっても家に帰らなかったから、お腹がペコペコだ。
そうかといって、こんなに勢いよく揚がっている凧を手放すのはあまりに悔しい。
こういうときには忠公がいれば便利なのに、仕方がない。
木か何かにでも結びつけておいて家に帰ろうと、あたりを見回した。
すると、五、六歳の可愛らしい女の子が、ぼくの凧をじっと見上げていた。
いったい誰の子だろう。
教会の老爺さんの子どもかな。
今考えてみると、この子はとんでもないところに出くわしちまったもんだ。
ぼくは女の子に甘い言葉をかけて、凧の糸をその胸にぐるぐると巻きつけた。
そして、「ぼくが戻ってくるまで、この木につかまってておくれよ」と言って、自分だけ家に帰った。
お島からビスケットをもらって教会の裏へ戻ってみると、女の子の姿はどこにもない。
だけど空を見上げると、凧はさっきのままで高く揚がっている。
これは変だなと思って糸をたぐりながら教会の表側へまわってみたところ、ぼくは肝を潰してひっくり返りそうになった。
なんと、糸が教会の塔に絡まっていて、あの女の子が屋根から宙吊りになっているではないか。
もしここで糸が切れたりしたら、間違いなく下の石畳にまっさかさまに落ちてしまう。
かといって、もし糸がスルスルとほどけたりしたら、女の子はきっとそのまま天国まで昇っていってしまうぞ。ぼくは大声を出して人を呼んだ。
教会の老婆が飛び出してきて、腰を抜かした。
後で聞いた話だと、このおばあさんは子どもが空中にぶら下がっているのを見て、いよいよ天国がやってきたんだと思ったそうだ。
そのうちに五、六人駆けつけてきて、子どもは何事もなく助かったけれど、ぼくの凧は今も上がったままだろう。
あの塔の頂上まではとても取りに行かれないから、諦めるしかない。
もしかすると今頃は塔を引きずりながら天まで上っていったかもしれない。
とにかく、あの凧は惜しいことをしてしまった。
今日は日曜日で、お歌さんと一緒に教会へ行った。
牧師さんの説教でも聞けばおとなしい良い子になれるだろうと思って、お母さんにそう話したら、お母さんは大層喜んだ。
けれどもお母さんは今日は来客があるというので、お歌さんに連れて行ってもらうことになったのだ。
牧師はものすごく長い説教をした。
ぼくは眠くなってしまった。
大人でも居眠りした人がいたくらいだ。
もう終わりにすればいいのにと思っても、人の心の中がわかるような男じゃないから平気で続けている。
「終わりに臨みまして……」と言ったからもう大丈夫だと思ったけれど、喜び損をさせやがやがった。
どうしてもやめない。
「どうぞ皆さん……」なんて言って「第一に」とまた最初からやり直しをしている。
もう喧嘩だ。
勝手にするがいいと思って、落とした讃美歌を取ろうとかがむと、ポケットに入れていたおもちゃのピストルが落ちた。
落ちただけならいいけれど、パチッと音がして破裂してしまったから、困ってしまった。
みんながぼくの方を見て怖い顔をした。
お歌さんはまっ赤になって、じっとしていらっしゃいと言った。
ぼくは自分のポケットの中に消えてしまいたいほど体裁が悪かった。
ピストルを拾いたいけれど、お歌さんが見張っているから手を出すことができない。
かといって膝の上へ両手を置いているのもお相撲さんのようで変だし、ぼくはズボンのポケットに手を突っ込んだ。
何かある。
ああこれは昨夜お客さんにもらった自動音楽箱だなと気がついたときには、もう「一つとや」を歌い出しやがった。
ぼくにはどうすることもできない。
いくら握っても「お飾り立てたり松かざりい松かざりい」をやっている。
お歌さんはぼくを引っ張って外へ連れ出した。
けれども外へ出たときにはもう鳴き止んでいた。
意地の悪いおもちゃだ。
「太郎さん、本当にあなたにはどうしようもないねえ」
と姉さんは泣きそうな顔をした。
ぼくだって本当にどうしようもなかった。
どうしてぼくはこう運が悪いのだろう。
せっかくめったに教会へ行けば二度と顔出しのできないようなことが起きる。
そしてみんながあの子は良くない良くないと言う。

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