初級翻訳・かしはばやしの夜 第3話

かしはばやしの夜

「第七等賞、なまりのメタル!」
「わたしがあとをつづけます!」
さっきの木のとなりから、すぐまた一本の柏の木が飛び出しました。
「よろしい、はじめ!」

柏の木はちらっと清作の方を見て、ちょっとバカにするように笑いましたが、すぐに真面目になって歌いました。

「清作は、ブドウをみんなしぼりあげ
 砂糖を入れて
 瓶にたくさんつめこんだ。
おい、だれかあとをつづけてくれ!」

「ホツホウ、ホツホウ、ホツホウ!」
柏の木どもは、風のような変な声を出して清作をひやかしました。清作はもう飛び出して、みんなを片っぱしからボコボコにしてやりたくてウズウズしましたが、画権利がしっかり前に立ちふさがっているので、どうしても外に出られませんでした。
「第八等、ブリキのメタル!」
「わたしが次をやります!」
さっきの木の隣から、また一本の柏の木が飛び出しました。
「よし、はじめっ!」
「清作が 納屋にしまったぶどう酒は
 順序正しく
 みんなはじけてなくなった。」
「わっはっはっは、わっはっはっは、ホツホウ、ホツホウ、ホツホウ。がやがやがや……。」
「やかましい! お前ら、なんで他人の酒のことなんか覚えてやがるんだ!」
清作が飛び出そうとしたところを、画家にしっかり掴まえられました。
「第九等賞、マッチのメタル! さあ、次だ次だ、出るんだよ! どしどし出るんだ!」
ところがみんなはもうシンとしてしまって、一人も出るものがいませんでした。
「これはいかん! 出ろ、出ろ、みんな出ないといかん! 出ろ!」
画家は怒鳴りましたが、もうどうしても誰も出ませんでした。
仕方なく画家は、
「今度はメタルのすんごくいいやつを出すぞ! 早く出ろ!」
と言いましたら、柏の木どもは初めてざわっとしました。
そのとき、林の奥の方でさらさらと音がして、それから、
「のろづきおほん、のろづきおほん、
 おほん、おほん、
 ごぎのごぎのおほん、
 おほん、おほん」
と、たくさんのフクロウたちが、お月さまの明かりに青白く羽を翻しながら、するすると出てきて、柏の木の頭の上や手の上、肩や胸に一面にとまりました。
立派な金のモールをつけたフクロウの大将が、音も立てずに上手に飛んできて、柏の木大王の前に出ました。
そのまっ赤な目のクマ(目つき)が、実に奇妙に見えました。
相当の年寄りらしいのでした。
「今晩は、大王どの。また高貴なお客さまたち、今晩はちょうどわれわれの方でも、飛び方と掴み裂き術の大試験であったのだが、ただいまやっと終わりましたのじゃ。ついてはこれから連合で、大乱舞会をはじめてはどうじゃろう。あまりにも妙なる歌の調べが、われらの円居(まどい)の中にまで響いてきたによって、このようにまかり出ましたのじゃ。」
「妙なる歌の調べだと、この畜生め!」
清作が叫びました。
柏の木大王は聞こえないふりをして大きくうなずきました。
「よろしいござる。すこぶる結構でござろう。いざ、早速とりはじめるといたそうか。」
「されば、」
フクロウの大将はみんなの方に向いて、まるで黒砂糖のような甘ったるい声で歌いました。
「からすかんざえもんは
 黒い頭をくうらりくらり、
 とんびとうざえもんは
 油一升でとうろりとろり、
 その暗闇はふくろふの
 いさみにいさむものふが
 みみずをつかむときなるぞ
 ねとりを襲うときなるぞ。」
フクロウたちはもうみんな夢中になって叫びました。
「のろづきおほん、おほん、おほん、ごぎのごぎおほん、おほん、おほん。」
柏の木大王が眉をひそめて言いました。
「どうもきみたちの歌は下等じゃ。君子の聞くべきものではない。」
フクロウの大将は変な顔をしてしまいました。
すると、赤と白の綬(リボン)をかけたフクロウの副官が笑って言いました。
「まあ、今夜はあんまり怒らないようにいたしましょう。歌も今度は上等のをやりますから。みんな一緒に踊りましょう。さあ、木の方も鳥の方も用意はいいか!」
「おつきさんおつきさん まんまるまるるるん
 おほしさんおほしさん ぴかりぴりるるん
 かしははかんかの   かんからからるるん
 ふくろはのろづき   おつほほほほおん。」
柏の木は両手を上げてそりかえったり、頭や足をまるで天上に投げあげるようにしたりして、一生懸命踊りました。
それに合わせてフクロウたちは、さっさと銀色の羽をひらいたり閉じたりしました。
それが実にうまく合ったのでした。
月の光は真珠のように少しおぼろになり、柏の木大王も喜んですぐに歌いました。
「雨はざあざあ ざつざざざざざあ
 風はどうどう どつどどどどどう
 あられぱらぱらぱらぱらつたたたあ
 雨はざあざあ ざつざざざざざあ」
「あっ、だめだ、霧が落ちてきた!」
と、フクロウの副官が高く叫びました。
なるほど月はもう青白い霧に隠されてしまって、ぼおっと円く見えるだけ。その霧はまるで矢のように林の中に降りてくるのでした。
柏の木はみんな度を失って、片脚を上げたり両手をそっちへ伸ばしたり、目を吊り上げたまま化石したように突っ立ってしまいました。
冷たい霧がさっと清作の顔にかかりました。画家はもうどこへ行ったのか、赤いシャツのしっぽだけが外にヒラヒラと出ていて、本体は影も形もなくなっていました。
霧の中を、まだ上手に飛ぶ術(すべ)を覚えていないフクロウたちが、バタバタと慌てて逃げていく音が聞こえました。
清作はそこで、やっと林の外に出ました。
柏の木たちはみんな、踊っている途中のポーズのまま、悔しそうな横目で清作を見送りました。
林を出てから空を見上げると、さっきまでお月さまがあったあたりがやっとぼんやりと明るくなっていて、そこを黒い犬のような形をした雲が通り過ぎていきました。そして、林はずっと向こうにある沼の森のあたりから、
「赤いシャツのカンカラカンのカアン!」
と、画かがりが力いっぱい叫んでいる声が、かすかに聞こえてきました。

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