台所も貯蔵室も食べものでいっぱいで、こんな運命のめぐり合わせに感しゃすべきじゃよ。」
いよいよ結婚式の日取りが決まりました。
その当日に、モグラはおやゆび姫を地中深くに連れていくつもりでした。
いっしょに暮らすためなのですが、おやゆび姫はいやでした。
あたたかいお日さまがもう見られなくなるからです。
美しいお日さまに別れを告げなければならないのです。
それを考えると、悲しくてしかたがありません。
いままで、野ネズミは戸口に立ってお日さまをあおぐことだけはゆるしていました。
おやゆび姫は最後の一回、とお日さまを見に行きました。
「さようなら、明るいお日さま。」と、おやゆび姫は声を張りあげ、お日さまへ腕をぴしっとまっすぐのばしました。
それから野ネズミの家の周りを少し歩いてみました。
というのも、もう麦はかり取られていて、残っているのはひからびたきりかぶだけだったからです。
「さようなら、さようなら。」と、おやゆび姫は何度もくり返しました。
そして近くに生えている小さな赤い花をだきしめました。
「もしあのツバメさんに出会ったら、あなたからよろしく言ってね。」
「キーヴィ、キーヴィ。」とつぜん上の方から声が聞こえました。
おやゆび姫は空をあおぎました。
すると、手のとどきそうなところにそのツバメが飛んでいるのです。
ツバメはおやゆび姫を見つけると、すぐによろこんで地面におりたちました。
それからおやゆび姫はツバメにこれまでのいきさつを話しました。
たちのわるいモグラと結婚するはめになって、地下深くで暮らすことになったので、これからは明るいお日さまが見れなくてしょぼんとしているということを。
しゃべりつづけていると、おやゆび姫はいっそうしくしく泣くのです。
「寒い冬がもうそこまでせまっている。」と、ツバメは言いました。
「そしてぼくは南の国へと旅立たなきゃいけない。
ぼくといっしょに行きますか? 背中に乗ってください。
そして腰のリボンで自分をしっかり結びつけてください。
そうしたら、ぼくらはモグラからも、どんよりとした部屋からも飛び出すことができる。
――飛びだして、山を越えて、あたたかい南の国へ、お日さまがさんさんと、さんさんと照り輝く場所へ飛んでいくことができる。
こことはくらべものにならないよ。
そこはいつも夏のようで、花たちはとてもゆうがに咲き乱れているんです。
ぼくと飛んでいこう、おやゆび姫。
君はぼくの命を救ってくれたんだから。
あの暗い通路で凍え死んでいたぼくを。」
「――ええ、わたし、あなたといっしょに行きます。」と、おやゆび姫は言いました。
そして鳥の背中に座って、空いっぱいに広げたつばさの上に足をかけて、そして一番丈夫な羽の一つに腰のリボンをくくりつけました。
ツバメは大空へと舞い上がりました。
森を越え、海を越え、万年雪におおわれた山々を越え、飛んでいきました。
空気は冷たく、こごえそうでした。おやゆび姫は鳥のあたたかい羽毛の中にもぐりこんで、頭だけ羽の中から出しました。
そうして、通りすぎていく美しい国々におどろき、感動しました。
こうして、やっとあたたかい国にたどりつきました。
そこではお日さまが明るくほがらかに輝いて、空はどこまでもすきとおって見えました。
細い道のそばに森があって、むらさき、みどり、白のブドウや、レモンやオレンジなども森の木々からぶら下がっていました。
ミルテやペパーミントのかぐわしい香りもただよってきます。
森の間の小道では、とても楽しそうに子どもたちが走り、大きくきらびやかなチョウチョ一羽とじゃれあっていました。
ツバメがますます遠くに飛んでいくにつれて、どの場所もなおさらすてきに思えるのです。
ようやく二人は青い湖のところへやってきました。
ほとりには青々とした木々が立っていて、湖にかげを落としていました。
そこに、宮殿がありました。
遠い昔に建てられて、目がくらむほど真っ白な大理石でできていました。
ふさのついたブドウのツルが、宮殿の長い柱にからみついていました。
その頂上にたくさんのツバメの巣がありました。
その中に、おやゆび姫を連れてきたツバメの家があるのです。
「これがぼくの家だよ。」と、ツバメは言いました。
「でも、君に住んでもらうために作ったものじゃないから、あんまりくつろげないかな。
あそこにすてきな花がいっぱいあるでしょう。
あの中から一つ選んでくれませんか。
その上に下ろしてあげるよ。
ぼくは君が幸せになるためなら、どんなことだってしないからね。」
「とっても、うれしいわ。」と、おやゆび姫は言いました。
うれしくて、思わず手を合わせました。
地面に、大理石の柱が三つに折れて倒れていました。
もともとは一本だったのですが、くずれて倒れるときにポッキリと折れてしまったのです。
その三本の柱の間に、何よりも美しい大きな白い花がいくつも咲いていました。
ツバメはおやゆび姫と下におりていって、大きな花の上に乗せました。
おやゆび姫はとてもびっくりしました。
花の真ん中に、小さな人がいたからです。
その人は、水晶みたいに白くすきとおっていました。
頭の上に金のかんむりをかぶって、背中にゆうがなつばさがついていました。
そして、おやゆび姫と同じくらいの背の高さでした。
実は、その人は花の妖精でした。
どんな花にも、そういう男の人と女の人が二人住んでいるのです。
その中の王様が、この人なのです。
「まぁ、なんとお美しい方!」と、おやゆび姫はツバメに小声でささやきました。
その小さな王子さまははじめ、巨人のように大きい鳥を見て、ひどくおびえていました。
王子さまもそれだけ小さな人間なのです。
でも、王子さまはおやゆび姫を見ると、とてもよろこびました。
こんなにきれいな女の子は今まで見たことがない、と思ったのです。
王子さまは金のかんむりを外して、おやゆび姫の頭にかぶせました。
そして王子さまは、名前を聞いたあと、こう言いました。
「どうか私のおよめさんになってくれませんか。
すべての花の、おきさきさまとなってくれませんか。」
むすこガエルや、ふわふわでぴかぴかの黒服を着ているモグラをおむこさんにするのとはくらべものにはならない、重みのある言葉でした。
おやゆび姫は、「はい。」とかっこいい王子さまに言いました。
すると、ぶわっとすべての花が咲いて、妖精たちが小さなおきさきと王さまのところへやって来ました。
みんなきれいで、二人を見てにこやかに笑いました。
みんなおやゆび姫におくりものを持ってきていました。
その中で一番のおくりものは、一組の美しいつばさでした。
大きく白いハエのつばさで、おやゆび姫の背中にぴったりとくっつけてくれました。
これで花から花へと飛びうつれるようになったのです。
そのあと、お祝いがありました。
あのツバメがお祝いの歌を頼まれて、もちろん引き受けました。
ツバメは二人の頭の上の巣の中で、じっと動かずにウェディングソングを歌いました。
自分のできるせいいっぱいの花むけだと思って歌いました。
ツバメはとても悲しいけれど、それをかくして歌いました。
心の中ではおやゆび姫を愛していたのです。
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