初級翻訳・おやゆび姫 第4話

おやゆび姫

そしてその毛布を抱えて、死んだツバメの眠る場所へとそっと運んでいったのです。
ツバメの体にその毛布をやさしくふんわりとかけてやり、野ネズミの部屋からこっそり集めてきたきれいな花を、そのそばにそっと添えました。
毛布はとてもふわふわしていたので、ツバメが冷たい地面のせいで寒くないように、体の下やわきの下にもちゃんと敷いてあげました。
「さようなら、かわいい小鳥さん……」
おやゆび姫は、ぽつりと言いました。
「どうぞ安らかに眠ってね。
夏のあいだ、木々がみんな青々と葉を茂らせて、あたたかいおひさまの光がまぶしく照っていたときも、私のためにあんなに楽しく歌ってくれて、本当にありがとう……」おやゆび姫は頭をツバメの胸の上にぴっとりと寄せました。
そのとき、ツバメの身体の中から、何かへんな音が聞こえて、いっしゅん不安になりました。
「ドクン、ドクン。」
ツバメの心臓の音だったのです。
本当は死んでなどいなかったのです。
寒さのために死んだようになっていただけで、ぬくもりが命を吹き返させたのです。
秋になると、ツバメはみんなあたたかい南の方へ旅立っていきます。
でも、もし何かのひょうしで一羽がぐずぐずしていて、冬になってしまったらどうでしょう。
寒さでカチンコチンに凍ってしまって、あたかも死んだようになってしまって、地面に落ちていきます。
その上から冷たい雪がおおい隠してしまって……
おやゆび姫はこわくてふるえました。
たったおやゆびくらいのおやゆび姫に比べて、ツバメはくらべものにならないほど大きかったのです。
おやゆび姫は勇気をふりしぼって、ぶあつくふわふわの毛布をかわいそうなツバメの上にかけました。
それから自分がベッドカバーとして使っているペパーミントの葉を取って来て、ツバメの頭にかぶせました。
次の朝、おやゆび姫はツバメを見ようもう一度こっそり抜け出しました。
ツバメは生きていましたが、とても弱っていました。
おやゆび姫を見ようと、しばらく目を開けるのがやっとです。
ツバメの目の中には、くさった木片を手の中ににぎりしめているおやゆび姫がいます。
手下げランプがなかったので、青く光る木を持ってきたのです。
「ありがとう、かわいいおじょうさん。」と、病気のツバメは言いました。
「ちょうどいいあたたかさだったよ。
すぐに力がみなぎってきた。
もういちどあたたかい日ざしのなかで飛べるよ。」
「まぁ、外は今も寒いわ。
吹雪よ。
このままあたたかいベッドの中にいてください。
わたしがあなたをお世話しますから。」と、おやゆび姫は言いました。
それからおやゆび姫は花びらに水を入れて、ツバメのところへ持っていきました。
ツバメは水を飲むと、話を始めました。
「ぼくのつばさの片方はトゲで傷ついているんだ。
だから、みんなのように早く飛ぶことが出来なくなった。
みんなみたいにあたたかい南の国へ旅立てないんだよ。
それからついに地面に落ちて、それから後はおぼえていないんだ。
どうやって君が見つけてくれた場所に来てしまったかも。」
冬の間ずっとツバメは通路の中にとどまっていました。
おやゆび姫はせいいっぱい世話をするうちに、ツバメが好きになってしまいました。
しかし、モグラも野ネズミもこのことは何も知りません。
というのも、二人はツバメが気にくわなかったから、気づきもしなかったのです。
あっという間に春がやってきて、お日さまが地面をぽかぽかさせました。
ツバメはおやゆび姫にお別れのあいさつをしました。
おやゆび姫はモグラが前に作った天井の穴を開けました。
お日さまは二人の頭上にさんさんと照っていました。
ツバメはおやゆび姫に、「ぼくといっしょに行きませんか?」と聞きました。
「君の大きさなら、ぼくの背中に乗れますよ。
ぼくといっしょに、遠くの『緑の森』へ行きましょう。」
でも、おやゆび姫は行ってしまって野ネズミを一人きりにすれば、とっても悲しむにちがいない、とわかっていました。
だからおやゆび姫はこう言いました。
「ごめんなさい、遠りょしておきます。」
「ごきげんよう、そしてさようなら。
君はほんとに優しくかわいいおじょうさんだ。」と、ツバメは言いました。
そして太陽の光の中へ旅立っていきました。
ツバメを見送るおやゆび姫の目には、なみだが浮かんでいました。
おやゆび姫はあのかわいそうなツバメが大好きだったのです。
「キーヴィ、キーヴィ。」と、ツバメは歌いながら、『緑の森』へ向かって飛び立っていきました。
おやゆび姫はとても悲しみました。
あたたかいお日さまの下に出ることは、許されませんでした。
畑にまかれたたね麦は、空に向かって高く伸びていき、ついには野ネズミの家の屋根を越えました。
親指くらいの背しかないおやゆび姫には、大きく深い森でした。
「おやゆび姫、お前さん結婚するんじゃよ。」と、野ネズミは言いました。
「おとなりさんがね、お前さんが必要なんじゃって。
なんて運がいいんじゃろね、何もないお前さんが、一日で大金持ちになるんじゃから。
今ね、お前さんのウェディングドレスを用意しているんじゃ。
それに毛糸と、リンネルのたんものを作らんとね。
モグラの花よめになる前に、必要な物はみんな用意するんじゃよ。」
おやゆび姫は糸車を回して、糸をつむがなければなりませんでした。
野ネズミは働き者のクモを四ひきやとって、昼夜をとわず布をおらせました。
毎晩モグラはおやゆび姫をたずねてきました。夏も終わりにさしかかると、ふたりはしきりに結婚式の日取りのことを口に出しました。
もうそのときに、モグラはおやゆび姫と結婚式をあげると心に決めていたのです。
「今年の夏は、日ざしが燃えるように強いんだ。
そのせいで地面が石みたいにカチコチになっている。
けれども、夏が終わって、地面がカチコチでなくなったら、わたしたちで結婚式を挙げるのですよ。」

しかし、おやゆび姫はちっとも嬉しくありません。
というのも、あのやっかいなモグラが好きでなかったからです。
毎朝お日さまがのぼるころ、毎晩お日さまがしずむころ、おやゆび姫は戸口からそっと外へぬけ出します。
すると、いつも風が吹いて、麦穂がばさっと横にたおれて、そのすきまから青空が見えるのです。
『外の世界って、とってもきれいで、なんて晴れ晴れしているんでしょう。』と、おやゆび姫は思いました。
『大好きなツバメさんにもういちど会いたいのです』

おやゆび姫は強く願いました。
でも、ツバメは二度と帰ってきません。
すてきな『緑の森』へ飛んでいってしまったのですから。
秋がやってきて、おやゆび姫のよめいり道具いっしきはみんなととのっていました。
そして野ネズミはおやゆび姫に言いました。
「ひと月したら結婚式をあげるわよ。」

おやゆび姫はひっきりなしにしくしく泣きました。
「モグラさんとは、気が合わないの。
だから、結婚したくありません。」と、言いました。
「ばかなことを言うんじゃないの。」と、野ネズミは返事しました。
「今はいこじになっちゃだめじゃ。
さもないとこの白い歯でかみつくよ。
あんなイイ男そこいらにはいないんじゃ。
女王さますらあんなきれいでぴかぴかの服とか、毛皮は着ないんじゃよ。

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