初級翻訳・さるかに合戦と桃太郎 第2話

さるかに合戦と桃太郎

先生から押し付けられた植物学は、十分に運動場ではね回ったあとには、もうすっかり忘れてしまうかもしれないが、一時間植物とにらめくらをしたというそのことの効果は生涯に残るということが可能である。
おとぎ話も植物の標本も、私たちに教えてくれるものは人間と自然の事実である。
私たちはその事実を正しく認識するのが第一である。
先生は黙って子どもたちとともにその事実をじっと見つめればそれで十分ではないかと思うのである。
私たちの子供のころには、おとぎ話はおとぎ話としてなんらの注釈なしに教わった。
そして本当に同じ話を何十回何百回も繰り返して教わったものである。
そうしてそれらの話の中に含まれている事実と法則とが、いつの間にか自然と体に染み込んでしまって、もはやもとの形は少しも残らなくなっているが、しかし実際はそれらのものの認識が私たちの体の隅々まで行き渡って、私たちの知恵の重要な成分をなしているのである。
もしもこれらのおとぎ話を、形が曲がったサザエの殻にでも詰め込んで丸飲みさせられていたのであったら、とうの昔に体の外に排泄されてどこかよその畑の肥料にでもなっていたことだろうと思う。
(昭和八年十一月、文芸春秋)

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